彼は何も語らない

何処に行くのか、何をしに行くのか、いつも「バイバイ」とだけ言ってあのドアから出ていく。今日も彼より早く起きて朝御飯を作って「美味しいね」って言葉を聞いて安堵し、ボディーソープの香りがする彼の体に抱きつき「いってらっしゃい」と言う

彼が出ていった後はひたすら待つ

ある日は頬に誰かの返り血をつけて死臭を漂わせ帰ってきた。仕事だとは思うがあの気まぐれなヒソカのことだ、きっとまた気に入らない人でも殺したのだろう

またある日はあの有名な殺し屋一家、ゾルディック家の長男イルミを連れて帰ってきたことがあった。イルミとは程よい距離で付き合いをしているのだろう、お酒を嗜みながら聞く彼等の会話を聞いていると段々と眠くなって気付いたら寝ていた事があった

今日は何時に帰ってくるのだろうか、彼が帰ってくる前に眠気に勝てず寝てしまうのだろうか

、、、何か危険なことに巻き込まれていなければいいけど

そんな不安が過ぎる

彼は自分のことを話さない。一緒にいるようになってから学んだことは、彼の過去を聞き出さないようにするということ。いつだったか興味深々で聞き出そうとした時「ボク覚えてないなぁ」と、一言で終らされたことがある

それはこれ以上何も聞くなと言ってるのと同じで暗黙の了解とも言えた

世間からは殺人鬼と呼ばれている彼だが、そんなことはないと私は思っている。彼が時折見せる優しさはあまりにも儚くて消えそうになるけど、それを受け止めた私はいつも心が温まる

何故そんな殺人鬼と一緒にいるのか、友達に問われたことがある

「何ていうか、あの瞳に惚れたというか」
「可笑しくない?人を殺すんだよ?」
「あの人は、、、寂しがり屋なのよ」
「アンタも物好きねぇ」

そう、寂しがり屋。仕事から帰ってきたあと私がベッドにいないと部屋の隅々まで私を探し始める。見つけると嬉しそうに「そこに居たんだ」と笑みを浮かべそのままベッドまで一緒に行く

それが嬉しいから、私はたまにわざと別の部屋に居ることがある。彼が私を見つけてくれるのが愛おしくて、「見つけた」って楽しい玩具を発見したかのような目で見られるとゾクッとする

私も可笑しいのかもしれない

色々考えていたら夜中が来た。今日もまたちゃんと「ただいま」と言って帰ってきてくれるだろうか



私のいる家に



貴方は安心して「ただいま」と





私はそれを待ち侘びて待っている





「おかえりなさい」と笑顔で言えるまで








Fin


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