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 十一月半ば。消灯時間もとうに過ぎた深夜、セシルを浅い眠りから呼び覚ましたのは、扉をノックする音だった。
 寝間着の上にガウンをはおり、廊下に出てみると、小柄な少年がたっていた。同じ寮の下級生で、怯えた顔つきで彼を見上げた。そして厄介な出来事を告げたのだ。同室のエリン子爵が、上級生に 呼び出されたきり戻らないと。
 少年はなかなか可愛らしい顔立ちをしている。おっとりとしたふうで、入学してすぐに、少々質の悪い上級生に目をつけられた。さすがのセシルも眉をひそめざるをえないような、かなり陰湿な苛めにあい、神経衰弱に陥っていたのを、エリンが寮長にかけあい、自分と同室になるようにはからった。自らの庇護下においたわけで、以後、少年は目に見えて元気になった。
 だが上級生達は面白くなかったはずだ。以前から彼らとエリンは反目しあっていた。エリンは上級生が下級生に対して封建的な力を行使するやり方に反対で、色々と改革を試みていたのだ。
 そしてその夜、エリンはその上級生グループに呼び出されたのだという。
 ハリーに知らせるべきだな、とセシルは言ったのだが、下級生はかたくなに首を横に振った。どうもハリーには絶対に告げるなと言い含められているらしい。
 セシルに相談を持ち込んだのは、セシルとハリーとが比較的親しいため、傍目には彼とエリンの仲も良いように見えるせいだ。
 上辺だけを見れば、彼らは親しくしていても不思議はなかった。どちらも周囲からは一目置かれる優等生で、憧憬の眼差しを集めながらも、ひんやりとしてひとを寄せつけない雰囲気があった。
 だがセシルは、そしてエリンの方も、互いが自分とはまるで異なるタイプ――いや異なるどころか正反対の人間だということを知っていた。
 表向きは優等生の顔をして、実は学内の裏側にも良く通じているセシルとは対照的に、エリンはまるで聖者のように、裏表なく、その身辺はきよらかだった。面倒見は良かったが、いささか融通の利かない点が玉に瑕で、また完璧すぎるせいで、友人はできにくかった。
 ただひとりの親友がハリー・アストウェルだ。アメリカの炭鉱を父親とともに転々としていた少年で、父の死後、英国に住む資産家の伯父に引き取られた。それこそエリンとは正反対の磊落なタイプなのに、部屋が同室だったのをきっかけに、ふたりは親しくなった。
 親友とはいえ、エリンとハリーの関係は、微妙にねじれたものだ。
 ハリー・アストウェルは、エリン子爵に一方的に恋慕の情を抱いている。エリンはハリーの想いを拒絶したのだが、 セシルが興味深く思ったのは、それでもなお、ふたりの間に友情が持続していることだった。
 下級生の頼みを受けたとき、セシルは先にハリーに報せようかどうか迷った。セシルにとって、エリンの意思はたいした問題ではない。
 しかし結局、ひとりで出かけたのは、何か面白いネタを独り占めできるかもしれないと考えたからだ。
 彼らの居所は見当がついていた。十五世紀の建築がそのまま残る古いダイニングだ。ここの扉の鍵を、寄宿舎の最上級生は、馬鹿げた特権のひとつとして代々受け継いでいるのだ。
 予想はあたった。
 セシルが駆けつけたとき――いや実際にはさほど急いでやってきたわけでもなかったのだが、少なくとも五人の生徒がそこにいた。扉の陰で足をとめてなかの様子をうかがうと、ひそひそと囁きあう声が聞こえた。
「……だろう。薬が効きすぎて……」
「死んでしまったりしたら、どうするんだよ」
「僕は……だからやめようって……」
