捧げる幸せ

髪良し、服よし、鞄よし。ついでだからお財布の中身も大丈夫。
きゅっと口を噤んでぐっと手に力を入れて握り拳をつくる。
うん、大丈夫。───大丈夫。

「雪の嬢?」
「雷、今日、帰り遅くなるかも」
「………如何した」
「デート!」

じゃあ行って来ます、と呆然と固まった雷に声を掛けてぱたぱたと走って家を出た。




☆ ☆ ☆ ☆




あれでもない、これでもない、と目をきらきらさせながら品物を手に取る凪ちゃんを横目で見ながら、私はついと目を細めた。
あぁもう、可愛いなぁ、本当に。

「………静玖ちゃん?」
「なにかな、凪ちゃん」
「えと、楽しい?」
「うん、楽しいよ」

骸くんの誕生日プレゼントをあれでもないと楽しそうに選ぶ凪ちゃんを見ているのは実に楽しい。
だって、凪ちゃんがどれだけ骸くんのことを好いているかわかるから。
友達が友達のことを好いてるのを見ると、なんか嬉しいよね。

「私も骸くんに何か買おうかな」
「え………?」
「あ、でも、」

骸くんより凪ちゃんに何か買ってあげたい、な。
そう思って固まる凪ちゃんの頭から足の先までを眺める。

「凪ちゃん、ちょっと別行動しよう」
「え、」
「大丈夫。30分したら会おう」
「静玖ちゃ、」
「絶対見付けてみせるから。ね?」

商品を手に取っていた凪ちゃんの手を両手で握りしめてそう言えば、凪ちゃんはゆっくりと頷いた。




☆ ☆ ☆ ☆




本当は、離れるのはイヤ。
だけど、『見付けてみせる』って言ってくれたから、いい。
静玖ちゃんなら、信じれる。
ちらりと顔を上げるとお店の時計が目に入った。
あれから、30分。
とこ、とブーツの踵が床を蹴った瞬間、真横から伸びた手に手を握られた。

「凪ちゃん、みっけ」
「っ、」
「はい、きっかり30分。………凪ちゃん?」
「静玖ちゃん」

嬉しい嬉しい嬉しい。
私なんかをあっさりと、当たり前のように見付けてくれる静玖ちゃん。
幸せ、だ。
私の幸せは、ここにある。

「骸くんへのプレゼント、買えた?」
「うん」
「じゃあ、公園に行かない?」
「公園?」
「私に付き合ってほしいんだ」

ふわ、と笑いながらそう言った静玖ちゃんにこくん、と頷く。
手を繋いだまま店を出て、静玖ちゃんに連れられるままに公園へ。
促されてベンチに座れば、静玖ちゃんがすっと膝をついた。
え、と目を瞬かせていると静玖ちゃんの手がブーツのファスナーに伸びる。

「静玖ちゃ、」
「ん」
「なに、するの?」
「ちょっとね。足上げて、凪ちゃん」

言われた通りに右足をそっと上げる。
ゆっくりと外されたブーツを脇に起き、静玖ちゃんの地面についた膝の上に足を乗せられた。
ポケットから何か取り出した静玖ちゃんはそのまま足首にそれを着ける。

「………!」
「はい、出来た」
「静玖ちゃん、」
「私から凪ちゃんにアンクレットをプレゼント」

再び私の足を持ち上げた後、静玖ちゃんはそのままブーツを履かせてくれた。
じわりじわりと足首から熱が上がっていく。

「骸くんのプレゼントで悩んでる凪ちゃんを見てたら、なんか買いたくなっちゃったんだよね」
「っ、いいの?」
「もちろん。凪ちゃんのためのプレゼントだから」

すっと立ち上がって膝の砂を払った静玖ちゃんに手を伸ばす。
座っているからこそ、腰に手が回ってお腹に頬を当てた。
きゅう、としがみつくと静玖ちゃんの手が私の後頭部に伸びる。
さらさらと頭を撫でられるのがとても気持ちいい。

「嬉しい」

幸せ幸せ幸せ。
私が満足するまで頭を撫で続けてくれた静玖ちゃんを抱(いだ)きながら、私はゆっくりと目を閉じた。

静玖ちゃんが私に与えるのは甘く優しい、幸せだけ。












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『買物デート』・『クロームとほのぼのしてほしい』・『骸への誕生日プレゼントを悩む凪ちゃんとお買い物、が見たいです』
一括させて頂きました。
百合っぽくでも可、とのコメントもありましたのでべったべたにしてみました。
主人公の紳士っぷりが書いていて楽しかったです。
アンケ投票ありがとうございました!



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