▽いつかの夜の真ん中で
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シャワーを浴びた所で力尽きた。
重力に任せて、どさっとベッドに倒れこむ。
足元に丸まっていた薄い上掛けをのろのろと引っ張り上げて、無造作に身体に巻きつけると、ようやく一息つく。
身体は疲れているのに、妙に頭が冴えてしまっている。
目を閉じて見ても、手に残るのは人を斬る感触だ。
深く肺の奥から息を吐き出し、報告を済ませる為、受話器に向かって手を伸ばす。
何度となくかけ慣れた番号をゆっくり押し、電話の相手が出てくれるのを待つ。
本当はすぐに報告するべきなのだけど。

いつも、何事も上手く行くわけではなのだ。
そんな事はわかっていても出きることなら…ー。
助けたかったんです。

何て報告しようかと思考を巡らせていると、電話が繋がる。

「もしもーし、冴子さん」
声を絞り出す。
情けない声にならないように、気を付けて。

辿り着いた先で待っていたのは、ただの「死」で。
死なせないために戦っていたのに、招いた結果は殺人となんら変わらない。
自ら手を下した。
何度目か分からない位の、苦しくて熱いどす黒い感情が、胸の中に込み上げてきて、ぎりっと唇を噛んだ。
「助けられなかった。ひとまず色々と済ませて明日帰りますから」
やっぱり相手に届いた声は、情けない声だったかもしれない。
今更、今更何を言っても無駄なのだ。
簡潔に用件だけを済ませて受話器を下げるつもりでいた。
起きてしまった事も、時間も、もう戻らない。
後悔しても、守れなかった命も失ったものも、もう二度と戻ってなど来ない。
後悔しない為に戦っている。
だからと言って、招いた結果に"はいそうですか"と、全てを簡単に割り切る事は出来ない。
謝っても謝りきれない、それでも心で、ごめんね、と呟く。

受話器の向こうで
「お疲れ様」と、小さく声がした。
あー冴子さんの声だ、と、声を聞いてほっとする。
「待ってるから」と、冴子も簡潔に答えてくれる。
帰る場所を知らせるように発された単語と、その意味に。
見えない思いが伝わる。
俺のごめんなさいも、どこかで届くかな。
「はい」
短く返事をした。
自分から切るつもりで、切れないままでいた電話に、室内に寝転がったままの姿勢で、ベッドから見上げるように部屋の窓から空を見れば、月が静かに煌々と輝いていて、
どこか儚げでとても綺麗なのに、空虚なのは、何故なのか。

からっぽ。

でも、からっぽも悲しいって知ってるから。

「月が綺麗ですよ」
離れていても、きっと思いは一緒で。
この空も、冴子や亮介君のいる空にも繋がってると思うと、俺も見捨てられていないんだなって思えて少し救われる。
彼女は同じ空を見ているだろうか、なんて、とロマンティックな事を思ってしまった。
待ってるから、と可愛く言われてしまったら、今すぐにでも飛んで帰ってぎゅっと抱きしめて今日はこのまま眠ってしまいたいところですが。
「冴子さんは、いつも待っる役だね」
「いつもじゃないでしょ」
「そうでした、押しかけてくるんでした」
「感謝してよね」
そう言うと、忍様も待ってるわよと当たり前に付け加えた。

―うん、わかってます。

「帰ったらとりあえず、お兄様抜きで、水沢と夜のお散歩デートでもいかがでしょうか」


2011/1/14→加筆:2012/1/26

 

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