「君達は予定通り、ザンザスさん達のフォローを宜しくね」
ミルフィオーレ本部から逃げた私が再会したのはいつもの護衛メンバー。
『ボンゴレ』というだけで生きにくい今、彼らには焦燥の色が大きかった。
「雪姫、やっぱり私も行くよ」
「ううん、大丈夫。だから子雨、お願いだからヴァリアーに居て」
「だけど、」
「私との連絡係は君達がいいの。だから、ね?」
日本のボンゴレ支部に大人数でけしかけるわけにはいかない。
それに、彼らの名も顔も、そして私の存在も知られ過ぎてる。
「雪ちゃん」
「雲」
「頼まれたように出国届け出してきたから、これで日本に行けるよ」
「ありがとう」
私の姿に変装した雲からパスポートを受け取る。
これで日本に行ける。帰れる。
待っててね、『綱吉』。
ちゃんと、綱吉との約束を果たすから。
「ごめんね。だけど、このわがままだけは許して」
そう言えば、彼らが頷くのはわかっているから。
年を経た分、そういうところは狡賢くなったと思う。本当に。
「大丈夫。ボンゴレは屈したりはしない。あの人が今まで繋げてきて、綱吉が継いだんだもの」
「姫さま」
「私達がそういう未来を信じないでどうするの」
そうでしょ、と言えば、少しばかり彼らの表情が明るくなった。
そうそう、そういう表情だよ。
「だから私は、約束を果たしにいくの」
綱吉とした、私の人生を変える約束を果たしに。
「あ、そうだ。フランくんに伝えて。『程々にって伝言宜しく』って」
「はぁ、」
それじゃあ行ってくるね、と呟けば、彼らは厳かに頷いた。
日本に帰ってきてから、唖然とした。
ミルフィオーレの息が掛かった人が多すぎる。
そして何より、
(γさんが日本に来てるとか、ちょっとアレなんですけど)
そんなにボンゴレの日本支部は脅威か。
いや、それはそうか。
『綱吉』が来ているわけだし、なによりここは、雲雀先輩の地だ。
財団がある以上、敵はボンゴレだけではない。
ふ、と短いため息を吐いて歩き出せば、後ろからぐっと腕を引かれ、温もりに包まれた。
「随分遅かったね」
「雲雀先輩」
「ねぇ、聞いてる、人の話」
「ふふ、聞いてますよ、雲雀先輩」
片手にトンファーを持ったまま不機嫌に低い声を響かせる。
ミルフィオーレに行く前に会ったと言うのに、なんだかとっても久々だ。
「遅くなりましたけど、ちゃんと帰ってきたでしょう?」
「………そうだね。でも僕は待った」
「その怒りは白蘭にぶつけて下さいね」
私を引き止めた彼が悪い。
私は、綱吉の情報が入った時点で帰ってきたかったのに。
「ほら、先輩、機嫌治して下さい。γさんが来日してますよ」
「知ってるよ。今からそこに行くんだから」
「へ、」
「それに、君もそろそろ行くでしょ」
どこに、と言いかけて、その意味を理解した。
………そっか。予定としてはそろそろなのか。
「雲雀先輩、もう1つお願いが」
「何? 聞くだけは聞いてあげる」
「『私』のことも、宜しくお願いします」
「へぇ」
面白いこと言うね、と。
息が耳をくすぐるほどに近い位置で言われ、ぴくりと肩が揺れた。
「いいよ、わかった。じゃあ、行ってらっしゃい」
ぐんっ、と何かに腕を引かれた感覚に、私はゆっくりと目を閉じた。
「ひょわあわぁ!」
「うん、いらっしゃい。過去の柚木静玖」
これから頼んだよ、過去の私。