雲と海と蛸と

※ 大人スカルくん




ピンポーン、と控えめにインターフォンが鳴り、はーい、と一声掛けてから玄関のドアを開けた。
そこに立っていたのは化粧控えめの大人スカルくん。
きょと、と目を丸くして見上げる私に、スカルくんはゆっくりと笑みを作った。

「ど、どうしちゃったの、スカルくん。呪いは?」
「解けてない。だけどまぁ、気合いで」
「気合い? 気合いでどうにかなる呪いなの?」
「いや、ならないけど」
「じゃあなんで大人の姿なのさ」

深くは聞くな、と言いたいのかぽふぽふと頭を叩かれる。
うーん、なんか違和感が。

「静玖」
「なに」
「海に行かないか?」
「………海?」

良いけど、なんで?
そう聞いても、スカルくんは何も答えずに私の腕を引いた。
ぱたん、と後ろでドアが閉じたと同時に、私の手の中にヘルメットが落とされる。
え、あ。

「バイクだ」
「あぁ。───初めてか?」
「うん」

ちょっと嬉しいかも、と呟くとヘルメットをさらわれ、かぽっとかぶせられる。
そして促されるままにバイクに跨ると、私の前にすっとスカルくんが跨った。
ヘルメットを装着しているスカルくんの腰をぎゅっと掴めば、スカルくんの肩が揺れる。
くすぐったいんじゃない。私の反応対応を笑ってるんだ。

「スカルくん?!」
「はいはい、出るぞ」

あ、子供扱い。
いや、赤ん坊の姿の時から子供扱いはされていたけど、でもやっぱり大人の姿のスカルくんにされるといつもとは違うわけで、ちょっと心臓辺りがもぞもぞする。
ううん、くすぐったいとも言うべきなのかな。
まぁ、スカルくんがすれば私は子供かもしれないけど。

「ふぉお」

ごう、と風を切って走り出す。
思わずぎゅっと腰にしがみつけば、やっぱりスカルくんは身体を震わせて笑っていた。
も、もう!
仕方ないじゃん、私の周りにバイク乗る人なんていないんだからっ。
初めてなんだからっ!
ぎゅっと抱きついたまま目をもきゅうっと閉じた。
身体に流れていく風が心地良い。

「スカルくーん」
「なんだ」
「気持ち良いねぇー!」

風に負けないよう声を上げる。
うへへ、と笑ってからその広い背にぎゅうっと抱きついた。




☆ ☆ ☆ ☆




「ふぉー」

ヘルメットを外した瞬間、きらきらと輝く瞳を海へと向けていた。
なんとなく、フィーが彼女を選んだ理由がわかる気がする。

「………スカルくん、ここ『遊泳禁止』の札立ってるよ」
「だからここなんだ。遊泳するわけじゃないし、『立入禁止』じゃないだろう?」
「………あぁ!」

そっか、と納得したように笑みを見せた静玖は靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、ジーパンの裾を幾度か折り曲げた。
停めたバイクの傍に靴をちょん、と置いて、座り込んだまま俺を見上げる。

「行くよね?」
「あぁ。誘った人間が遊ばないのは論外だろ」
「ん」

座っている静玖に手を差し出せばきゅっと握り返して立ち上がった。
静玖に倣って靴などを脱いで裾をたくし上げれば、待てないのかくん、と腕を引かれて波の近くにまでやってくる。
押しては返す波に足を浸しては逃げ、冷たさとどうとも言えない単純さの楽しさにきゃあきゃあと黄色い声を上げた。

「楽しいか?」
「うん。………ひょわっ」
「ん?」

妙な声を上げた静玖の傍へ行き足元を見れば、しゅるりと赤い足が絡まっている。

「タコ」
「ふぉお、引っ付いてる、引っ付いてる! 吸盤が………!!」
「タコ」

もう一度名を呼べば、しゅるりと静玖の足から赤い足が離れた。
左腕にしっかりとしがみついていた静玖は半泣きになりながら目を瞬かせ、じぃ、と見上げてきた。

「スカルくん、この蛸のこと知ってるの?」
「俺の相棒だ。ヨロイタコのタコ」
「………名前がタコ?」
「そうだ」

ゆっくりと手を離していった静玖はちょん、としゃがみ込んでそっとタコに手を伸ばした。
そして足の1つを両手でつかんで軽く上下に振る。
………握手?

「静玖、」
「スカルくんの相棒でしょ? じゃあお世話になることがあるかもしれないし。………あ、リコリスも連れてくればよかったなぁ」
「………ぷっ」
「えぇ、なんで吹き出すのかな、スカルくん!」

すっとタコと手を離した瞬間、先ほどより大きな波が来る。
未だしゃがみ込んだままだった静玖に水が掛かるのを避けるよう、ひょいと抱え上げた。
ぱしゃん、と足元で波が弾ける。

「わ、」
「目的も済んだし、帰るか」
「………え?」

抱え上げたままバイクまで歩いてしまっておいたタオルを静玖に差し出し、さそのままバイクに乗せる。
座らせられた静玖はタオルをくしゃっと握りしめ、眉を寄せていた。

「なんだ?」
「タコと会わせるのが目的?」
「だってお前、」

リボーン先輩のレオンに会ってるだろ、と聞こえるかわからない程度の声で呟けば、くすくすと楽しそうに笑った。

「照れてる」
「うるさい」
「わっ、」

頭をつかんでわしゃわしゃと髪をかき混ぜたところで、静玖の笑い声はなくならなかった。

相棒に会わせてないのが悔しかったなんて、言えるはずがない。












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『スカルと一緒に海へお出掛け』
勝手に大人スカルくんでお送りしました。
どういった原理かは考えてないので番外編でできるあれやこれやの一部だと受け取って下さい。
リボーンやコロネロが居なければ比較的普通な子だと思っているので原作みたいなへたれ度は低いです。
やれば出来る子。そんなイメージ。
アンケ投票ありがとうございました!



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