君の居る世界

「羨ましいよ」

目の前で微笑む綱吉は、綱吉だけれど『綱吉』ではないのであった。




☆ ☆ ☆ ☆




事は沢田家に回覧板を届けた時に起きた。
玄関で綱吉と喋っているとリボ先生の珍しく焦った声がしたので、そちらをみれば、いつか見たバズーカが。

「静玖!」

綱吉の声をBGMに、私はきゅっと目を閉じる。
その時にフィーのおしゃぶりが光った事に気が付いたのは、ずっと後になってからだった。
ゆっくりと目を開けて、そこに広がる光景に大きく目を見開く。

「え、綱吉………?」

いつもと変わらない綱吉が、獄寺君を足蹴にして笑っていた。
その傍らにはリボ先生とザンザスさんがいる。
え、あれ、え?

「10年後じゃ、ない………?」

思わず呟けば、獄寺君から足を離した綱吉が傍へ寄ってきた。
にこり、と綱吉は可愛らしく笑ったけれど、嘘くさく感じるのは何でだろう。

「綱吉………?」
「そう。綱吉だよ、静玖」

にこにこと改めて笑みを作られ、漸く状況を把握した。

「パラレルワールド!」
「その通りだ」
「リボ先生………」
「………『リボ先生』?」

肯定したリボ先生を呼べば、綱吉の声が低くなった。
ついでに言うなら、ザンザスさんの眼光も鋭くなった。
え、なんで。

「知り合いなの、静玖」
「何言ってるのさ、綱吉。リボ先生は綱吉の家庭教師じゃん。………パラレルワールドだと、違うの?」

そう聞けば、ぎゅっと抱きしめられた。
え、何で? 綱吉?

「あるんだ。お前が、俺の傍に居る世界が───!!!」

痛いぐらいに抱きしめられ、ぱちぱちと目を瞬かせる。
どういう意味、と聞く前に、綱吉の首根っこを掴んだザンザスさんが、彼を私から引き剥がした。

「離せ、ザンザス! あの『静玖』はクソジジ………九代目のじゃない!」
「だからと言って、テメェのモンでもねぇだろうが」
「いや、私はティモのだけど。ってそれよりも、何か2人仲良しだね」

思わずそう言えば、綱吉もザンザスさんも固まった。
ってかさっき、綱吉ってば、ティモのこと『クソジジイ』って言おうとした?!

「何それ、どういうこと。あのジジイ、傍にいないくせに俺から静玖を奪ったってこと?! 何されてんの。何好き勝手にさせてんの『俺』。馬鹿じゃないの………!!」
「つ、綱吉………?」
「あぁ、腹立つ。本当何やってんの。俺よりはるかにイイ思いしてるクセに。───あぁ、そうだよ、羨ましい!!」

荒れ出した綱吉にぽかん、と口を開けてリボ先生を見れば、ふるりと首を横に振られた。
え、あの。

「静玖!」
「ふわ、はい、何!」

がしっと綱吉に肩を掴まれたので、冷や汗をかきながら綱吉と向き合う。
ち、近い近い近い!

「そんなわけで、俺は『俺』が羨ましいんだよ」
「はぁ、」
「それに、お前が居たら俺はこんなに性格悪くならなかったし!」
「え、そこまで私の所為?!」
「俺にとっちゃ超重要」

ふ、と静かな笑みを浮かべた綱吉に、私は無性に『綱吉』に会いたくなった。

「大丈夫、もう戻るだろうから。───『俺』に宜しくな、静玖」
「言われなくても」

本来の世界に戻ったら、『綱吉』を目一杯抱きしめよう。
『綱吉』を羨ましがる綱吉に、私はそう誓うのだった。












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『綱吉:黒ツナorスレツナor最強ツナ パロ (夢主が何らかの理由で、上記のツナがいるパラレルワールドに……というのもアリ)』・『スレツナ:甘々』
今回纏めさせて頂きました。
今回は、本編からIF連載のOath of snowに紛れこんでみました。
アンケ投票、ありがとうございました!



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