プリメーラ -PREMERA- | ナノ


The quiet beginning 2








三人が歩みを進める中


イアンはつい先程聞いた
彼らが現世に来た理由について考えていた。






私達は人から心を亡くした虚になり

欲望のまま動く獣へと堕ちた私達は
心を埋めようと愛する者を手にかける度




少しの満足を得るが

それを上回る悲しみにより
記憶は失われていく。




だから周りに愛しい者が居なくなった時


人であった時の記憶は殆ど残らない。




いずれ大虚となり更に進化出来る虚には
頭脳と理性が備わるが



それは記憶の回復とは違うもので

人であった時の自分の記憶が蘇るわけでは無い。




だから虚に堕ちる前のことなど
ろくに覚えている筈が無いのだ。



覚えているとすれば


それはすなわち
本能と欲望に従わなかったということで


そんな虚が存在するなんて聞いた事が無い。






…だがもし


もしそんな事があるならば





…彼等の心の渇きは……



……どれほどの物なのだろうか。







「イアン


 着いたぜ」




スタークの声にハッと顔を上げると



いつの間にか周囲は山の中で
うっそうと木々が生い茂っていた。

目の前が開けているのが
木々の間から見える。




小高い丘のようになっているそこは

中心に大きな樹がそびえ立っていた。


周りと隔絶されたその大樹は
清廉な空気さえ漂わせている。





「…ここが……?」




問いかけとも独り言ともつかない呟きが
開けた大地に溶け込んだ。

スタークとリリネットは大樹に歩み寄り

ぼんやりと呟く。





「…俺達が死んだ場所で」



「あたし達が生まれた場所だよ」





……ザアァッと


強い風が大樹を揺らした。






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