23

家へ帰って部屋に戻ったと同時に、スカルくんがぴょこんと跳ねて傍へ寄ってきた。
あぁ、癒される。

「当分外出禁止だな」
「了解。むしろ言われなくてもやるよ、喜んで」

ん、と上に手を伸ばしてきたのでひょいと抱え上げる。
腕に掛かる重みに安堵した。
大丈夫。私は怪我をしてないし、何より今、確かに生きている。
だからもう、怖くない。
そう思った瞬間、膝から力が抜けた。
ぺたんと座り込んだ私に、スカルくんが手を伸ばして大丈夫か、と聞いてくる。
正直全然大丈夫じゃない。
向けられた殺気。
射抜かれた瞳。
血だらけの知り合い。
かたかたと震え出す腕に顔を歪めたのはスカルくんだった。

「静玖、」
「怖かった、怖かったよっ、だって、あれは本当に命が掛かってて………!!」
「もういい。もう大丈夫だ」

小さい身体で精一杯私を宥めるスカルくんを無言のままに抱き返した。
人肌の暖かさに涙が出る。本当に怖かった。
あれがマフィア。
本当に容赦ない。ティモ達とは全く違う。
あの文面の優しさなんて、全くなかった。
ほとほとぽろぽろ涙を零す私に、スカルくんはぽむぽむと頭を叩いてきた。
あぁほら、こんなに優しいマフィアだっている。
それは忘れちゃいけないことだ。
だって私を包むその腕は確かに暖かいのだから。
ぎゅうっと抱きしめて、目を閉じる。
あの残酷な景色が霞んでしまうように。
もうその恐怖に捕らわれないように。
逃げて逃げて、何事もなかったように。

「やっぱり外出禁止だな」
「うん」
「その分、傍に居てやるからな。感謝しろよ」
「うん」

誰でも良かった。
だって独りだとどうしてもあの恐怖を思い出してしまうから。
それでも、スカルくんが傍に居てくれると言うのなら、それに頼るしかない。
他に頼る人なんて、殆ど居ない。
綱吉達には頼れない。

「怖いのは、嫌だよ」
「ああ」

小さい手に頭を撫でられて、ひどく安堵した。
暖かさに包まれてまた涙が零れてくる。
今だけは、今だけはどうか泣かせてほしい。
恐怖に独りで打ち勝つ強さなんて持ち合わせてないから。
後ろで押し黙っていた子雨がスーツをそっと私の肩に掛けた。

「雪姫、窓際に近付かないと約束して」
「う、うん」
「ベランダには嵐が張り付くから大丈夫だと思うけど」
「ん」
「あぁ、今回の事が落ち着けばまたひっそりとした護衛に戻るから安心して」
「わかった」

こういうのは本職に任せておけば間違いない。
ゆっくりと腰を上げて、よろよろとベッドへ歩き出す。
ぽてんとベッドに寝転がれば、腕に抱いていたスカルくんをむきゅっと押し潰してしまった。
あ、いかんいかん。
かき分けて私の下から顔を出したスカルくんに思わず笑ってしまう。

「なんで笑うんだ、静玖っ」
「だってもそもそしてるの可愛いよ」
「少しは気が紛れたみたいだね。良かった」

ベッドの向こうで朗らかに笑う子雨を視界に入れながら、ぱちっと瞬く。
和服が標準装備な子雨が、なんで今日に限ってスーツなんだろう。
いや、悪くはないけど、ちょっと違和感。
そう思って彼をじいっと見てると、子雨はこて、と首を傾げた。

「ん? ああ、洋装が気になる?」
「雲の実年齢並に気になる」
「候補者に初めて会うのに和服だと引かれちゃうでしょ」
「私には和服だったのに」
「雪姫は別口」

口元に指を添えて笑う子雨にそう、と短く応えて、ゆっくりと目を閉じた。
眠くはないけれど、疲労感がある。
当たり前か。山本君に引っ張られて走って、ゴクデラ君の血まみれ姿を見て心身共に疲れてるよね。
ふぅ、と少し長めのため息を吐けば、スカルくんにぺちぺちと頬を叩かれた。
初めて会ったあの日から、スカルくんは家の中でヘルメットをしなくなった。
それはたぶん、私が嫌うから外してくれてるんだろう。───なんて言うのは単なる自惚れかもしれないけど。
それでもこうやって顔が見えるのは、私としてはとても安心するわけだから、とても有り難い。
肩の力を抜いて目を開ける。
視界一杯に広がったのはスカルくんの心配そうなその表情。

「スカルくんスカルくん」
「ん?」
「傍に居てね。ちょっとで良いから」
「あぁ」
「では雪姫、ちょっと出掛けてくるね」
「子雨?」

よいしょと身体を起こして子雨を見上げれば、子雨は人当たりが良さそうににこー、と笑って私の頭をぽむぽむと優しく叩く。
ベッドに座る私の膝に座るスカルくんの頭もぽふんと一度叩いて、

「一応候補に会ってこないと。雪姫を家に送ったこと報告しなきゃいけないからね」
「あ、うん。宜しく………」
「うん」

そうだよね。
急に現れて私を家に送っていくって言ったのだから、送ったことを綱吉に報告しないのは子雨を『不審者』にしかねない。だって綱吉は私達の関係を知らないから。
綱吉に子雨が誤解されるのはイヤだ。

「いってらっしゃい」
「うん」

にこやかに微笑んで子雨が部屋から出て行く。
柚木ちゃんに会わなきゃいいけれど………。

「静玖、少し眠れ。その方が落ち着くぞ」
「うん」
「ほら」

ぴょこんと膝から降りたスカルくんがぽふぽふとベッドを叩く。
誘われるままに素直に横になった。

現れた夢魔は、善か悪か。



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