おはなしまとめ | ナノ

剏ヒ惑いは太陽の涙


佐助様への恋心。それはいつの間にか私の中にあり、これまでずっと胸に秘めていた感情。実る事など無いと気づいていたし、迷惑をかけるだけだと分かっていたから。だけど一度燃えた火を消す事は簡単に出来なくて、思えば思うほど胸が痛んでいく。この想いを伝えられる日は来るのだろうか?


時に幸村様はどうされたのだろう。
来られなくなりまだ5日だがとても心配でたまらない。あのお天道様のような笑顔を見ないだけで、こんなにも不安な気持ちになるとは。怪我でもされたのか、それともご病気?思えば思うほど、思考が悪いほうへと発展していく。もしや私の態度がいけなかったのだろうか?もしそうであるならば、もう来てはいただけないのだろうか・・・。


「なまえ、ちょっと頼んでも良いかい?」

「は、はい!」


仕事中に考え事なんて駄目。頭を振って呼ばれた方へ行けば「はいよ、」っと主人に団子の入った包みを渡された。


「これを幸村様に届けに行っておくれ」

「え・・・あ、はい!」


“幸村様”の言葉に反応して思わず声を漏らしてしまった。お城に届けるなんて滅多に無い事をお願いされるなんて、私はついてるかもしれない。包みを持ち城に向かい足を進めた。もしかすれば佐助様に会えるかもしれない、そんな事を期待しながら。




城に着き中に入れて頂けたのは良いものの困った事に迷ってしまった。過去に一度来たはずなのに幸村様のお部屋が何処だか分からない。それ以前に、まさか誰にも案内して頂けないとは思わなかった。頼みの綱である佐助様にも会えないし。

何方かに訪ねるにも何故か皆重い顔をしている為、声をかけるのを躊躇ってしまう。この前来た時の皆の笑顔が嘘のようだ。しかし此処に突っ立っていても仕方が無い。聞くか見つけるかしないと・・・。


「なまえ殿?」

「ひゃッ!・・・ゆ、幸村様」


背後からの声に振り返れば、そこには笑って私を見つめる幸村様がいらっしゃった。しかし、なんだろうこの違和感は。この笑みからはお天道様の様な煌きも優しさも何も感じない。虚の笑いが胸にグサリと突き刺さる、冷たいお顔。


「此処で何をしておられるのだ?」

「幸村様にお団子を届けに参ったのですが・・・迷ってしまいまして」

「そうでござったか」


それだけ言って幸村様は包みを受け取られるが、甘味に対する以前のような輝きは微塵も感じられなかった。


「・・・なまえ殿。折角来られたのだ、某の部屋で休まれて行かれよ」

「い、良いのですか?では、少しだけお邪魔させていただきます」


拒否をさせぬ幸村様の鋭い目付きに、思わず首を縦に振ってしまった。今の私は怯えと恐怖に満ちた酷い顔をしている。ああ、幸村様に対して失礼なのだろう。


「なまえ殿、如何なされた?部屋は此方でござる」

「はい、失礼いたします」


私のような町娘が入って良いとは思えぬ程に広い部屋に、格差を思い思わず俯く。そして幸村様の顔を直視出来ぬまま私は口を開いた。この空気が怖くて、なんでも良いから違う話しがしたくて。

「あの、幸村様?」

「何でござろう」

「最近あまり来られませんね。体調が悪いのかと心配だったので、今日は幸村様のお顔を見れて安心いたしました」


私の言葉に幸村様は冷たく笑う。


「ならば某と目を合わせようとしないのは何故でござるか?」

「え・・・」

「先ほどから、俺の事を見ようとしない。それに全身から恐怖を感じる・・・・・俺が怖いか?なまえ」


そう言われハッとし幸村様としっかりと目を合わせ、ゆっくりと首を横に振るう。しかしもう遅いのだろう、幸村様は悲しそうな顔で暫く私を見つめたかと思えば、今度は「ならば・・・」と言葉を添えて。


「俺が好きか?」


と、問うて来られた。予想をしていなかった言葉に驚きで目を見開いたその瞬間、何故か私の視界には天井と、目の前には幸村様のお顔があって。そのお顔は今にも泣きそうで。瞬時には理解の出来ぬ言動に、私は息をするのがやっとだった。

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