※ 未来から帰ってきました
ちゅき、なんて本来学校では聞かないはずの動物の鳴き声と、かすかに漂う雲の炎の気配にぱちくりと目を瞬いて驚いた。
えぇと、あれ。
この気配は………?
「わっ、」
ぽすっと何かが頭に乗ったので手を伸ばせばもふもふと柔らかく小さな物体。
つんつんと指先を突っついてきたソレをつまみ上げれば、小さくちょこりん、と行儀良く羽をしまっていた。
「ヒバード?」
名前を呼べば嬉しそうに羽をはためかせたヒバードに気を取られていると、足の甲に重みを感じた。
足下を見ればちゅき、と心なしか瞳を濡らして見上げてくるハリネズミが1匹。
「ロール?」
2匹とも雲雀先輩の相棒さんだ。
その2匹が雲雀先輩から離れて校内闊歩なんて何かおかしい。
「ネツ」
「は?」
「ヒバリ、ネツ、タオレタ」
「っ?!」
「ヒバリ、ネツ、ネツ!」
えぇと、つまり。
あの雲雀先輩が熱でぶっ倒れたと。
いやでも、
「私に言わずにシャマル先生のところに飛び込めばいいのに」
「………………」
「なんで黙っちゃうかな、そこで」
つまみ上げていたヒバードを頭へ戻し、しゃがみ込んでロールに手を伸ばす。
よいしょ、としっかりロールを抱えてからまず保健室に足を伸ばす。
シャマル先生は急な来客にも文句を言わず(衛生面考えると動物は保健室につれてきちゃ駄目なのに何も言われなかった)、冷〇ピタやら体温計やらワイシャツにタオルなど必要なものを一式持たせてくれた。
「大変だな、お前さんも」
「まぁ、この子達に悪気はないですし、雲雀先輩がいての並盛ですからね。それに、何回か手当てをしたこともあるので、大丈夫ですよ」
その経験を踏まえた上で頼られているなら、それは悪いことではない。
では、と保健室を出て応接室へ急ぐ。
なるべく音を立てないようにドアを開け、黒革のソファーで眠る雲雀先輩を覗き込んだ。
切れ長の瞳も今は瞼に隠されていて、いつもの獰猛さはなりを潜めている。
寝ている間に出来ることをしよう、と耳に体温計を当て、ピッという電子音の後、すぐさま離して数字を見た。
37℃後半か………。
「………誰」
「柚木です、雲雀先輩。ヒバードとロールに呼ばれたんで来ました」
「そう」
身体を起こすのが億劫なのだろう、ソファーに寝たままの雲雀先輩にはいつもの鋭さはない。
「髪、かきあげてもらってもいいですか? これ貼りましょう?」
「……ん」
髪を上げ、あらわになった額に冷却シートをぺたり、と貼った。
冷たいのが気持ち良いのが、雲雀先輩がついと目を細める。
「寝汗かいてませんか? 新しいワイシャツとタオルを貰ってきたんでどうぞ使って下さい」
「うん」
「それにしても、雲雀先輩でも熱出すんですね」
「なにそれ、どういう意味」
「人の上に立つ人だから、体調管理もしっかりされているかと思っていまして。………もしかしたら、10年後の戦いは知らず知らずのうちにストレスを貯めていたのかもしれませんね」
超人とか、そういうことが言いたいんじゃなくて。
ただやっぱり、雲雀先輩みたいな人でも本当なら現実には有り得ないだろう事(10年後に行くタイムトラベルとか、本当ならできないはずだし)が起きたらストレスになるのかなって。
そう思ったら、なんだか雲雀先輩が近い存在になったというか、なんと言うか。
まぁ、ここまで本人を目の前にして言えるはずはないんだけれども。
「君は」
「はい」
「いや、いいや。手、貸して」
「はい」
すっと差し出せば、キュッと繋がれる。
あのトンファーを振り回しているとは思えないような綺麗な手。
「次、僕が起きるまで繋いでなよ」
「はい?」
「じゃ、お休み」
ぽすん、と再びソファーに身体を横たわらせた雲雀先輩に目を丸くする。
あぁでも、
「これだけゆったりしてるなら、お世話係も悪くないよね。………ヒバード、ロール」
おいで、と手招けば、ソファーの傍らに膝付いた私の膝に我先にと2匹がやってくる。
ふわぁ、と口を付いた欠伸をかみ殺しつつ、私は口端を緩めて繋いだ手に力を込めた。
早く治ればいい。その願いが届くといいな。
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『成り行きお世話係』
………がどうしてこうなった。
小動物を書くのが楽しかったです。
アンケ投票ありがとうございました!