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本部から連絡が入り、それから、それから。
すっぽりと抜け落ちた記憶に、戸惑っていた。

「静玖ちゃん? 大丈夫?」

どうやってメローネ基地から本部に帰ってきたのかもわからない。了平先輩が過去と入れ替わったのも知らなかった。
声を掛けてくれた京子ちゃんに曖昧な笑みを返して、それから綱吉を見る。
すると綱吉は少し困ったように笑ってから、説明しようか? と、呟いた。
そりゃ、説明してほしい。
でも、頭の奥がずきずきと痛み出して、話を聞くのを拒否してる。
どうしよう、私、おかしい。
抜け落ちた記憶。
まるで私が意図的に忘れたみたい。
一体あの後、何があったのか。
考えれば考える程深みに嵌まって、なんだか宜しくない。
綱吉を改めてみると、ぼすん、と、頭の上に誰かが乗っかった。───リボ先生だ。

「リボ先生?」
「静玖、現実をしっかり見ろ」
「ん? はい、見てますけど、」
「メローネ基地に行く前と帰ってから、何か足りないと思わないか?」
「ここに?」
「そう、ここに」

なにそれ、謎々?
リボ先生の意図がわからす首を傾げると、綱吉が相変わらず困ったままの顔であのね、と呟いた。

「………いや、やっぱり良いよ。もう少し落ち着いてからにしよう」
「おい、ツナ」
「大丈夫じゃないけど、まぁ、心配しないで。絶対、どうにかするから」
「綱吉?」
「俺が、お前を大丈夫にしてあげる。ね?」

首を傾げて笑う綱吉にこくん、と首を縦に動かした。
綱吉は信じられるし、嘘はつかない。
だから、大丈夫。たぶん、大丈夫───。













参った、ツナは確かにそう呟いた。
それもそうだ。
メローネ基地で起きた白蘭に因る宣言。その映像のなかの白蘭の腕にすっぽりと収まっていた深琴。
ボンゴレ地下基地にいたはずの深琴がどうして白蘭の下に居たのか。
それも気になるが、それよりも静玖の反応の方がおかしかった。
ぼんやりとしたまま、正一や白蘭の話を聞いて、基地に戻って話をしてみたらこの有り様。
未来にやって来てからわかったこと。静玖は思ったよりもずっと、メンタルが弱かったのだ。
そう考えてから、オレは首を横に振った。
その事実を知るほど、静玖とは関わっていない。
ツナの幼なじみであり、フィーの後継者。九代目の、『雪』。
それ以外、何も知らないのだ。
彼女がツナ達のそれを詳しく知らないように、またこちらも、彼女を詳しくは知らない。
これはやはり───………。

「リボーン?」
「オメーしか居ないってやつだな、ツナ」
「へ?」
「修行の一環だ。静玖にちゃんと今の状況を教えてやれ」
「あ、うん」

それは構わない、というツナに、オレは思わず顔をしかめた。
どうしてこう、静玖に関しては自信があるのか。その自信を他でも少しは見せれば良いものを。

「全部、話して良いよね? 深琴が白蘭の手元に居ることも、これから行われるチョイスのことも」
「あぁ、」
「大丈夫だよ、リボーン」
「ツナ?」
「アイツはそんなに、弱くないよ」

今はちょっと、お休みしてるだけ。
だから俺が、大丈夫にしてあげるんだよ。
そう言って笑うツナに、オレは頬をひきつらせた。
だからどうして、静玖に関しては強気なんだオメーは!!

なんて言うオレの叫びなど知らないツナはにこにこと気の抜けた笑顔を浮かべていた。




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