17

あぁ、やってしまった。
そう呟いても吐き出した言葉は戻ったりはしない。
部屋に戻ってクッションを抱えてゴロゴロとベッドの上を忙しなく動き回る私を、子霧は目を細めて見てきた。
む、と口を尖らせて眉を寄せてふてくされたような表情を作れば、くすくすと笑われる。
髪をかきあげる仕草でさえ流れるようで色っぽく、目を瞬かせた。

「子霧」
「どうしました、雪の姫様」
「どうしよう。喧嘩売って来ちゃった。初めて会う人が多い中で、啖呵きって!」
「大丈夫ですよ、雪の姫様。彼らがどう足掻こうと、貴方に危害は及びませんから」
「………どうして?」

身体を起こしてベッドの縁に座る子霧を見る。
子霧はついと目を細めて笑うと、ぽむっと私の頭を叩いた。

「守護者でもなんでもない彼らには、貴方に近付くこともできませんよ」
「でも、もし綱吉が十代目になるなら、」
「必ずしも彼らが守護者になるわけではない。でしょう?」

肩に流れる髪を払われて、そのまま大きな手で頬を包まれる。
こつりと額に額を重ねられ、私はとろりと目を細めた。

「さぁ、もう暫くお休み下さい」

目を閉じた時、闇はそっと訪れた。








どんっ、とベランダで響いた音に反応することなく「霧」は膝の上に寝かせた静玖の頭をそっと撫でていた。
どんぱちどんぱち、銃器の音が響き続けると言うことは、「嵐」が対峙していることを意味しているため、「霧」は静かにため息を吐いた。
あまり騒がしくすると雪の姫様が目を覚ますでしょう、とベランダの向こうに辛うじて聞こえる程度の声で呟く。
そうすると面白いぐらいに外が静かになるものだから、思わずくつりと喉を鳴らした。
もう一度静玖の頭を撫でていると、ぱんっ、と音を響かせながら目の前を銃弾が通り過ぎ、ちらりとベランダへ目を向ければ、小さな小さな赤ん坊が一人。

「これはこれは黄のアルコバレーノ。何かご用ですか?」

わざとらしい台詞を吐きつつ、視線をすぐに静玖に戻した「霧」に、小さなアルコバレーノは舌を打つ。
もう一度銃弾を食らわせようと構えた瞬間、その小さな喉元に番傘の先が添えられた。
アルコバレーノの後ろにいるのは、「雨」だ。

「そこまで守るものか、それは」「貴方に答える必要はありませんよ、アルコバレーノ。貴方はボンゴレではないのだから」
「………………」
「押し黙る、と言うことは貴方もそれを自覚しているんだね。なら、手を引くことをお勧めするよ?」

何の反応も示さないアルコバレーノに淡々とした口調で返した「雨」は、相変わらずその首筋から番傘を離しはしない。
「霧」の膝で眠る少女はどんな騒ぎがあろうとも眠っている。そのように「霧」が催眠を掛けているのだから、起きようがない。
アルコバレーノはついと目を細めて、番傘の切っ先を銃で撃った。
ぷしゅう、と要らぬ煙を上げた番傘についっと目を細めた「雨」は、そのままぴょんと屋根へと飛ぶ。それと同時に室内へと飛んだアルコバレーノを「晴」の三節棍が狙う。
銃の形を取っていたレオンがナイフへと姿を変え、三節棍を受け止めた。

「すばしっこいな。オレ、しつこい男はキライなんだけど」
「ちっ」
「はい、そこまで」

アルコバレーノの足が机に着く前にその幼き小さな身体を抱き上げたのは外に居たはずの「嵐」であった。
きゅむっと赤子を可愛がるように抱きしめ抱き上げた「嵐」は、そのままその足をベランダへと向ける。

「オレは九代目からツナの家庭教師を頼まれたんだぞ。しばらくはボンゴレだ」
「あくまでも『しばらく』の貴方に姫さまの情報はあげられない」

きっぱりと言った「嵐」に待てをかけたのは「雨」だ。
足を止めた「嵐」は、その腕の中のアルコバレーノを「雨」へと差し出す。

「最強のアルコバレーノだから、その腕に任せればなんとかなる。そう思うのは当然だけど、良いこと教えてあげるよ」
「なんだ」
「我々だって九代目のご命令なんだよ? 『眠り姫』の情報を手に入れたマフィアは、ボンゴレであろうと九代目が認めた『特例』以外は時期が来るまで叩き潰せ、ってね」
「なんだと………?!」
「だから、アルコバレーノだろうとボンゴレだろうと関係ないんだよ。眠り姫を知ったものはすべて、我々の命を使ってでも消さなくてはならない」

柔和な表情に潜む獰猛な目に、アルコバレーノはボルサリーノの唾を掴んで少し下げた。
その表情を影に隠したアルコバレーノに「雨」が笑う。

「知らされてない、って? 当たり前だよ。あの方は何があっても『眠り姫』を晒さないようにしているんだから」
「………アルコバレーノにもか」
「特にアルコバレーノには、だよ。………あぁ、大空は特別みたいだけれど、ね」

くすりと笑った「雨」は、そのままアルコバレーノを抱え直した。
むぅ、と小さく深い眠りの中の少女が声をこぼせば、「霧」がそっとその伏せられた目を大きな手で隠した。

「貴方は眠り姫の大切なサワダツナヨシの家庭教師を九代目に頼まれたから殺さないであげるし、何より貴方に本気を出されたら我々の命だけでは足りないし」
「だったら情報を寄越せ」
「それは駄目。貴方のこの行動は九代目に伝えるから」

卒のない「雨」に苦虫を潰したような顔をしたアルコバレーノを笑って、「雨」はその腕から力を抜いた。

「さぁ、眠り姫が起きてしまう前にお帰り、黄のアルコバレーノ。九代目の切り札。候補、サワダツナヨシの家庭教師。貴方が眠り姫を知るにはまだ時期が早い」

隠された雪の眠り姫。
本当に何も知らないのは本人自身であることを、騎士たちは誰よりも知っているのであった。



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