霧、雪に出逢う

※ フラン君との出逢い編!




此処に行きなさい、そしてこれを渡しなさい、と師匠に言われた屋敷と人物を目指したは良いけれど。

「なんなんですかー、このトラップの多さは」

木の幹に身体を預ければレーザーが吹っ飛んでくるし、先ほどからじりじりと警報が鳴り響く。
なんだこれは、なんなんだ。
ふ、と静かにため息を吐いて、それからさっと位置を変えた。
しゅとと、と先ほどまでの位置に矢が刺さる。
………ちょっと、待ってほしいですねー。

「これは一体どういう『歓迎』なんでしょうかねー」

ぼそり、呟く。
それから、木の枝を蹴り、大きく飛んで地に足を着けた。
ちりん、と鳴り響いたのは防犯の鈴か、それとも───。

「───あ、」

ちりん、もう一音、響く。
そこに居たのは1人の少女───少女? いや、違う。女性だ。
1人の女性が、庭に植えたミントに手を伸ばしている。
その手首に、赤い太めの縄に括り付けられた鈴があった。
先ほどまでの音色は、それが鳴っていたらしい。

「………どちら様?」

ちりん、もう一音。
振り返った女性は、アジア人。
艶やかな長い黒髪を持った、普通の女性だった。

「あ。君、もしかして、フラン君?」
「へ、」
「骸くんなら先に来てるよ。───それにしても、骸くんったら酷いよねぇ。お弟子さんに大変な道を教えるなんて」
「……どういう意味です、それ」
「え、だって、裏口にトラップがあるのは普通でしょう?」

だってここ、元々は九代目のお屋敷だもの。
そう言って小首を傾げながら笑った女性に、思わず口を閉じた。




☆ ☆ ☆ ☆




「元々有ったトラップをね、コロネロさん達が面白がって複雑にしちゃったの」
「はぁ」
「だから私も解除方法を知らなくて、困ってるんだ」

とぽぽ、と暖かい紅茶を淹れながら、女性が呟く。
まぁ、あれでも殆ど綱吉達が破壊してくれたんだよ、と要らない情報を言いつつ、紅茶を差し出してきた。

「どっちも『達』なんですねー」
「ユニとマモ君以外のアルコバレーノ達が前者で、綱吉とザンザスさんが後者だよ」
「ボス、ですかー?」
「後、骸くんもでしたっけ?」
「僕はほんの一部ですよ、静玖さん」

一部でもやったんかい、という突っ込みを飲み込んで、その暖かい紅茶を一瞥した。
目の前で師匠が当たり前のように口を付けているのだから、毒が入っていないのはわかる。
だけれど、そう簡単にはそれには口を付けられない。

「あ、なんなら私が一口飲もうか?」
「!」
「良いよ、うん」

ミーの前に置かれたティーカップにそっと口付けた彼女は、当たり前のようにこくんと飲み干した。

「はい、どう?」
「………頂きます」
「………………まったく。なんて弟子ですか、君は。彼女に毒味をさせるだなんて」
「だったら師匠がしたら良かったじゃないですかー」
「なんで僕が君の身を案じなきゃいけないんですか」

尤もな意見に口を閉じる。
はてさて、

「あの、これ」
「………! あぁ、件のブツですね。届けてくれてありがとうございます、フラン君」
「クフフ。ようやく手に入りましたね、静玖さん」
「はい」

ふんわり、優しく笑う。
それから表情を引きしめ、ミーが師匠から渡されていたブツを隠すことなくぱかりと開けた。
中身を見て、満面の笑み。
ひどくマフィア関係者らしからぬ笑みに、ミーはそろりと視線を外した。

「ずっと取りに行きたかったんだけど、取りに行かれなかったんです。みんなして、私をイタリアから出してくれないから」
「仕方ありませんよ」
「で、何なんです、それ」

中を見るのがはばかれたので見ないでいたら、手渡したばかりの箱をこちらに向けてきた。
中身は………手紙?

「ヴァリアーの第2の『霧』」
「はい?」
「私のために先代の手紙を届けてくれてありがとうございます。後日、ザンザスさんにもお礼に伺います。私事に部下を遣わせて───使わせてくれて、ありがとうございます」

その一言にはっとした。
つまりこれは、ミーとこの人の顔合わせではなく、

(この人がヴァリアーの保護下にいるって知らしめるために、ですかー)

つまり、利用されたのだ。
む、と腹立たしくはなるけれど、別に彼女が悪いわけではない。
それにしても、

「静玖さん、そろそろ僕はお暇しますよ」
「2階奥の客間が空いてますよ」
「はい」

かたん、と立ち上がった師匠はそのまま居なくなった。
それを見送ってから、ちらりて彼女を見る。
間違ってもマフィアに関係する人間には見えない。だけれど、この屋敷が九代目のものであるならば、間違いなくマフィアに関係する人間だ。

「貴方はいったい『誰』ですか」
「………私は先代の『雪』、柚木静玖だよ」
「ゆき、さん」

属性を口にすれば、彼女───雪さんはくすりと楽しそうに笑った。

この意図的に会わされた縁は、思いの外長く続くのだった。












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フラン君出逢い編を! と言うわけでちゃっかりいろいろ捏造を。
時間軸的には骸くんがグロにやられる前を想定しています。
リクエスト、ありがとうございました!



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