 どう解釈しても穏かではない会話の切れ端を耳にして、セシルはやれやれと小さく肩をすくめた。慎重に言葉を選んで、澄んだ声で警告を放った。
「早く逃げた方がいいですよ! ハリー・アストウェルがじきに来ます。寮長もね。今すぐ出て行くならば、私としては見逃してさしあげます」
 ハリーはまず見逃しはしないでしょうけど、そんなことは知ったことじゃないです、と口には出さずに付け加える。
 セシルの警告は、たちまち効を奏した。
 ハリー・アストウェルは、エリンやセシルとはまた異なる意味で目立った存在だった。
 実際的な暴力をためらわない乱暴者、そして敵の多いエリンの身辺に目を光らせていることもよく知られている。まるで女王にかしずく騎士のようだ、と誰かが言ったのは、まったくもって的を得た喩えだった。
 さて、ばたばたと走り出してきた上級生たちの顔を確認し、最後のひとりが飛び出してくるのを見計らって、セシルはその運悪い上級生を足でひっかけて転倒させた。
「今すぐことの次第をハリーに知らせに行って、ハリーに一発殴られるのと、あとでハリーに足腰立たなくなるくらいに殴られるのとどちらがいいですか」
 にこやかに尋ねると、不運な少年は震え上がって、伝言役を買って出た。
 小さく肩をすくめて彼らの後姿を見送ると、セシルはがらんとした石の空間に足を踏み入れた。冷たい月の光がひそやかに差し込むなか、エリン子爵の姿をみとめたとき、彼はどきりとして、かすかに瞳を見開いた。
 エリンは、冷たい石の床に死んだように横たわっていた。傍らに膝をついて脈をとると、ただ意識を失っているだけとわかった。
 名前を呼んでみたが、エリンは目を閉じたまま、動かなかった。薬物入りの飲み物でもムリに飲まされたのだろう。角 灯の光をぐるりとめぐらせて、落ちていたグラスを拾い上げた。僅かに残っている液体を指ですくい舐めてみた。阿片だろうと推測した。
「いったいどうしたというんです」
 そのひとには届かないだうと思いつつ、咎めるように言った。沈黙していると、ちりちりと凍っていくような静寂に呑まれそうな気がした。
「忠告したはずです。それなのに、こんな馬鹿げた企みにひっかかるなんて……」
 最上級生らが、エリン子爵に対して良からぬことを企んでいるらしいという情報は耳にしていたから、前の週に忠告したところだったのだ。
「それなのに。どうしたっていうんです」
 相手は意識を失ったままなのに、セシルは苛々とくりかえした。
 石の床に倒れたままのエリンをそのまま放っておくのは、さすがに痛々しい気がした。かといって自分が寒い思いをするのは御免だったから、傍に落ちていたジャケットを降りたたんで、エリンの頭の下に差しいれた。
 あとで皺にしたと文句を言われるかもしれないとも思ったが、知ったことではないと呟いた。
 それにしてもエリンはひどい状態だった。前髪は額に乱れかかり、殴られたのが、唇の端が切れて血がにじんでいた。シャツはこぼれた飲み物で濡れていて、ボタンは第二ボタンまで外され、鎖骨のくぼみがあらわになっていた。
「先輩方が何をしようとしたかは、まあ、この際おいとくとして、それにしても……」
 角灯の幽い熱と月の淡い光のもと、セシルは、あらためて二歳年上の少年の顔を見つめた。
 綺麗な顔ならば他にも知っているが、彼の美しさは特別だった。
 薔薇戦争の頃まで系図をたどれる名家ミドラムの、美しく、そして呪われた血の作り上げる造形は、まるで生血の通わぬ人形のように冷たく、そしてそれ故にひとつの完全な美の結晶といえた。
 温もりある陽光よりも、温度の欠落した月光が似合う青白く鋭い刃。または瀟洒な硝子細工にも似ていて、そして。

