良薬は口に苦し 


「……38.6度。……ったく。」
今程差し出した体温計を見てローが舌打ちをする。
「あらあ〜」
あははーと笑っていると、鋭い眼光が自分を射抜くので、思わず真顔になる。だから、いい加減にしておけと言ったんだとローは足に肘を置き、頬杖をつく。


昨日着いた島は冬島で、非常に寒かった。しかし、寒さ以上に男性の興味を引くものがあって、
「ゆ、雪だー!」
一面に広がる銀世界。北の海出身者が多いハートの海賊団のクルーたちにはあまり珍しくもない光景だが、南の海出身の男性や同様に北の海の出身でないクルーたちにとっては、雪が積もっているというのはなかなか珍しい光景だったようだ。海の上では寒い寒いと煩かった彼等も、着岸と同時に船を飛び出し、雪遊びに興じた。
いつの間ににか、ベポやシャチなども混ざって、一種の雪合戦の様な遊びをしていた所に、黒いコートを着たローが甲板から声を掛けてきた。
「お前ら、ガキじゃねェんだからいい加減にしとけよ。」
その言葉に皆でアイアイと返事はしたが暗くなるまで雪遊びをしていた。その結果がこれだ。


朝、少しボーッとするなと思った。しかし、今日はローたちと島内を回る予定だった。セーターを着込んでコートを羽織る。多少ふらつくが大丈夫だろう。甲板に出ると、ローたちはもう下に降りていて自分が最後らしい。
「男性!早く行くぞ!」
シャチが叫んでいる。分かったと、縄梯子に足を掛け降りていくと、数段降りたところで足が空を掻く。しまった。普段なら耐えられた所だが、いかんせん身体に力が入らずそのまま男性の身体は宙に放り出された。あそこまで焦ったローの顔を見ることはもうないだろう。咄嗟にローが能力を使ったお陰で地面との激突は避けられたが、そのまま、厳しい顔のローに担がれ治療室へと運ばれた。


「……体調が悪いなら正直に言え。」
機嫌の悪そうなローがそう言う。しかしその瞳には心配が含まれているのが見て取れる。 
「うん、ごめんね。」
素直に謝るとローが立ち上がった。どこに行くのかと聞くと食堂に行くらしい。薬を飲むために、胃に入れられるものを持ってきてくれるらしい。果物がいいなあと我儘を言ってみる。
少しして帰ってきたローが手に持っていたのは、果物をすりおろしたものだった。起き上がろうとして、身体に力が入らない男性を見て、ローが介助してくれる。
「ロー、ありがとう。」
果物を食べようとスプーンに手を伸ばすと横から取られてしまう。あれと思ってローを見ると、どうやら食べさせてくれるようで、果物を掬ったスプーンをん、と差し出してくる。素直に口を開くと口内に甘い香りが広がり瑞々しい果物の味がする。
「ん、美味しい。」
「そうか、もう少し食え。」
再び果物を掬って男性の口元に持ってくる。それを数回繰り返すと、容器に入っていた果物は無くなってしまった。さて、と再び寝ようとするとローに止められる。
「おい、男性、薬がまだだ。」
「薬か〜、くすり……大丈夫じゃない?」
この船の薬は大体がローの調合したもので、その味は嫌がらせか知らないがとても苦い。なのでなるべく薬を飲みたくない男性はにへらと笑うが、ローに睨まれる。
「ふざけんな、熱が高ぇんだから解熱剤くらい素直に飲んどけ。」
ふざけすぎたかローは少しお怒りの様子で、このままだと薬を飲むまで寝ることは叶わないかもしれない。その時、ふと思いつく。
「あ、じゃあ、ローが飲ませて。」
「あ?」
「ローが、口移しで俺に薬を飲ませて?」
窺うように顔を覗き込むと、男性の言葉を理解したローがの顔が赤く染まる。
「っ、馬鹿なこと言ってねェでさっさと飲め!」
「ローが飲ませてくれないなら飲まない。別に薬飲まなくても、寝てれば治るし!」
おやすみ。と横になろうとすると掴まれる肩。何?と振り向くと、耳まで真っ赤にさせたローが分かったと呟く。それに、にやりと笑って座り直すと、ローは薬と水を口に含ませ顔を近づけてくる。薄く口を開けてそれを迎え入れれば、微かな苦味と共に水が入ってきて、受け切れなかった水が口端から零れる。薬を飲み込み、離れようとするローの頭を抑え口内に舌を入れる。
「んっ!ぁ、男性っ、ふぁ……」
暫く口内を堪能して口を離すと銀糸がふたりを繋ぐ。もう一度、触れるだけのキスをして、ベッドに倒れ込む。
「あー、もう無理、身体おも……。」
「大人しくしてねェからだ。」
顔を赤くしたまま睨まれても説得力はないが、まあその通りだ。暫く寝るねと言えば、ローはそうしろと額にキスをしてきた。

次に目が覚めた時にはスッキリしていて、再び外に出てはしゃいでローにバラされたのは別の話だ。







名無し様、大変おまたせしましたかか。
風邪を引いた主人公が、ローさんに看病してもらう甘々。です。そんなつもりは無かったのですが、もう一つのリクエストと同じ主人公ぽくなってしまいました。勿論、別々の主人公としてみて頂いても構いません。
喜んで頂けたら幸いです。
今回はリクエスト企画に応募して頂きありがとうございました。




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