▽ユキノソラ
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「ほら、雪だ。」
亮介が、嬉しそうに空を仰ぐ。

表に出ると、やっぱり雪。
うん、雪だ。
ちらほらと車や塀の上には
積もり初めている。
数センチという所か、
こんなにいっぱい
後から後から降ってくるのに
地面にはなかなか積もって行かない。
真っ白くあたり一面を埋め尽くすには
まだ時間がかかりそうだ。

今日の天気予報で綺麗なお姉さんが
雪が降ると言っていたっけ。
その通りになった。

降ってきた雪を掌に受け
嬉しそうにニコニコする亮介の、
その背中に寄せ集めて丸めた雪をぶつける。
「ちょ、何、諒!」
口から吐き出す息が白い。

穏やかな幸せな、時間。
我ながら、なかなかのコントロール。
まぁ当たり前か。

同じように空を見上げ
暫く眺めていると、
まるで吸い込まれそうな錯覚がする。
降りてくるのか、
昇っていくのか。
だんだん雪でない物体に見えてくる。

「何、人に雪ぶつけておいて、
自分だけ浸ってるんだよ。」
呆れ声と共に、お返しとばかりに
雪玉がドス!ドス!と二発、
後頭部に命中した。
その勢いに任せて
薄く積もった雪の上に
ゴロンと転がる。
「いや、幸せ過ぎて
怖いなと思って。」
「?」
覗き込んでくる亮介くんの、
お前はMかと言いたげな怪訝そうな
視線が痛いです。

「大切な物を失う時に
似てる気がするんです。
情けない事に
大切な物がいっぱいありすぎて、
怖い事だらけなんだけどね。」
眉毛を下げて笑う。

「幸せなのも、案外と
怖いもんだなぁと思います。」

この命を誰かの為に
使うことが出来るなら
それでもいいと思う。
それで自分がいなくなってしまっても。
自分の大切な物が
守れるなら全てが救われる。
自分と引き換えに
全部を守ろうなんて、
虫のいい話だなんて分かってる。
まだまだ俺にはそんな力はないし、
まして、そこに
俺もいられたらと願ってしまう。
誰も泣かないで済んだら
もっといいのに、と。
現実はそんな甘くないのに。

見てきて、体験して、
沢山殺してきて、
ちゃんと身を持って
分かっているつもりなのに。
幸せなのは不相応だと。
それでも、
そう願ってしまうのは、

甘えなのか、
贅沢なのか、
身の程知らずなのか。

生きていられたらなんて、
そんな弱い考え
自分らしくないし
間違えているけど。
そしてそれを、
亮介や冴子に伝えると
"馬鹿"と怒鳴られるから、
絶対に言えません。
悲しませると解かっているから。

それなのに亮介くん相手だと、
つい感情を漏らしてしまう
この口は。
どうしたものか。

幸せで、こわい?
どうして?
雪みたく、溶けて
なくなってしまいそうだから。
地面につくと形を残さず
溶け合って消えていく。
それでも降った事は
記憶に残るから。

溶け合って消えるなら本望だ。
消えてしまっても、
雪は幸せなんだと思う。


この中で消えるならそれは俺だから。


「明日起きたら
いっぱい積もってるかな?」
「積もるんじゃない?」

明日には違う景色が
広がってるといいね。

うし!っと、
お腹に力を込めて立ち上がり
気合いを入れる。

空に向かって両手を上げて
ガシガシと隼の如く雪を掴もうと
躍起になると、
そんな行動を見かねた亮介くんが、
「諒、時々お前の行動がわからないんだけど、何やってるの?」
無我夢中で狂ってしまったと
思われた様です。

「見てわかんない?」
「?」

亮介が首を傾げる。


「今、一生懸命
足掻いてるの!」

2011/01/24

 

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