ハリポタ2

 
 簡潔に言おう。雄英高校預かりの身になった。
 窓を飛び出した後の記憶がない。雄英の教師でえっちな格好をした女性の眠り香を吸って私は眠りにつき、落下する寸前になんとか屋内へ引っ張り込まれたらしい。
 どうにも私が認知していた従来のマグルとは全く様式が異なるらしく、魔法とは似ても似つかぬ個性と呼ばれる力を持ち、街中には失敗したポリジュース薬を飲んだ見た目の人が普通にいる。


 目的地に辿り着けるかも分からない状態で私を送り出すことは出来ないそうだ。保護させて欲しいと強く懇願されたことに渋っていると、自分達は魔女や魔法使いが恐ろしいのではなくこの力をヴィラン連合の手中に入れられるのが一番の脅威になると言われた。
 トロールだと思っていたやつも元は人間だったらしく、もし万が一にもそのヴィランに捕まったらあんなんにされるかもしれないということだ。普通にムリ。

 どの公的な施設より最も安全性の高い場所がこの雄英高校らしい。いや奇襲とかいって入り込まれてたけど…うーん、まぁマグルの施設はたかが知れてる感じなのかな。日中は学校で過ごして寝泊まりはセキュリティのしっかり整った部屋を用意してくれた。
 杖はもちろん、荷物はすべて返して貰った。マグル対魔女って圧倒的に魔女勝利でしょ。そこまで心配されなくてもそこそこ自衛はできる。強制的に眠らされてたけど。あれはノーカンだわ。


「よろしくお願いしま〜す」

 そんな私を挟む形で両隣に教師が2人住むことになった。ヴィランから市民を守るプロヒーローらしい。ヒーローにプロとかあるんだ。

 ひとりは山田ひざしさん、優しいグリーンの瞳とシャイニーブロンドの髪を後ろで束ねている爽やかな姿にチョビッと生えている髭もセットされていて清潔って言葉を擬人化した感じ。自然が友達な山の民そのものであるうちの教師たちとは大違いだ。
 そしてもうひとり住むはずの先生は襲撃によって負傷して入院してるらしい。お互いに軽く自己紹介を済ませると連絡用のスマホを支給された。電波が遮断されない限りは瞬時にメッセージが届くマグル製品。
 薄々ではなくめちゃくちゃ思っていたがマグルの文明進み過ぎてない?こちとら未だフクロウ使って文通してるんですが。

「又聞きしたんだけどよォ、箒で飛べるってマジ?」
「飛べますよ。後ろ乗ります?ちなみに姿も隠せるのである」
「…マジ?」

 マジマジぃ〜、と返事して少し開けた玄関の隙間から呼び寄せ呪文で箒を手中に納めた。あでも男の人は股間にサポーターいるわ。私使わないから持ってないなぁ〜。

「なにか分厚いお尻に敷けるものあります?たぶんお股がちょっと痛いかもなんですけど」
「Ah〜…なるほどオッケ。すぐ戻るから玄関入ってて」

 私の部屋を指差して「入っててね」と念入りに言う。もしかしてこんな過保護がこれから続くのかな?最初だけだと信じたい。それに自室はマグル避けの呪文掛けてるからちょっとめんどくさい。はぁいと返事しながら山田さんの背中をグイグイ押して無理矢理彼の玄関に押し入るとほぇ?みたいな顔をしつつもまぁいっかと納得して敷く物を取りに部屋へと進んで行った。

 え〜なんかいい香りする〜。うちの学校は薬学とかのせいで常時クサイのが普通だったからもしかしたら全てがいい香りに感じるだけかもしれないけど、男の人でこんないい香りってあり?ずっと嗅いでられるんだけど…。でも嗅ぎすぎて既にちょっと匂いわからなくなって来た。

「なになに、ニオウ?クサイ?」

 一心不乱にスハスハ鼻を鳴らしていると山田さんがバスタオル片手に深刻そうな表情で立ちすくんでこちらを見ていた。うんうん、プライベートゾーンの匂い嗅がれると緊張するよね。
 めちゃくちゃ深刻な顔してるから笑えてくる。いい匂いすぎて感動していた事を伝えると何度も本当かと確認してきてマジで気にしてるんだなと思うと尚さら笑えてしまった。

「大丈夫大丈夫〜。行きましょ。靴履いて〜、鍵閉めて〜。はい跨いで。ポジション整えて〜。ちょっと浮きます。痛い?降りますね。…よさそうです?うん、いいみたいですね。じゃあちゃんと私にくっついて下さいね。もっとくっついていいです、密着するくらい。慣れてないとバランスとるの難しいですから。私も落ちたくないので」

 女子に引っ付く事に躊躇している山田さんをハイハイと急かして私の脇下から腕を通して箒を握らせた。自分でやらせといてアレだが大きな身体に包まれてる感がちょっと照れる。いやぁ男女交際とかなかったものですからね。へへ…。

 目くらまし呪文を掛けると後ろから「ウォッ」と驚く声が聞こえたので冷える感覚があるって事を一声掛けるべきだったなと少し申し訳なくなった。

「行きますよ〜」

 空の旅へご案内〜〜!と気分はロケット発射だが初飛行のマグルを乗せてるから実際そんな勢いよく飛ばない。慎重に行く。

 怖いのかそれとも股間の圧を分散させているのか、脇腹にあたる腕が私を抱き締めるようにギュッと力んでトキメキが止まらない。だって山田さんかっこいいし筋肉質でめちゃくちゃ男を感じる身体つきだからさぁ〜!

 程よく飛び回ってから降り立つと箒から身体を離した山田さんの瞳は純粋無垢な少年のようにキラキラと輝いていた。まだ魔法学校に通う前の自分を思い出した。私も箒に乗りたくて親に毎日ねだってたわ〜。

 夢を1つ叶えたらしい山田さんにその日の夕食をご馳走になった。お寿司美味しかった。

 


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