埋め火1

 
 ずっと『芯のある人』に憧れていた。
 小さい頃から特にやりたいことはなくて、なんとなく過ごして来たから。

 親は二人とも忍を生業としていたのでそれなら自分もとアカデミーを卒業して同じ道に進んだ。

 周りの同僚はやる気に満ち溢れ、国に尽くしてその身を燃やし、消える。なにが彼らをそれほどまでに執着させるのか私にはわからない。

 志しも目標もない。誇り高い血族でもなく、生活するお金の為に任務を請け負って日々を過ごし、流れるように時間が過ぎていく。

 ーーーさむい…もうダメかもしれない

 身体から流れ続ける血液を止めることさえ諦めてリンはゆっくりと目を閉じた。傷口を押さえていた手は出血のせいでガクガクと震えて力は入らず、足も冷え切り身体が重い。
 相打ちになった相手も目の前でたった今事切れていた。

 生きていたいと思うほど幸せなわけでもないのに死ぬのが怖い、ずっとそう思っていたのに今はそうでもない。
 ただとにかく寒くて眠いだけだった。


 ▽



「受験はえーわ」
「志望校どこにした?」

 自分も含め、周りは受験真っ只中。死んだ私は記憶を持ったまま今年で15歳を迎えた。

 輪廻転生というのか、私の血族にも記憶を持って生まれた人がいたとかいないとか話を聞いたことがあるけれど、まさか自分がそれを体験するとは夢にも思わなかった。


 そんな今世でも相変わらずやりたいことは無く、ただ時間の過ぎる日々を送っている。
 父からお淑やかに生きろと言われたのでとりあえずそうしているし便利な物で溢れかえっているこの世代で苦労することはなく、誰に蔑まれているわけでもないので日々のうのうと暮らしている。

「リンは?」
「うん、私も同じ」

 友人と同じ高校を記入したプリントを学級委員に渡した。
 自分の進路すら周りに流されて決めてしまっている。せっかくやり直せる人生があるのに、なぜ私はまた同じ道を歩んでいるのだろうか。

 ただ怠惰な性格なのかどうなのかすら自分でもよくわからない。何かにのめり込んだり目指したいものがない。打ち込めることなんて作ろうと思ってできることじゃないので本当に悩んでいる。

「やっとおわった〜。 ね、プリ撮り行こっ」

 屈託のない笑顔の友人に連れられてたびたび撮りに行くプリクラはもはや顔が別人になる。そのシール自体に使い道なんてないけれど、可愛くなるのは嬉しいしラクガキするのも楽しいからつい撮ってしまう。

 モール内の小洒落た雑貨屋でプチプラコスメを吟味して盛り上がったり、その後にフードコートでポテトを食べながら聞く恋バナも嫌いじゃない。過去に体験することができなかった友達との青春を過ごしている今に多少なりとも満足さえ覚えている。
 そう考えると自分は毎日それなりに充実した日々を送っているのかもしれないと今初めて気がついた。

 このままのんびりとした生活も悪くない。この国は戦争もないので死に急ぐような働き方もしなくていい。
 公務員にでもなってほどほどに仕事してゆっくり暮らしていくのもありだな、なんてざっくりした未来を考えながらショッピングモールのトイレで用をたしているとショップの方から賑やかなものとは違うざわめきが聞こえてきた。

 リンはいそいそと手を洗ってからトイレの通路を抜け、友人の待つフードコートを覗く。そこには目出し帽やゴーグルをつけた黒ずくめの集団がナイフや獣のような鋭く伸びた爪を使って人々を畏怖いふさせ、人質を集めている状況が目に入ってきた。

 15人ほどの集められた者は全員女子学生だ。怖いのだろう可哀想に、怯えて友達とくっつくように縮こまっている。その中にリンの友人もいた。周りは友達同士でくっついているがひとりぽつんと座り込んでいる姿からは不安と恐怖が滲み出ていて、トイレに立つ間が悪すぎたことに申し訳なくなる。

 そんな様子を顔が隠れていても分かるほどニヤニヤと舐めるように見て楽しんでいるヴィラン集団を目にしてリンは一気に腹が立った。
 こんなにも平和な世の中でどうしてそんな愚かな行為ができるのか、なぜ争いの種を蒔くのか。そして見るからに愉快犯なところがまた腹立たしい。

 ーーーあ〜…嫌いな人種。

 何がしたいのかと問えば恐らくヒーローに対する対抗心、今まで己を蔑ろにしてきた環境への力の誇示が多くを占めるだろう。今までニュースや間近で見てきたヴィラン事件はそんな理由が大半だった。
 個性コンプレックス、ヒーローコンプレックス、今のヒーロー社会が作り上げた日の光があたらない人間達による弱者を巻き込んだデモ活動として平和の均衡を崩している。


 他の客や店員が我先にとこのフロアから脱出する為に押し合うなか、楽しそうに声を上げて笑っているヴィランがこれ見よがしに女の子達へ聞こえるように喋り始めた。

「もうすぐヒーローが来るぞ」
「目の前で犯してやろうぜ」
「女をどれか一人連れてこい」

 ヒュッー

 喉の締まる音がした。
 女の子達の音ではない。怒りでリンの喉がヒクついたのだ。
 自分の勝手な自己誇示の為に無害な少女達を見せ物として辱める屑の鑑。そんなヴィランを目前に昂ぶる感情を抑えようと深呼吸をするが冷静になるにつれてリン目が据わってきていた。

 どうせそんな思考回路のヴィランは更生なんかしない、正当防衛として男の象徴を取り除いてしまおうか。最終的に落ち着いた答えは過激なものだった。


 


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