▽南天
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ドンっと、鈍い音をたててベッドの柱に頭をぶつけた。
声にならない声で、アイタタタと頭をさする。
綺麗に整った冴子さんの顔が心配そうに上からこちらを覗きこんでくる。
ちょっと涙目だ。

「…大丈夫?」
何もそんなに力を込めて突き飛ばさなくても。
「大丈夫じゃないから責任とって下さい」
そう言うと、綺麗な顔が困惑に変わる。
今はまだ簡単には受け入れて貰えないのかもしれない。
ここにたどり着くまでだって色々大変だったんだ。
そんな冴子さんの気持ちも重々わかるけれど。
それでも、まっすぐ向けられた濡れた眼差しに、理性が抑制出来なくなる。
とても大切な物なのに、いっそ乱暴にしてしまいたい…、そんな衝動に駆られ、彼女の柔らかい前髪を優しくかき上げてから、それから何もなかったみたいに、ゆっくりと撫で下ろす。

ふーっと息を吐き出す。

水沢まだまだ修行が足りませんね。

「なによそれ」
曲線を描いた髪がさらりと音をたてて顔に落ちてくる。
片手で引き寄せて、透き通る肌に手で触れてから、
両手で頬を包み込むように、
吸い込まれるように、
ちゅっと音をたてて唇に落としたキスに、
「ケダモノ」と、怒鳴るようにして冴子が視線を逸らした。
しん、と、静まり返る室内に冴子の声が響く。
「冴子さん声大きい。…ここの部屋、意外に壁が薄いから静かにしてクダサイ」
ぴくっ…と冴子が、小さく身体を反射させる。

唇を塞いで静かにしてしまいたくなる。
そのかわいい唇から漏れる、甘い声をもっと聞きたい、なんて。

「このままでは本当にケダモノになりかねないので、送ります」
なるべくいつも通りを装い、優しく微笑みかける。
逸らされていた視線がやっとぶつかる。

少し安心した顔。

困った顔も、
怒った顔も、
他の人には見せたくないんです。
自分の起こす、アクションひとつひとつに反応してくれちゃう冴子さんが、あまりにも可愛くて、嬉しくて。
本当はすぐにでも手に入れたいけど。

でも、今はもうちょっと我慢しますか。
長期戦、いつまで我慢が続くかわかりませんが。


2011/1/14 加筆:2012/1/29


 

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