プリメーラ -PREMERA- | ナノ


...assembly 3








イアンだ。と


言った。


今目の前に立つ女が
たった二週間前まで自分の下で務めていた少女だと。


軽い目眩を覚えたスタークは、そっと瞳を閉じた。




…音だけになった世界は
スタークの思考を阻む程のざわめきに包まれる。


無理も無い。
自分が予測していた範疇を越えているのだから
他の者に理解など出来る筈も無い。

だが彼女から伝わってくる霊圧が
イアンのモノと違わない以上、

認めざるを得ないのだ。




スタークは

今日何度目かしれない溜息をついた。




「…どういうことだよスターク」




ぼそっ、と隣から声が掛かった。

瞳を開けたスタークがちらりと声の主を見遣ると
ギラギラとした瞳がスタークを捉えている。




「…俺も知らねえよ」


「…なんだそりゃ

テメエの世話係じゃなかったのかよ」




やや遅れたスタークの返答に
ノイトラが片眉を上げた。

だがそれきりスタークは
何かを思案する様に黙り込み答えようとはしない。


もう一言ノイトラが何か言おうとした所で
先程から黙っていたハリベルが口を開いた。




「……イアン…というと

もう少し幼かった気がしたのだが」




随分と急激な成長をしたんだな。




藍染の話に一瞬だけ動揺を見せた彼女は
冷静さを取り戻した後

じっと目の前の同胞に視線を注ぎ
イアンの変化について分析していたようだ。




「…ああ

そういえば皆面識があったか」




藍染は 今気付いた

とでも言う様にわざとらしく笑うと
ちらりとスタークに視線を投げた。

だが大半が驚きに目を丸くする中

彼はいつもと変わった様子も無く
イアンを見つめている。


…いや。そう見せようとしている。

と言った方が正しいのかもしれない。


とにかく彼は
目の前に立つかつての世話係に
一見して何の反応も示さなかった。



しかし藍染は全てを見透かしているかの如く
笑みを浮かべる。




「どうだいスターク?

先日までと姿は多少異なるが」




わざわざ投げ掛けられた質問に
微かにスタークの眉間に皺が寄る。




「…ああ

そうみたいだな」




短く答えると
興味なさ気に欠伸を一つつき視線を外す。

だが藍染はその答えに満足したのか
フッと目を細めるとハリベルへと視線を移す。




「ハリベル

彼女は成長したわけでは無い
ただ元の姿に戻っただけだよ」




藍染の返答に

今度はハリベルの眉間に皺が寄った。




「……元の姿?」


「そうだ

彼女は本来このような外見だったが
霊力の著しい減少により変化していた。

先日失っていた霊力を回復し
晴れて戻った。という訳だ」




納得がいったかな?




十刃一人一人の反応を確認するように
藍染の視線が動く。

その言葉には
誰ひとりとして声を発する者は無く、

その場は静寂に包まれた。


…確かにそう説明を受ければ
納得出来ないことも無い。…が、


『外見が変わる程著しく霊圧が減少した』

と言うことは

いくらこの虚圏の霊圧濃度が高いと言っても
霊力の回復には相当の時間を要する筈。

この短期間で回復を果たした
という点には些か疑問が残る。


それに回復前の小さな彼女に会った我々は

何故『霊圧減少前』のイアンの事を知らなかったのだろうか。




「…私達は誰一人として
その『彼女』とは面識がありませんが

いつから我等の同胞なのですか?」




当然と言えば当然だが
新しく浮かんだハリベルの疑問に

フッと藍染は目を細めた。




「おや。おかしいな…

彼女の事なら良く知っている
と思っていたが…」


「それはその姿に戻る前の事でしょう」


「いいや」




藍染の自信に満ちた否定に対し

ハリベルが不可解だとでも言いたげに眉を寄せる。




「この姿の彼女を
良く知っている者はいるさ



…そうだろう?

アーロニーロ」




「「「!!!?」」」




突然紡がれた名前に
バッと一斉に視線が集まる。




「………」




表情など何も読めない仮面から
溜息にも似た吐息が漏れた。




「…アーロニーロ
貴様は知っていたのか?」




少しの沈黙の後

何も言わないアーロニーロに痺れを切らしたのか
ウルキオラが問い掛ける。

すると観念した様に息をつくと
その重い口を開いた。




「…アァ。知ッテイルサ……



破面No.101 イアン・ソピアー

…タダノ十刃落チダヨ」










- 49 -


Long
TOP

⇒栞を挟む