 傷つけたくなる

 セシルはまたたいた。
 倒れている少年の青白い顔から、ほっそりとした首筋、そして鎖骨にかけての白くなめらかな輪郭を見つめた。
す、と心をよぎった得体の知れない感情に、心臓がざわめいた。エリンを好きではなかったが、傷つけたいなどと考えたことは、これまではなかった。それなのに――
 滅多にないことだが、セシルは内心ひどく動揺して、エリンのシャツのボタンをきちんとかけなおした。そうやって、得体の知れないざわめきも封じ込めようとした。
 ややあって、エリンが薄い瞼を押し開けた。麻薬のせいだろう。それは普段、セシルの知るそのひとの瞳ではなかった。硬質な光が欠落していて、虚ろだった。
 唇が小さく開いた。かすれた声が吐息とともに洩れる。
「きみは……」
「あなたの嫌っているセシル・ギボンですよ」
 わざと刺々しくセシルは言った。柄にもなく自分がうろたえているのを自覚していた。
「嫌って……?」
「あなたは私のことなんか、嫌いでしょう?」
 エリンはぼんやりとセシルを見上げる。瞳は虚ろなまま、理解の色すら浮かぶ様子はない。そして呟くように言った。
「夜ほどではない」
「夜……?」
 意味が良くわからぬまま、セシルは聞き返す。
 エリンはかすかに眉をよせ、小さく呟く。
「嫌いなんだ。夜は……」
 それから、今度は幾分まともな問いを放った。
「なぜ、きみがここに……」
「悪巧みを耳にしたんです。放っておいても良かったのですが、あとでハリーに絞め殺されるのは御免なので」
 セシルの毒気のある言葉は、だがエリンの耳には届かなかったようで、虚ろな瞳には何の反応も見られなかった。
 冷たい光の欠けた緑の瞳は、しっとりとして柔らかな色をして、妖しいぬめりを帯びていた。
 翡翠にはこんなふうな色艶をみせるものもある、と半ば陶然とした心地で、セシルはその瞳に見入った。心臓のざわめきが不穏な熱を全身に広げた。
「こんなところにはいたくない」
まるで救いを求めるような声音で、エリンが呟く。
「わかってますよ。けど私にあなたをかついで帰れというなら、それはお断りです」
 セシルは、強いていつも通りの皮肉な言動を保とうとした。そうしないと得体の知れないざわめきに支配されて、引きずりこまれそうだった。
 それなのに、エリンの声は儚くくりかえす。
「夜は嫌いなのに……」
 セシルは視線を闇の彼方に投じた。そっけなく「なぜ」と問いかけた。
「自分自身など信じられない……」
 ちぐはぐな答えに、セシルは苛立つ。
「もうじき迎えがきますよ……」
 その言葉は、エリンにではなく、自分自身に向けたものだった。 
 救い出して欲しかったのだ。この状況から。
 生まれてはじめて――
 セシルは怯えていた。
 何とは正体のわからぬものに対して、十五の少年は怯えていて、だがそんなふうな自分を認めるのはいやだったから、不安な心地を苛立ちにすりかえて唇を噛んだ。
 エリン子爵は、セシルの知るなかで誰よりも怜悧で理知的な少年だった。冷たく硬質な性質こそが本質だと信じて疑わなかった。
 だがそれは鎧にすぎなかったのだろうか。 もろく繊細な魂を護るためにまとった殻だったのか。
 そして。
 その硬い殻が――
 破れているのだろうか。今――

