心操姉2

 弟と禁断の甘い果実生活が始まった。

 朝、仕事の返信をしながら後ろ手に人使を学校へ送り出してしばらくしてからトイレに立つと玄関に十中八九忘れ物であろう藍色の巾着袋を発見してしまった。

 遠慮なく中を確認すれば体操着が入っていて時計を見ると時間的にはもうすぐ学校に着く頃。写真付きでラインを送ると絶望感溢れるスタンプが返ってきて普通に鼻で笑ってしまった。お姉ちゃんが持って行くねハァト、と返信。

 全く手間の掛かる弟だこと…。とは心にも思ってないし寧ろ忘れ物を届けるのってなんかいい。嫌いじゃないシチュエーションだ。若々しい学生の空気に触れるわけだ。若さを吸い取ってこようケケケ。

 やっぴ〜久しぶりにベェク乗れるじゃんねぇ。
 黒のスキニージーンズ、細身でカッコいいライダージャケット、スモークシールドのフルフェイスヘルメット。
 それらを身につけた姿見に写る自分がかっこいい。あ〜かっこいい。どの角度から見てもかっこいい。が、今は見惚れている場合じゃないので急いで駐輪場へ向かって一ヶ月放置していたバイクに跨った。 よかったギリガソリンある。やっぱちょっと砂埃かぶってるな〜。

 私は何事もまず形から入るタイプだ。
 できるできない関係なしにお金を掛けて道具を揃える。「今さら後戻りなんて手遅れ」の状態にしてからそれを原動力に免許を取ったりする。そして趣味は広く浅く、守備範囲は広い。思いついたものは手当たり次第にやってみる。なにごとにも経験は大事だ。経験値のある人間ってかっこいいから!!





 自宅から中間地点を過ぎた頃、だいぶ先から校門で待ってろと伝えたはずの自分と同じ髪色をした学生が歩道を走る姿を見つけて鼻筋にシワがよった。部族くらい私は目が良い!!

 こいつはホント言うこと聞かんな〜!!行き違ってたらどうすんだボケワレガキィ!と心の中で悪態を吐きながら人使に横付けしてバイクを降りてシート下からヘルメットを取り出し、逆立った頭に被せた。そして怒りを込めて軽く小突く。

「大人しく待つことも大事」
「ん…」

 申し訳なさそうにしずしず後ろへ跨り無言で小さく私の腰にしがみつく弟。んきゃわ〜〜〜!!きゃわすぎて全て許した〜〜!そうだよね〜何もせず待ってるなんて出来ないよね〜〜!これはお姉ちゃんが悪かったね〜〜ごめんだね〜〜!
 徒歩だと果てしなく感じる雄英の塀も2分で辿り着くのが単車。朝練に遅れることはない。心配するな全てお姉ちゃんに任せろ。

「練習なん時から」
「7時」
「よっゆ〜」

 最早こっからチンタラ歩いても間に合う時間なんだが。早めに行ってアップするんだろうか、やる気元気人使じゃん。
 高校生って青春だよね、今思うとホントこの時期は一瞬だったわ。また制服着てプリクラ撮りてぇ〜〜!意味もなく街を練り歩きたいJKブランド。26になっちゃったの普通にしんど。
 
 秒でついた雄英。他の生徒の邪魔にならないよう校門から少し離れた植え込みで人使を降ろして頭からヘルメットを抜き取る。少し潰れた髪をもみもみして直してあげるけど、されるがままなの可愛すぎて流石にキレそう。

「お、」
「あ…おはようございます」
「おはようございます〜」

 角から歩いて出てきたおじさんに人使が挨拶したのでその流れで私も挨拶しておいた。……相手はなぜか立ち止まって足を進める気配はない。なに?会話続ける感じ?若干戸惑いと不審の視線を人使に向けると「あぁ」と納得したような声で喋り始めた。

「トレーニング見てもらってる先生。この人姉です」
「相澤です。どうも」
「………。あ〜はは!弟がお世話になってます〜」

 えぇ〜!先生ってええぇぇ〜!!身だしなみの基準どうなっちゃってんの〜〜!驚きすぎて普通に「まじ?」の顔しちゃったよ…。
 う〜ん、確かにヒーローって感じのなかなかにいい身体をしてる感がある。毛髪もライオンの如く立派で威圧感があるのかな?櫛通らなさそう。

「じゃ頑張ってね〜」

 メットのシールドを下げたついでに先生にも軽く頭を下げてから人使に指ハートでズキュンズキュンと激励を送る。めちゃくちゃ恥ずかしそうにしてて思春期わろた。
 
 このままモーニング食べて帰ろ。小倉トーストゆで卵クリームソーダは鬼リピ。
 


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