pkm 短編 | ナノ

その後、私は順調にジムバッジを集め続けていた。Nとは何回か鉢合わせして、というか、この間はダークトリニティとかって奴らに攫われて無理やりNの前に引っ張り出されたんだけど。とにかくバトルの繰り返し。でもNには絶対負けない。意地でも勝ってやる。

ライモンシティでの一件以来、私たちの関係は変わってしまった。今でははっきりと、白と黒のように分かたれている。私たちは、お互い敵同士なんだ。


**********


フキヨセジムのフウロさんに勝った。
バッジを貰ってジムを出ると、外は雨が降っていた。あちゃー、フキヨセシティは天気が変わりやすいって本当なんだ。ジムに入るときは雨なんか降ってなかったのに。

ふと、出口の横を見ると人が立っていた。

「うわっ!!」
「トウコ・・」

Nだった。びっくりして心臓が飛び出すかと思った。

「何してんの!?こんな雨の中!」
「トウコを待ってた」
「バカじゃないの?!傘もささずに・・ったく世話の焼ける!」

私は鞄からタオルを取り出し、Nの頭をガシガシと乱暴に拭いた。

「いつからいたのよ・・・このままじゃ風邪引くでしょーが!早く屋根のあるところにっ」
「トウコ、聞いて」

Nが私の腕を掴んだ。小雨とは言え、ずっと降り続く中で待つのは寒かったはずだ。それなのにNの手は熱かった。

「キミのポケモンと話をさせて」

私は一瞬ためらった。でも何故か、ポケモンもそれを望んでいる気がして。
素直にモンスターボールからフタチマルを呼び出す。Nはひどく真剣な表情でフタチマルと向き合った。

「フタチマル。トウコがどんなトレーナーか、教えてよ」
「・・・フタッ」
「・・そうか、トウコはカノコタウンで生まれ育ち母親と二人暮らしなんだ。ポケモン図鑑をきっかけに世界を見聞するための旅をしている・・・と」

驚き目を丸くしてNを見つめる。ポケモンと会話ができるって、本当だったんだ…!
ぶっちゃけかなり疑っていたけれど、こんな風に言い当てられたら認めるしかない。

「いきなり、なんでそんなこと聞くわけ…?関係ないでしょ」

敵だし、という言葉は飲み込んだ。実際Nはプラズマ団のリーダーで、私は目的遂行を阻止しようとする邪魔者、のはず。

「確かめたかったんだ。キミがどういう人間なのか、キミのポケモンに直接聞きたかった。ポケモンは嘘をつかないからね」
「確かめてどうするつもり?」
「ボクらは相入れない道を歩んでいる。互いに否定し合っている…だからこそ、キミは選ばれた」

さっぱり意味が分からない。選ばれた?何に?


「すべての人とポケモンが、キミたちのように信頼し合っていたらいいのにね」

雨は柔らかく降り続いている。私の帽子を、髪を、肩を濡らしていく。

「ゲーチスはプラズマ団を使って特別な石を探している。ライトストーンとダークストーン。その石から伝説のポケモンを甦らせトモダチになり、ボクが英雄であることを世界に認めさせ従わせる・・。力で世界を変えようとすれば反発する人が出て来て、その結果傷つくのは愚かなトレーナーに利用される無関係なポケモンたちだからね。ボクの夢は争うことなく世界を変えること。キミたちのように、お互いに向き合っているポケモンとトレーナーを切り裂くことになるのは・・・正直、少し胸が痛むけれど」

そう言って微笑むNは本当に苦しそうな顔をしていた。彼の中にある葛藤が目に見えるような。
そんな顔をされたら私の方が…痛いよ。

Nが言いたいこと、少しは分かる。自分勝手なトレーナーのせいで傷つくポケモンがいるってこと。でも、全てのポケモンとトレーナーを引き離すのは間違っていると思う。

・・・いや、正しいとか正しくないとかって言うより、私はただポケモンと離れるのが嫌なんだ。そして、ポケモンたちもそう思ってくれていると信じている。

旅の中でバトルしたり色々な人とポケモンに出会ったり、そうやって築いた絆が私たちにはあるから。

「どうすればいいのかな・・・フタチマル・・・」
「キュゥー・・」

フタチマルを抱きしめながら、遠ざかるNの後ろ姿を見送る。
静かに降り続く雨は、まるで彼の気持ちを代弁しているかのように見えた。


**********


それから数日後。リュウラセンの塔の最上階。

宙に浮くダークストーンは周り全てから力を吸収し、一気に解放した。
渦巻く風が凄まじい勢いで押し寄せる。私は顔を腕で覆い、飛ばされないように踏み止まるので精一杯だ。

圧倒的な力の中心に立っているのはNとゼクロム。
彼は両手を広げ、興奮気味に語り出す。

「どう、トウコ。これが伝説のポケモン――ゼクロムの力だよ。世界を導く英雄のもとに現れ、共に戦うと言い伝えられているポケモン。これでようやく、ポケモンだけの世界を実現することができる・・・!」

「N!!」

「ボクたちを止めたいなら、キミも英雄になればいい。ゼクロムと対となるポケモン――レシラムを探し出し、キミを認めさせるんだ。レシラムはライトストーンの状態でキミを待ってる」

「っなんで私なのよ!アンタを止めたいって気持ちは人一倍あるつもりだけど、伝説のポケモンに選ばれる必要なんて、ない!」

「違うよ。レシラムに選ばれてこそ、ボクらは対等になれるんだ。そしてもう一人の英雄は――キミしかいないと、ボクは予測している。ポケモンと人の絆を守りたいと思うなら・・・探し出すんだ、レシラムを」

「勝手なことばかり言って!待ちなさいよ・・・っ!」

ゼクロムの背に乗って空を飛んで行くNに向かって叫ぶ。
きっと彼には聞こえない。神々しく輝く“理想”に目が眩んで、周りのことなんて見えていないから。

(アンタの掲げる“理想”のせいで、どれだけ多くの人とポケモンが悲しむか分かってんの・・・?!)

分からないなら、分からせてやる。
対等な立場ってやつに、なってやろうじゃないの。


**********


それからジムリーダーの人達やアララギ博士の協力もあって、私は無事にライトストーンを手に入れることができた。
これでNとゼクロムに対抗できる・・・といっても、まだストーンはレシラムになる兆しを見せていない。

とにかく、早くNに追いつかないと。確かポケモンリーグに行ってチャンピオンを超えるとか言ってたから、まずは四天王に挑戦してみよう。

「準備はいい?ダイケンキ」
「グオォー!」

私が最初に選んだポケモン、ミジュマルはフタチマルに進化し、さらにダイケンキへと最終進化を遂げた。立派になった相棒の頭を撫でて、パーティのみんなをばっちり回復した私はいよいよポケモンリーグへ出発した。


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