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店内からでて裏まで引っ張られていく。
『あのひよこさん!』
ドンッと壁に投げられたかと思えば壁ドン状態になっていた。
女の人に壁ドンされてもドキドキするんだなとこの状況に思ってしまう私もおかしいのかな。
『えっと、ごめんなさい。私何かしてしまいましたか?』
「なんでここにいるの?」
なんだろ…思ってたより低い声。それに聞いたことある声。
「そんな格好で…。千鶴の仕業?」
『千鶴、さん?あの…』
「まだわかんないの?」
ひよこさんは黒い髪をとった
『ち、はや、くん?』
「驚きたいのはこっちだから。なんでいるわけ?」
『小鳩さんにバイトしないかって、言われてあれよあれよという間にこんなことに…。』
千隼くんは「はぁー」と深いため息をつくと「ごめん」と謝った。
『千隼くん?』
「もう、帰る準備してろ。千鶴には適当に言っとくし」
「その格好でその体制、いろいろ誤解されそうね。」
千隼くんの後ろにはにっこり微笑んだ千鶴さんの姿があった。
「千鶴、お前!」
「ウサギちゃん、お客様からラブコールかかってるわよ。あ、ひよこちゃんも💗」
「コイツはもうださねぇーよ。」
「あら…貴方がざっとこんなくらい稼ぐって言うなら考えなくもないわ?」
カタカタと電卓を叩いて千隼くんに見せた千鶴さん。金額は見えなかったものの千隼くんの表情からけっこうな額だったと思う。
『あの、千隼くん、大丈夫だよ。今日だけだし、もうすぐ終わるし…』
「だめ。控え室にいろ。」
「千隼がそう言ってるし、ウサギちゃんは控え室で待ってなさい。あとはひよこちゃんが稼いでくれるわ。」
後ろ髪を引っ張られる思いだったが千隼くんに控え室に押し込まれてしまった。
和泉家はなかなか強引だな…
とりあえず着替えて(脱ぐのに手間がかかった…)
着ていた服は綺麗に畳んでおいた。
鞄を探し、帰る準備をしているけど…私どうしたらいいのかな?帰っていいの?
困ってメールをしようにも貴重品店内の方に忘れた。
店内を少し覗いて誰かにとってもらおうと控え室を出る
「あれ〜うさぎちゃんだ〜」
酔ったお客さんと鉢合わせてしまった。
「うさぎちゃんかわいーねぇ〜!チューしてよーチュー」
『あの、やめてください!』
いつの間にか、またしても壁ドン状況になっている…
「チューしないとはなさなーい」
『本当に、いや…助け!』
「失礼いたしますわ。」
千隼くんがお客さんの腕をつかんで引き離した。
『ち…は…』
「お客様、お帰りのお時間ですわ。またのご来店お待ちしております。」
『!!!』
千隼くんは笑顔でお客さんにブチュっとキスをした。