プリメーラ -PREMERA- | ナノ


The quiet beginning 1








……ギシッ



ジャゴアァアアア







まだ太陽も顔を見せない混沌とした空に


スターク達はゆっくりと足を踏み出す。




眼下には眠りに就いている街が広がり

その中心地には シンボルなのだろうか。

高い時計台がライトアップされ
そびえ立っている。




普段現世に赴くことが無いイアンは
物珍しそうに眼下に広がる街を眺めた。




「…うわぁ…凄いですねぇ


 スターク様っ」




珍しく興奮気味に話す彼女は
隣に立つスタークを見上げる。




「あぁ…そうだな」




だが、彼女に応える彼は
どことなく心ここにあらずといった様子だ。


そんなスタークの背後から
やや遅れ気味に到着したリリネットが飛び出してくる。

彼等を追い越しがてら
彼の背中を勢い良く叩いた。




「ほら!

 ボサッとすんなよスターク!!」




先行くよ!!




と言い捨てた彼女は

あっという間に地上へと吸い込まれていく。


残されたスタークは背中を押さえ
小さくなる姿を眺め溜息をついた。




「へぃへぃ…


 いくぜイアン」




彼は怠そうに頭を掻いた後

イアンの頭を軽く叩くと
階段を一歩踏み出すようにして降りていった。









ぼやけた月が三人を照らす中
ゆっくりと歩みを進める。




きょろきょろと周りを見渡すイアンは

街を興味深げに眺めていた。


あまり現世に出たことが無い彼女は
虚圏との違いに色々と驚く事が多いようだ。

道端に咲く花につい立ち止まる。




「……イアン

 置いてくぜ」




少し離れたところで

スタークが呆れた声で溜息をついた。





「………っ!! すいません…」




イアンは思いがけず
距離が離れていた事に慌て二人に駆け寄った。



自制していたつもりであったが
それでも気分が高揚していた事に気付き


彼女は気まずそうに下を向く。




「……花 好きなのか」




問いかけにしては低い声色に
イアンは顔を上げる。




「あ…その…

 ……普段あまり見ないものですから」




申し訳ありません と
おどおどと言う彼女を一瞥すると

彼女の頭に手を乗せた。




「…まぁそうだな

 虚圏にはああいう花は無ぇからな…」




ポンポンと頭を叩くと

ふっと笑ってまた前を向いた。




……どうやら怒ってはいないらしい。




ホッと息をついたイアンは
歩き出した彼の後を追いながら


昨日から聞けずじまいだった
疑問をもう一度ぶつけてみる事にした。




「…あのっスターク様!!

 一つお伺いしても宜しいでしょうか?」


「なんだ?」




歩みは止めずスタークは彼女を軽く振り返る。




「なぜ

 本日この街にいらっしゃったのですか?」




イアンの問いに

昨日彼女から投げ掛けられた質問に
答えずじまいであった事を思い出した
スタークは立ち止まる。




「…あぁ……結局言ってなかったか」


「はい」




見上げてくるイアンに頭を掻いた彼は
隣に居るリリネットをチラッと伺うと


細く息を吐き出し呟く。




「……墓参りだ」


「…お墓参り…ですか?」




現世に来る用事としては
あまりに破面らしくない理由に

イアンは目を丸くした。




「ああ」


「…どなたの…?」




不思議そうに聞くと



瞬間


空気が止まる。













「………俺達の  だ」







「……え…………?」





思ってもいなかった彼の答えに

凍りついたイアンの頬を


温い風が撫でていく。





広場の時計台が時間を告げる音が



街に響いた。









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