 ぞくり、と。

 異様な感覚が背筋を這った。
 翡翠の瞳が見つめていた。目を逸らしておくつもりだったのに、いつのまにかまた見つめてしまう。魅せられたように、 セシルはもう、そのひとから視線を逸らせなくなる。
 小さく囁く声を聞いた。
「黒い髪……瞳も……だが東洋の色ではない……」
 何のことか、セシルにはわからなかった。
「弟を……」
 エリンは言う。
「好きにはなれないんだ。嫌悪している」
「別にかまわないでしょう……私も兄のことは嫌いです」
 わざと散文的にそっけなく答えたが、喉はからからに渇いていて、声はぶかっこうにかすれた。
 エリンは、だが自分の言葉だけを追いかけて、ゆっくりとつづける。
「生まれてきたことに関しては、弟が悪いわけではない。それなのに……私はもっと公平に接する必要があるのに」
 なぜ醜い感情を削り落とせないのだろうか、とエリンは呟く。
 セシルはかすかに眉をよせた。
「あなたは……もう少し自分の感情に素直になったらいいのに」
「そんなことはできない」
「どうして?」
「感情は獣のようだ。私は自分のことなど信じられない。いつ彼らのようになるか、わからない」
「彼ら?」
「狼に……夜の化け物に魂を食われて、獣のようになる」
 ミドラムに伝わる忌まわしい伝説を、セシルは思い出した。イングランドでは非常に珍しい人狼の伝説だ。
 ミドラムの家系には、精神を患う者が多い。そうした不幸な事実から生じた伝説だろう。
 そしてまた古くは呪いを、近世以降もその病を伝える血を忌避されて、ミドラム伯爵家は長年近親婚を重ねてきた。 その美貌と病的な性質を伝える血は、薄められることなく、代々受け継がれてきたのだ。
 もちろん精神を病む者ばかりではなく、非常に優れた人材も多く輩出している。
 たとえばエリンの父、今のミドラム伯爵は優れた政治家だし、エリン自身も将来を嘱望されている。
 だが子爵の弟、オナラブル・ヘンリーは、幼少時から奇癖が目立ち、学校にも行っていない。このときセシルは、エリンがこのヘンリーについて話しているのだと思っていた。東洋の血を引く異母弟のことはまだ知らなかった。
 セシルは言った。
「あなたは大丈夫でしょう」
「そう……私は……私には必要だ。規律がね。前にも言った」
 聞いたことはなかった。
 おそらくは、ハリーに話したのだろう。麻薬のせいで意識が朦朧として、誰と会話しているのかを理解していないのだ。
「私は自分自身の感性では、正邪を測れないから……だから……呪いとは無縁の世界が作りあげた規則に従う。それは必要だ。だから奪わないでくれ」
 ほっそりとして白い指がゆるやかに動き、セシルの頬に触れた。
「約束しただろう?」
「約束……?」
 セシルは鸚鵡返しに言葉を返す。
 そして間近に瞳を覗き込んだ瞬間――
 とくん、と心臓が跳ね上がった。
 闇。
 色のない闇が、翡翠の瞳のぬめりある光沢の裂け目に見えた。
 常に硬く閉ざされている扉が――封印が今、破れているのだ。そして。
 その向こうの闇に蠢くものが見えた気がして、慄然とした。
 もっとよく覗いてみたいと強く欲すると同時に、それと対峙したらもう後戻りができないような気がした。肉の快楽への誘惑にも似て、だが以上のものを予感させる何かが。
 セシルはかすかに唇を開いた。呼吸すら忘れてしまいそうだった。

