28

お父さんの出張は、本当にただの会社からの命令であってボンゴレ以下マフィアは全く関わってないみたい。そしてその隙を付いて三人は家に入ることにしたらしい。
それを教えてくれたのはフールミネさん………雷(ライ)だ。
私の手を引いて街中を闊歩する姿はいまいちしっくりこないような気がするけれど、まぁ、そうだよね。だって彼もマフィアだし。
一般人の、しかもそこら辺に石を投げればぽこんと当たりそうな中学生の手を引いているだなんて、しっくりこなくて当たり前だ。
でもまぁ、エスプレッソメーカーなんて中学生が手を伸ばせる代物じゃないから、雷に来てもらわないと買えなかったんだよね。
そう。
私と繋いでいない雷の手には、プレゼント用に包装されたエスプレッソメーカーが抱えられている。
男手があると楽だなぁ。
頼り切ってるのは実に申し訳ないけれど。

「雷、雑貨屋も寄りたい。綱吉とリボ先生にお揃いのマグカップを買いたいんだ」
「わかった」
「雷も何か要る?」
「雪の嬢」

ぴたり、雷が足を止めた。
それに倣って足を止めれば、彼の視線の先には、ゴクデラ君がいる。
ゴクデラ君が、どうかしたのかな。

「………お前、ジェネラーレか」
「隼人か。久しいな」
「あぁ。………アンタ、確か柚木の」
「うん、妹。君はゴクデラ君、だよね? 綱吉の友達の。いつぞやぶりだね。もう怪我は大丈夫?」
「怪我?」

パッと手を離されたと同時に失礼、という断りを一つ入れて私の両腕にエスプレッソメーカーを乗せた。
それからゴクデラ君に手を伸ばしてその頭をくしゃくしゃと撫で回した。
あ、知り合いなんだ、この二人。

「またお前は命を粗末にしているのか」
「五月蝿ェ! そうでもしなきゃ十代目は守れなかった!」
「それはお前の───」
「雷、ゴクデラ君。ここでやり合ったら目立つよ?」

目立つなら二人とも放っておくよ?
ずっしりと両腕に掛かる重たいエスプレッソメーカーをぎゅう、と抱えれば、雷はゴクデラ君の頭から手を外して私の腕からエスプレッソメーカーを取り上げ、ゴクデラ君に向けて行くぞ、と言った。
ぎゅっと眉を寄せたゴクデラ君は足を止めたままだ。

「ゴクデラ君、私達これから、綱吉とリボ先生のプレゼントを買いに行くんだ。良かったら君の意見も聞かせてほしいな」
「な───!」
「きっと綱吉も喜んでくれるから。ね?」

首を傾げて聞けば、ゴクデラ君はまごまごと口を動かして、それから十代目の、と小さく呟いた。
………ゴクデラ君は綱吉のことを名前で呼ばないんだね。

「私は柚木静玖。改めてだけど宜しくね」
「チッ。獄寺隼人だ」
「じゃあ、行こう」

ぎゅむっとゴクデラ───獄寺君の手を握りしめて少し前を歩く雷の背を追う。
誰かの手を引いて歩くのは綱吉で慣れているから、後ろで獄寺君が暴れていても気にならない。
ぴたりと足を止めて半身翻した雷は、手を繋いで歩いてきた私達に目を細めて更に眉を寄せたのでパッと手を離す。

「獄寺君も手伝ってくれるって」
「そうか」
「待てよ。なんでジェネラーレとお前が知り合いなんだ」
「今は柚木家の用心棒だからだ」

反論を許さないほどきぱっと言い切った雷に、獄寺君は深く深く眉を寄せている。
さっきから獄寺君は雷を『ジェネラーレ』って呼ぶけれど、雷の本名なのかなぁ。
それに、雷も獄寺君を『隼人』って名前で呼んでるから、やっぱり二人は親しいんだよね。
うーん、本名なのかも。
ぽてぽてゆっくりと歩いていると、目的の雑貨屋に着いた。
マグカップがずらっと並んでいるところへ足を向けて、きゅむと眉間に皺を寄せる。
綱吉には何がいいかなぁ。

「雪の嬢、如何する」
「ウサギも可愛いよなぁ。でもこのデフォルトのライオンも可愛くない?」
「十代目は渋い方だぞ。そんな女みたいなの差し上げてどうする」
「うーん、確かに」

