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だぁんっと勢いを付けて開けられた扉にびくりと肩を揺らしました。
ぜぇぜぇと肩で息をしていたのは───、

「あ、」

ツナさんの幼なじみの柚木さん。
なんで彼女がここに………?

「あー、えと、ミウラ、さん、だったっけ?」

今尚肩で息をしている彼女は、ぐいっと汗を拭いながらこちらをじいっと見てきます。
あの、え、え………?

「ハルは確かに三浦ハルですけど」
「そうそう、三浦ハルさん。ねぇ、綱吉知らない?」
「───知らない、です」

知っていても、知らせたくない。
なんででしょう、ハルはとても柚木さんが苦手です。
理由はわからないけれど、苦手なのです。
一番何が苦手かって、ツナさんを「綱吉」と呼ぶその姿です。
だって、だってその呼び方は、『特別』ですから。
ツナさんをその名で呼ぶのは柚木さんだけ。
だから、だから嫌なんです。
駄目なんです。苦手なんです。
それ以上の理由は、何一つわからないけれど………───。

「ふぅん、そう。そっか、わかった」
「わかった、ですか?」
「うん。じゃあ、自分で捜すよ。お手間掛けました」

ぺこんっと頭を下げた柚木さんは、ふわっと笑ってから踵を返した。
そうやって臆することなく自らの足で歩いていくその姿を見送るのも、苦手です。
でも、

(京子ちゃんが『格好良い』って言っていた理由はわかる気がします)

颯爽と居なくなったその姿はもう見えないのであった。












ぼすんっと腹に何かに当たって、相手が転けた。
肩に乗った小僧があ、と小さく声を漏らしたからこそ下を向けば、いてて、と小さく漏れる痛みを訴えたそれ。
───あ、

「静玖?」
「………山本君?」

ちらりとこちらを見上げてきたのはやっぱり静玖で、俺はきょとん、と目を丸くした。

「どうした? 雲雀んトコにいんじゃないのか?」
「雲雀先輩のところには居たけど、今はその、綱吉に会いに来たんだ」
「ツナに?」
「そ、綱吉に」

立ち上がりながらぱんぱんと埃を払う。
それから再びこちらを見上げてきた。

「静玖」
「はぁい?」
「フィーのおしゃぶりはお前が持っていたな」
「うん。リボ先生に預ける?」
「いや、預けるなら俺よりもラルだな」

ラルさんって誰、と首を傾げる静玖に、思わず声を上げて笑った。
笑い出した俺に、静玖も小僧も首を傾げる。

「なに、山本君」
「いや、変わんねえなぁってさ」
「………?」

変わってるはずがないとはわかってる。だって変わるほどの日数は経ってない。
からから笑う俺を眉を寄せて見てきた静玖の頭をぼすぼすと叩いて、ツナの居るだろう場所を呟く。
静玖はぱちぱちと瞬いてから、

「ありがとう、山本君」

助かった、と言わんばかりの優しい笑みに、俺も笑みを返す。

「じゃ、行くね」
「あぁ」

踵を返したあいつに、そっと笑みを1つ。
やっぱり、

「あいつらは揃ってるのが1番だな」

1人だけのその背は、やっぱりどこか寂しそうで、俺はついと目を細めるのだった。












ぱたぱたと軽やかな音を立てて私は走る。
あぁ、もう、綱吉、どこにいるの。
会いたい、会いたい。
会って。
触れ合って。
話をして。
寄り添って。
今はただ、彼の傍に在りたいのだ。

「───静玖!」

振り返る。
そこに居たのは、私と同じように肩で息をして、汗を流す綱吉の姿。
こん、とリコリスが1声鳴いた。
それがきっかけ。

「綱吉………!」

彼に、綱吉に飛びついた。
反動を付けすぎたためか綱吉の身体が少し揺れる。
だけどそれも気にせずお互いの背に腕を回して抱き合う。
───帰ってきた。
どこに行っていたわけではない。だけど、私は確かに『帰ってきた』のだ。
涙が出そうになる。

それだけ私の『心』が孤独の中に居たのだと理解したのは、もう少し後。



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