白なんて嫌いだ。
目障り。
城の庭園の白バラなんてとくに。
陛下は黄色と白色のバラのコントラストが美しいと言うが、私には不快にしか感じられない。
白バラなんて、全て黒く塗り潰してしまえばいいのに。
この世から不快な白がなくなって、黒く、黒くなってしまえばいいのに。
ペーターホワイトの白色なんて、大嫌いだ。
「ペーター?」
陛下の仕掛けた罠にまんまと引っ掛かってしまったアリスは、城から投げ出され、只今落下中だ。
測量会前で彼女に膨大に増えてしまった仕事を手伝ってもらっている反面、今死なれたら困る。
というわけで助けたのだが、よりにもよってあのペーターホワイトと間違えられようとは。
虫酸が走る。
助けたのがペーターではなく私だと気付いたときの彼女の罰の悪そうな顔といったらもう。
腹立たしいことこの上ない。
それにアリスは私を見ると、時々悲しそうな顔をする。
彼女の前にいるのは私なのに、まるで私じゃない誰かを見ているよう。
私をペーターホワイトと重ねでもしているのだろうか。
これまた不快で仕方ない。
撃ち殺してやりたいくらい。
だが、簡単には彼女を殺せない。
あんなに嫌いだったのに、何故だか手が時計に、拳銃にのびない。
殺そうとするには、彼女と関わりすぎてしまったのかもしれない。
余所者は誰からも愛されるという。
確かにこの私も、彼女のことが嫌いなのに、姿を見付ければ関わらずにはいられない。
どうでもいい世間話や愚痴を話してしまう。
殺すなら、もっと早く手を打っておくのだった。
今更もう遅い。
君はいつか私を見ても悲しい顔をしなくなるだろうか。
私の影にあの忌々しいウサギを重ねないで、私だけを見てくれる日がくるのだろうか。
もしも、そんな日が来たら、自分達の関係は少しずつ変わっていくのだろうか。
君も迷わず、惑わされず、ここが自分の居場所だと、胸を張って言える日が来るのだろうか。
そんな日々は、もうすぐそこに。