顎にそっと指を添えて悩むと、右隣に立った獄寺君がはっとしたように顔を上げた。

「そういやあの犬野郎も十代目をウサギだなんだと戯れ言を………!」
「じゃあ、ライオンにしよう」
「もう一人の分はどうするんだ?」
「リボ先生かぁ」

リボ先生とはてんで付き合いがないからどういうのが好きだかわからないんだよね。
名前は去年から知ってたけど、本人に会ったのはこの間が初めてだし。

「お前、俺の意見聞いてたか?!」
「ウサギは駄目なんでしょ?」
「あ、あぁ」
「だからライオンだよ。ね?」

獄寺君から視線を外して雷を見上げれば、雷はこくりと頷いた。
それから徐に口を開く。

「雪の嬢が大空をそうであると思うのなら、そうであるはずだ」
「………?」
「いや、気が急いた話か」

時々、みんなが何を言いたいのかわからなくなる。
中途半端に話すくせに、中途半端に隠すんだから。
まぁ、綱吉に対しての私もそうだから、彼らを責める気はないけど。

「小さいのが良いよね」
「あぁ。───お前、」
「うん?」
「柚木と何かあったのか?」
「姉妹喧嘩に他人が首を突っ込むのやめてくれる?」

思わず低い声を出せば、獄寺君はくいと眉を寄せて私を睨んできた。
うーん、睨まれてもなぁ。
………あ、

「正しく言えば、喧嘩と言うよりは意見が食い違っただけだよ。たぶん私も深琴ちゃんも折れることはないから、ずっと平行線なんじゃないかな」
「お前………」
「仕方ないよ。だって姉妹だもん。君もするでしょ、ビアンキさんと」
「姉貴を知ってるのか?!」
「深琴ちゃんの関係で」

ひょいと小さなマグカップを持ち上げる。
うん、これが良いかなぁ、リボ先生には。

「私さ、みんなと中途半端と知り合いなんだ」
「そうかよ」
「友達と言うには距離が遠い。でもそれぐらいがちょうど良かったりしない?」

首を傾げて聞けば、彼は少しだけ頷いた。
そんな彼の向こうに見えたプレートに足を向け、そっと手に取る。
うーん、予算足りるかな。いや、エスプレッソメーカーを買った時点で予算ぎりぎりだったし………あぁ、もう!

「雪の嬢?」
「今月何も買わないようにしよう」
「如何した」
「金欠な明日が見えただけだよ」

短いチェーンに通されてる親指の腹ぐらいの大きさのプレートを撫でて、雷に持ってもらっていたマグカップを受け取る。
さて、お会計お会計。

「お前、リボーンさんとはどういう関係なんだよ」
「………知り合い、かな? でもなんか、『初めまして』の感じはしないんだよね」

深琴ちゃんから聞いていたからか、それとも彼がスカルくんと同じアルコバレーノだからなのか、そこは定かではない。
定かではないけれど、どうしようもなく。───あぁ、そうだ。これは『懐かしい』という気持ちに似ている。

「小さな縁はそれなりに大事にしたいんだ。少なくとも、私が大事にしたいと思ったものは」
「そうかよ」
「今日は付き合ってくれてありがとう、獄寺君」
「別に」

会計を済ませたそれらは紙袋に入れられ、私の手元にある。
綱吉もリボ先生も喜んでくれると嬉しいな。
ほくほくと満足度に笑むけれど、財布の中身を考えると顔が引きつった。

「雪の嬢、荷物を」
「ううん、大丈夫だよ」
「用心棒というより執事じゃねぇか」
「それでも問題はないな」
「問題あるから!」

ふむ、と厳かに頷く雷に慌てて否定したのは私だ。
一般中学生に執事は要らない………!
自分でしっかりと紙袋の持ち手を握りしめると、雷に空いている手を握られて店の外へ出た。
イタリア人ってやっぱりスキンシップ激しいのかなぁ。
それとも私が迷子にならないよう、その防止か。

「雷、」
「用事は終わったのだろう、雪の嬢。帰ろう」
「うん」
「隼人はもういい。散れ」
「ンだとテメェ!」
「まだ付いてくるつもりか?」

後は帰るだけだぞ、と低く雷の言葉が響く。
ぐっと言葉を飲み込んだ獄寺君はびたりと足を止めた。
そんな獄寺君に私も足を止めようとしたけれど、それは雷に腕を引かれたために叶わなかった。

「獄寺君、またね」
「………………」

無言のまま、獄寺君は踵を返した。
その背を見送りつつ、私は雷に手を引かれるままに歩き続ける。

明日、運命の日がやってくることも知らずに。



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