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ツーちゃん達がミルフィオーレのアジトに行っている間、待機組であるわたしや京子ちゃん達は、何をするでもなく、ぼんやりと家事をしたり、ちょっとだけ走ってみたりと、やっぱりすることがなくて、少しだけぼんやりとしていた。
………そう言えば、静玖が居ない。
なんで居ないんだろう、変なの。
『晴』と呼ばれていた、わたし達姉妹をある意味で傷付けた人は、もう日本にはいない。
だから静玖の居場所を聞く相手が居なかった。
………もう、静玖ったら、どこ行っちゃったの?
そう思って、人の目から避けるようにアジトから抜け出す。
静玖が例え、マフィアと最初から関わりがあったとしても、あの子がわたしの可愛い妹であることには変わりない。
誰が何を言おうと、わたし達姉妹には関係ないはずだ。

「静玖、どこ………?」

本当はアジトから抜け出しちゃいけないのはわかってた。
だけど、やっぱり静玖のことは心配だし。
見慣れた、だけどどこか違った景色を眺めながら静玖を探す。
静玖の姿を捜しながら曲がり角を曲がれば、どた、と誰かにぶつかった。

「───おや」
「あ、すみませんっ」
「アジトから抜け出て問題がないんですか、深琴さん?」
「っ………!」
「ハハン。さすが白蘭様です。貴方の状況もよく理解されてますね」
「びゃ………?」
「白蘭様が貴方がご所望ですよ、柚木深琴さん」
「なん、」

一歩引いたところを腕を掴まれ、そのまま身近に身体を引かれ、首の後ろをどっと叩かれ、わたしはそのまま意識を失った。












ズキズキと痛む頭を押さえつつ身体を起こす。
すると、頼りない手がそっと私に触れた。

「静玖ちゃん、大丈夫?」
「あ、な、じゃなくて、くーちゃん」

危うく『凪ちゃん』と言いかけて、言い返る。
すると凪ちゃんはきゅ、と私に引っ付いて、あれ、と指差した。
夢で見た正一くんが、背にして護っていたもの。

「………どういう状況、これ」

思わず頭を抱える。
いつの間にか寝ていて、気が付いたらこの状況。
何かポットみたいなのに詰められているのは、私、凪ちゃん、獄寺君に………簡潔に言えば綱吉以外の潜入メンバー。
つまり、あれ、捕まったってこと………?

「綱吉、」

ポットの硝子に貼り付いて下を見ている獄寺君の傍に寄り、彼に倣って下を見れば、綱吉がいる。
………あれ、あのつなぎのお兄さん、誰だろう。
その存在に首を傾げてぐるりと視界を巡らせれば、夢で見た『彼』を見付けて思わず息を飲む。

「───!!」
「………どうしたんだ、柚木」
「っ、獄寺君、彼………」

変な態度の私に気が付いたのか、獄寺君がこちらを見た。
傍らにいる凪ちゃんの手をきゅっと握り締めながら、ゆっくりと手を伸ばしてある人物を指さす。
指の先にいるのはもちろん、正一くんだ。

「入江正一がどうかしたのか?」
「う、ううん、ただちょっと………」

思わずそっと口元に手を添える。
なんだろう。なんか、正一くんと知り合いであることが言えない。
ぎり、と歯を噛みしめると、凪ちゃんがそっと私の手を引いた。

「静玖ちゃん、大丈夫………?」
「あ………、うん。大丈夫だよ、くーちゃん」
「………………………また妙な呼び方してんな、お前」
「本人が了承してくれたから良いんだよ」

苦虫を噛みしめたような獄寺君の発言にそう返して、それから綱吉と正一くんを見下ろした。
正一くんの傍に控えたのは、チェルベッロの二人。
私にフィーのおしゃぶりを渡してきた二人じゃない。そう、彼女達は『違う』。
その手に見えた銀色の固まりに、思わず青ざめる。
綱吉、綱吉………!
血の気が引いて、かたかたと身体が震える。
そんな私の手を更に強く握った凪ちゃんは、そのまま私の手を胸元に添えて両手で握りしめ直してくれた。

「沢田綱吉。大空のボンゴレを渡しなさい。さもなくば守護者を毒殺します」

ちょっと待った、私、綱吉の守護者じゃない!
なんて空気の読めない発言は出来ずにただ黙って綱吉に向いた銃口の先を見つめていた。
「3、2、1」と、淡々とした声の狭間に獄寺君、ラルさんの声が響く。
握っていた凪ちゃんの手をさらに力を込めて握って、きゅうっと目を閉じた。
どんっ、とお腹に響いた小さな音を聞いた後、ゆっくりと目を開ける。
───綱吉の悲鳴は、聞こえてこない。

「………?」

ぱちぱちと目を瞬かせると、音を立てて倒れたのはチェルベッロの2人だった。
あ───………!!

「沢田綱吉君と、柚木静玖ちゃん、仲間のみなさん」

ぺたん、と座り込んだ正一くんがわしわしと頭を掻いた。

「よくここまで来たね。君達を待ってたんだ………。───僕は君達の味方だよ」
「正一くん!」

私があの時彼を信じたのは間違いではなかったと、確信した。



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