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 十五歳のクリスマスを、セシルは些か味気ない気分で過ごした。
 最愛のアデレイドが不在のクリスマスははじめてだった。
 姉は英国にすらいないのだ。旅行家の夫とともに中国を旅している。先日、届いたのは上海で買い込んだらしい土産の数々。クリスマス・プレゼントも兼ねているらしい。セシルに贈られたのは、黒のシルクに東洋風の 刺繍がほどこされたチャイナ服や珍しい本など。
 セシルは早速その美麗なロング・チャイナをまとってみた。秀麗な面立ちの黒髪の少年に、それは良く似合った。家族は顔をしかめたが、少年はまるで無視して、その格好でクリスマスを過ごし、ひとりきりの時間には、姉と義兄の手紙を読み返していた。姉の書き記す小さな冒険の数々に微笑みながら、時折、小さくため息をつく。
 手紙だけでなく、アデレイドの明るく澄んだ声を聞けたら、どれだけ幸せな心地になるだろうかと思う。クリスマスは特別な日だから、なおのこと。一番大切なひとのそばで過ごしたいと願っても不思議はない。
 ふとハリー・アストウェルを思い出した。パブリック・スクールの二歳年上の友人も、ひょっとすると今頃、同様の思いでため息をついているかもしれない。
 もっともハリーの場合、そのため息の奥には、セシルとは異なる濃密な欲求も押し込めているはずだ。
 同性の友人への、それは恋慕だ。禁忌に触れる想いで、けっして満たされることはないだろう。それでも――
 その友人エリン子爵にとっても、ハリーが特別な存在だとセシルは知っていた。

 私を護ると約束をしたのに。

 あの夜、エリン子爵が救いを求めて呼んだのは、赤毛の友人の名前だった。
 そうあの夜――
 セシルは不思議な気持ちで思い出す。
 聖誕祭の夜に回想するには、およそ相応しからぬ背徳と誘惑の記憶。



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