pkm 短編 | ナノ

第一印象は“変なヤツ”だった。


「ねえ、キミのポケモンの声をもっと聞かせてよ」
「あーもう、ついて来んな!」

ミジュマルを守るように抱きしめ、早足で草むらを歩く。私たちの後ろには薄い緑の髪をした変人・・・もとい、Nがキラキラした瞳で追いかけて来ていた。
旅を始めて最初に着いた町、カラクサタウン。そこで話しかけられて、バトルをしたのが30分前。それからずっと後にくっ付いてるんですけど。何なのこの人!

「ミジュッ・・」
「トウコ!ミジュマルが苦しいって言ってるから、腕の力を緩めて」
「あっ、・・・ごめんねミジュマル!大丈夫?」
「ミジュー」
「ポケモンは人間と違ってデリケートだからね。もっと優しく扱わないとダメだよ。しかし人間よりもポケモンの方が遥かに優れた能力を持っているということを忘れては・・」
「だああうるさいっ!早口でしゃべるな!大体誰のせいだと思ってんの!!」

私が振り返ってキッと睨みつけると、Nは首を傾げた。本気で分かってない顔してるのが余計にムカツク。

(早口だし、一方的に喋って人の話は聞かないし・・・絶対この人電波だわ)

いや、そもそもポケモンと話が出来るとか言ってる時点でアウトか。

「そろそろ行かなきゃ。またね、トウコ!」
「・・・」

意味分からん。勝手について来ただけのくせに。しかも『またね』って何…

正直あまり関わりたくない、な。


**********


「やあ、トウコ」
「あんたはストーカーか!!」

それからというもの、私たちの行く先々にNは現れた。初めて出会った時と同じ、無駄に爽やかな笑みを浮かべて。

「ストーカー?ボクは旅の途中で偶々この町に立ち寄っただけだよ」
「・・・本当に?」
「うん」

Nはきょとんとした表情で私の顔を見つめた。どうやら本当に偶然だったらしい。

「・・そう。すごい確率で会うもんだからてっきり・・」
「確率の話かい?美しいね、キミとボクが出会う可能性を数式で表すと・・・」

また始まった。数学の話をされても私にはわけが分からないっつーの。前にも、世界を変える数式がどうたらって言っていたけど、結局分かったのはNがポケモン大好きってことくらいだった。

そういえば、Nはポケモンリーグを目指してるんだろうか?だとしたら、各地のポケモンジムを巡っている私と鉢合わせするのも頷ける。

「Nはジムバッジ集めてるの?」
「いや、集めてないよ」

はい違った。

「ポケモンリーグに興味ないんだ?」
「いや、いつかは行くつもりだよ。あそこにはチャンピオンがいる」
「じゃあ、ジムに挑戦すればいいのに。てかバッジ集めないとチャンピオンと戦えないでしょ」
「その必要はないよ。ボクはチャンピオンになりたいわけじゃないし、無駄にポケモンを戦わせて傷つけるのは嫌だからね」
「・・・?でも、私と戦ってるじゃん」
「それはボクとボクのトモダチで未来が変えられるか確かめるためさ!」

Nは両手を広げて言った。このポーズ、バトルの時にいつもするやつだ。弱いくせに強気なんだよね、Nって。

「キミは確かに強い。でもボクはチャンピオンを超える!そのためにはトモダチの力が必要なんだ。伝説のポケモン、ゼクロムの力が」

Nは言いたいことを言っていつものように勝手に去って行った。

チャンピオンを超える…?ゼクロム…?

・・・やっぱりNの考えてること、私には分からないな。


**********


「よしっ!よく頑張ったねミジュマル!」
「・・・またキミの勝ちか」

久々にバトルをした後、Nは仕方なさそうにため息をついて座り込んだ。
・・・いつも思うけど、バトルする前からなんか諦めてる気がするんだよなぁ。

Nは顔を曇らせてキズぐすりを取り出し、倒れたポケモンたちの手当てを始めた。なんでか理由は知らないけど、ポケモンセンターには行きたくないんだって。

「・・・Nってさ」
「なんだい?」
「バトルする度にパーティ変わってるよね。最初はチョロネコ、この前はマメパトだったっけ?今回はオタマロだし。なんでそんなにコロコロ変えるの?」
「・・モンスターボールに長く拘束しておくなんて、ボクはそんなことしない。それでは他のトレーナーと同じになってしまうだろ?」

Nは恐いくらい純粋な瞳をこちらに向けた。その視線は、私を非難しているようにも見えた。

「少しの間、トモダチの力を借りるだけだから。終わったらみんな解放する。チョロネコとマメパトはもう解放した」

ゆっくりと、怪我を労わるようにオタマロを撫でる。じゃあ、Nはバトルが終わった後にポケモンを逃がしていたの?せっかく仲間になれたのに。

「・・そのオタマロも?」
「そうだよ」

迷いのない声でNは答えた。オタマロはNの膝の上でじっとして、大人しく撫でられている。このドヤ顔、最初はウザかったけど今はそうでもないな。見慣れるとなかなか愛嬌のある顔だ。

「その子、ちょっとNに似てる。・・・いいパートナーじゃん」

私が呟いた声に、Nは何も返さなかった。


**********


次に私たちが会ったのは、ライモンシティの遊園地。

逃げたプラズマ団を追いかけていたところ、「上から見た方が探しやすいよ」と言ってNは私を観覧車に誘った。・・・っていやいや!そんな悠長なことしてたらプラズマ団に逃げられるわ!!
そう思いながらも一緒に乗ってしまう私も私だ。どうかしてる。

しばらく無言で外の景色を眺めていると、Nはいきなりとんでもない告白をしてきた。

「ボクはプラズマ団の王様だ」

「・・・は、?」

何を言ってるんだ、こいつ。

絶句している私を尻目に、Nは涼しい顔で自分の理想、プラズマ団の目的とやらを語った。
私はいろんなことが衝撃的すぎて反応できなかった。

・・・薄々感づいていなかったと言ったら、嘘になる。

Nとプラズマ団の思想は似ていると前から思っていた。それでも、Nがプラズマ団の黒幕的な存在だったとは想像もしていなかったわけで。

最近はNの奇行にも慣れてきて、ポケモンの話で盛り上がったりとか。
結構、楽しいかも・・・とか

思ってた、のに


観覧車を降りた後、Nは言った。

「キミがポケモンといつまでも一緒・・そう望むなら各地のジムバッジを集め、ポケモンリーグへ向かえ。そこでボクを止めてみせるんだ。それほどの強い気持ちでなければ、ボクは止められないよ」

なんで、そんなことを言うんだろう。

なんで、私に?


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