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切れ長の細い瞳より高い位置に切られた前髪。
もっさりとしていた髪も短くて、その鋭利な空気をさらに引き出していた。
見上げても、視線は合わない。いつもよりさらに見上げて、やっと視線が合うぐらい。つまり、背が高くなっているということ。
そして何より、

「学ランじゃない………」
「学生じゃないからね」
「っ、」

くす、と楽しそう───愉しそうに笑う雲雀先輩に、眉を寄せた。………困惑からだ。
腰にしっかりと回された腕は解けそうにないし、どうしていいかわからない。
恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。否、出てる。
ああ、もう………!!

「ひば、雲雀先輩っ………」
「うん?」
「ななな、何なんですか、この状況………!!」

なんで雲雀先輩が学生じゃなくって、身長が高くなっていて───成長をしていて、私は未だに彼の腕の中にいるの!

「約10年後の世界、だよ」
「ふへ………? え、あれ、え………?」
「そう。未来、だよ」
「みら、」

みらい。
未だ来たらぬ、未だ来ず、だから、未来。
………………………え?

「みら、未来? 未来、ですか?」
「そう」
「なん、え? ………なんで???」
「君は存在も仕組みも知らないからね。『10年バズーカ』に当たると、10年後にやってくる」
「は、はぁ………」
「ま、詳しい話はまたいずれ。身体の調子はどうだい?」
「え………?」

身体の、調子………?
ようやく雲雀先輩の腕が腰から離れた。
いざ自分の足で立とうとしても、足に力が入らない。
くらりと身体が傾げたところを、ぐっと腕を引かれ、再び雲雀先輩の腕の中に戻った。

「………そう」
「せ、せんぱ? 先輩?」
「身体に力が入らないだけ? 気分は?」
「だ、大丈夫、です」

自覚すると駄目だ。ぐるぐるしてきた。
ぱちぱちと目を瞬いて、それから雲雀先輩を見上げる。
つい、とその瞳が細められ、ふ、と静かに笑われた。

「苦しいかもしれないけど、行くよ」
「へ、」
「僕の並盛の秩序を壊す輩が居てね」
「ふえ?」
「だからほら、行くよ」

腕を掴んだまま、雲雀先輩歩き出した。
ぴぃ、と小さく鳴いたそれに顔を上げると、小さな黄色い鳥が羽根をはためかせている。
あ、可愛い。
そう思えるだけの余裕が出てきたので、ぐっと足に力を入れた。
大丈夫、大丈夫。
私は具合なんか悪くない………!!
ぐっと力を入れて、雲雀先輩につれられたままに歩き出して、そうして、息を飲んだ。
鼻を突く鉄の臭いに眉を寄せ、それから、倒れている人達が誰だかわかって悲鳴を上げそうになる。
だけどそれは、雲雀先輩が手に力を込めたそれに遮られた。
その刹那、雲雀先輩は指輪に炎を灯して、それを『箱』に注入する。
………え?
どしゅっと何かが飛び出していった。

「………!!」
「君の知りたいことのヒントをあげよう。彼らは過去から来たのさ」

一歩、雲雀先輩が前に出る。
飛び出したものが『箱』に戻り、ぱたむ、と蓋が自動的に閉じられた。

「………何やらあんた、詳しそうだな………。だが、ドンパチに混ぜて欲しけりゃ名乗るのがスジってもんだぜ」
「その必要はないよ」

一歩、さらに雲雀先輩が前に出る。
なぜか恐怖を抱いて、きゅう、と服の上からリングを握り締めた。

「僕は今、機嫌が悪いんだ。………君はここで咬み殺す」
「………んん。思い出したぜ、おまえはボンゴレ雲の───」
「………?」

雲雀先輩から視線が外され、私を見つめる。
何か驚くようにかすかに目を見開き、口を閉じた。

「あの子に何か用?」
「いいや、何でもねぇ。………あんたはボンゴレ雲の守護者、雲雀恭弥だ」
「だったら?」

すっと視線が外される。
何だったんだろう、今の。

「おまえにはうちの諜報部も手を焼いててね。ボンゴレの敵か味方か…、行動の真意がつかめないとかさ。だが、最も有力な噂によれば、この世の七不思議にご執心だとか」

え、なにそれ、雲雀先輩、可愛い。
いやいやそんなこと口には出来ない。
大丈夫、私は空気読めるし、空気にもなれる。

「匣のことを嗅ぎ回ってるらしいな」
「どうかな」

ボックス? 箱のこと?
───あ。
さっきの小さな『箱』のこと?
何かが飛び出たそれが、ボックス?
いや、ちょっとあまりにもそのまま過ぎやしないか。
突然の事態とその情報量に、頭がくらくらしてきた。
はぁ、とため息を吐くと、眩暈を起こす。
ぐっと、足に力を入れて立つと、頭の奥から、心の奥から、声が響いた。

『────めだ、』
「………?」
『駄目だ、俺の声を聞くな、静玖っ! アルコバレーノに近付くな!』
「フィー………?」
『ダメだ、お前では、俺の性質に飲み込まれ───!!』

どくり、と心臓が鳴った。
何か警鐘のようなものが頭の中を響きわたる。
いたい、苦しい、いたい───………!
『中』でフィーが喘ぐ。それは苦しみから逃れるための喘ぎ───抗いだ。

「っうぅ!!」
「! おい、静玖!」
「………ちょっと、なんで貴方があの子を呼ぶの」

頭を抱えてしゃがみ込んだ私を呼んだのは、雲雀先輩と対峙している人だった。
なんで私の名前を知ってるのかな、と疑問に思いながら、意識を手放した。

フィーが悲しそうにすまない、と謝ったのを最後に聞いた。



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