 今なら――

 常に硬質な殻――強固な意志と理知により幾重にも覆われた魂の、この裂け目に手を伸ばして、秘めたものを引きずり出すことができるのではないか。
「だけど……何を」
 何をしようとしているのか。
 ひどく残酷なことを。先刻までここにいた上級生達、卑怯な連中だと軽蔑した彼らと同じことをしようとしているのではないか。
 これまで望んでさえいなかったものを、この瞬間ですら真に望んでいるのかどうか定かではないというのに。
 つい今しがた、必要だから奪わないでくれと懇願された、それを奪い取ろうとしているのだ。
 そうしたら。
「あなたはどうするんでしょうか?」
 セシルは小さく囁きかけた。
「獣になるんですか?」
 答えはなかった。
 その問いから逃れようとするかのように、エリンは目を閉じてしまう。
「アラン」
 名を呼んでみた。
 セシルがこんなふうに、気安くクリスチャン・ネームで呼ぶのを、エリンはひどく嫌っていた。
 その反応が面白くて、時折わざと馴れ馴れしい態度をとったりもした。今、いつもと同じく嫌悪と拒絶を示してくれたならば、この奇怪な誘惑を払いのけられるのではないかと期待した。
 だが反応はなかった。
 エリンは人形のように動かぬまま、無防備にセシルの前に身をさらしていた。
「壊れてしまうんですか? ねえ……」
 だがたとえエリンの心が傷つき、壊れたとしても、それがどうしたというのだろう。セシルは奇妙に醒めた心地で考える。大切にすべき存在ではないのだから、何ら痛手をこうむることはないはずだ。
 ハリーとの間の友情を失うくらいだが、それとてどうしても護らなければならないものではない。
 陶酔と覚醒の狭間で、セシルは小さく息をつく。まだ引き返すことはできる。完全にとらわれてはいない。だがそれでもなお、誘惑は甘美な香りで心を絡めとる。目を逸らすことができない。虚ろに破れた瞳を思う。闇に蠢くものは、美しくて、人に似ていながらその背に翼をもつ畸形に似ている。
「アデレイド以外のものは同じだ。何を得ても、失っても……」
 だから。
 壊してしまってもいいから、殻の破れたあの瞳をもう一度見たいと強く欲した。
 翡翠色を隠した瞼に指先で触れた。
 エリンは、彼を拒むように顔をそむけた。
 意識的にではない。
 薄い瞼が震えた。だが、瞳は閉ざされたままだ。
 セシルは、冷たい石の床に片手をつき、覆いかぶさるような格好で顔をよせる。
 口唇を重ねようとしたとき、エリンの唇が動いた。
「ハリー」
 名を呼ぶ声に、セシルはびくりとして身を引いた。急いで答えた。
「ハリーはまだです」
「遅い」
 目を閉じたまま、僅かに眉根を引き絞るようにして、唇から言葉はこぼれおちる。
「夜の化け物から、月の狂気から私を護ると約束したのに……」
 そしてふ、と緑の瞳がセシルを見上げた。
 月光のように冴え冴えと澄み渡った冷たい光が、先刻までの虚ろを覆い、セシルの顔を鮮明に映し出す。
 今しがた胸に抱いた欲望を見透かされたような気がして、彼は動けなくなった。
 そのとき、足音がした。
 力強く石の廊下を蹴りつけて、駆けて来る。
 角灯の光が差し込む。
 ハリー・アストウェルが友人の名を呼ぶ声を耳にした瞬間、呪縛は完全にとけた。
 セシルは小さく息を吐き出した。

 安堵の吐息を。

 
「今、何しようとしていた?」
 ハリー・アストウェルが恐ろしく不機嫌な声で尋ねた。
 セシルは無表情に見上げて、答えた。
「何って、介抱していただけですよ」
「不埒な真似をしていたんじゃないだろうな」
「してません」
 あなたがタイミングよく駆けつけてくれたおかげでね、と心のなかでこっそりと付け加えて、舌を出した。
 ハリーは、疑わしげな目で睨みつけた。
「ぶちのめすぞ」
「神かけて、何もしてはいませんって」
 セシルはくりかえして、大仰にため息をついてみせた。ばかばかしく、どうにも貧乏くじをひかされたような気分だった。
「ハリー」
 エリンが呼ぶ。
 ハリーは振り返った。無言でガウンを脱ぎ、友人の体をくるむと抱き上げた。
「自分で歩ける」
「わかった、わかった」
 ハリーは気軽な調子で返事をしながらも、エリンをおろす素振りはなく、そのまま歩き出した。セシルの存在など失念したかのように、どんどん進んでいく。
「おろせ」
「部屋についたらな」

 セシルは、ハリーの背中に苦笑を投げかけた。彼がハリーを少しでも好きなのは、けっして得ることはできないだろうひとをためらうことなく愛していて、そしてなんとも幸せそうだからだ。
 生涯傍にいることができないとわかっていても、それでもそのひとを愛している自分を肯定している。愛するひとの存在そのものが何よりの救いであり、至福であることを思い出させてくれるのだ。


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