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イタリア、ヴァリアーの下に居るようになって、驚いたことがある。
よくわからないけれど、すっごく好待遇なのだ。
別になにを望んだわけでもないのに、気が付けば服だのなんだのとイロイロ揃ってる状態だし、隊員の皆さんはとても優しい。
1つ不満があるとすれば、1人で街中を闊歩できないことだけど、それはさほど重要じゃあないし、何より、守ってもらっているのにワガママは言えない。
ツーちゃんと静玖は、無事なのかな。
隊員さんが言うには無事らしいけど、やっぱりお姉ちゃんとしてはその姿を見て安心したい。
でもなぁ、そこまで深い情報、こっちには入ってこないんだよねぇ。

「なぁに、悩んでるんですかー」
「フラン」
「まぁ、ミーには関係ないですけど。あ、でも鬱陶しいんでその辛気臭い顔は止めて下さいねー」

無表情のままに言われ、カチンときた。
初めて会った時からこうだけど、彼はわたしが嫌い、なのかな。
………正しく言うなら、未来のわたしが、だけど。
そんなことよりも、

「フラン、あの子の指輪はどこ?」
「貴方には関係ありませーん」

ふいっと顔を背けて答えられる。
なんっ、なんなの、それ!

「あれはっ、わたしがあの子から預かった大切なものなの! その行方をわたしが知らないなんておかしいじゃないっ!」
「だから?」
「っ、」

冷めた目がこちらに向く。
悪意も嫌悪も、当然好意の欠片もない無の瞳に身体を震わせた。
自惚れているわけではないけれど、わりと人には好かれる方だから、こういった『目』を向けられ慣れていないので対応のしようがない。

「処分はしてませんよー。あれは今だって雪さんの宝なんですから」
「『雪』って、あの子のこと………?」
「そうですよー」

悔しいぐらいに思い知らされる。
わたしは静玖と姉妹なのに、静玖のことを何も知らないんだって。
悲しいな、悔しいな。
くっと唇を噛めば、こんこん、と部屋のドアを叩く音が響いた。
はっとなって顔を上げ、どうぞ、と言えば、ドアが開く。
そこに現れた人物に、わたしはゆっくりと目を見開いた。

「了平………?」
「深琴………」

すっかり大人になった(いや、ここは未来なんだから大人で当たり前なんだけど)了平がそこにいた。
わたしを見て、困ったように苦笑して、室内に入ってくる。
少し変わってしまったけれど、ちゃんとした、と言ったらおかしいけれど、知り合いに会えたことが嬉しくて、思わず満面の笑みがこぼれた。

「深琴………」

くっと眉を寄せた了平は、そのまま頭を下げた。
え、と目を見開く。なんで了平がわたしに対して頭を下げるんだろう。
意味がわからない。

「すまん。巻き込んだ」
「了平が謝ることじゃないよっ」
「それでも、」

巻き込まれたわけじゃない。
ツーちゃんに引っ付いていたかったのはわたしの方だ。
だから、了平が謝る必要なんてどこにもない。

「そういうところは、さすが姉妹って感じですねー」
「は?」

フランから漏れた本音に思わず反応すると、了平にぽんぽんと頭を叩かれた。
わたしと、静玖が似ている………?
あまり言われたことのない台詞に、ぱちくりと目を瞬かせた。

「深琴の保護、感謝する」

フランに了平が頭を下げる。
え、なんで了平が頭を下げるの?

「深琴は沢田のファミリーだからな。だが、ヴァリアーは今、九代目直属だ」
「???」
「当代直属じゃないところがミソなんですよー。………だから別に、ミー達は貴方を見捨てても良かったんですー」
「っ?!」

あっさりと言われた言葉に肩を震わせる。
あの日あの時、彼らが助けてくれなかったら───………?
考えるまでもない。わたしは死んでいた。
知らない土地で、誰にも知られないままに、未来で死んでた。
ゾクッと背筋が凍って、かたかたと身体を恐怖で震わせる。
するとすっと了平がわたしの肩に手を回して、優しく抱(いだ)いてくれた。

「でも貴方は、雪さんの姉ですからねー」
「静玖………? どうしてそこで静玖の名前が?」
「アイツは、九代目ファミリーだからな」
「え………?」
「今は亡き、九代目のものだから、な。だからこそアイツは今、ヴァリアーの保護下にいる」

静玖が、九代目ファミリー………?

「それってどういう、」
「そこから先は本人に聞いた方がいい。───深琴、」
「了平?」
「極限急いで支度だ。一緒に日本へ行こう」
「え、」

目の前に掲示された行き先に、わたしは迷うことなく頷いた。




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