深い愛の証明 


今回着いた島は、のんびりとした長閑な春島だった。ログが貯まるのに少々時間は掛かるが、海軍の駐屯地がないため安心して過ごすことが出来る。

「ロー、少し外に出ない?」
男性は、いつものように自室で本を読んでいるローに声を掛ける。一瞬面倒くさそうな顔をしたが本も丁度、区切りがいい所だったのだろう静かに本を閉じて立ちあがる。そのままいつものとこ帽子を被り、鬼哭を持って部屋から出ていくので、男性は慌ててそのあとを追う。外に出ると暖かい風が頬を撫でる。ぐっと伸びをすればそれを横で見ていたローが口を開く。
「男性、どこに行くんだ?」
「んー、とりあえず散歩しよっか。」
男性はローの手を取り歩き出す。嫌がる素振りも照れる素振りを見せないのは付き合いの長さ故だろう。実は今日でローと恋人という関係になってから丸5年が経つ。記念日とか意識したことはあまりないが、5年という長い月日を共にしてきたと思うと感慨深いものがある。


賑やかな街を抜けると木々が繁る森に入った。薄暗い森の中で一ヶ所だけ光が射し込んでいるのを見つけた。
「あそこちょっと行ってみよう。」
そう言ってローの腕を引く。光が射していた場所につくとそこは開けていて、中心部に古びた建物が建っているのがわかった。屋根の部分にある十字架を見る限り教会だったのだろう。
「教会だ……、だいぶ古いみたいだけど中覗いてみる?」
「ああ。」
教会に近づきドアの取っ手を掴む。引いてみるとすんなり動いたので鍵は掛かっていなかったようだ。中に入ると、正面にある大きなステンドグラスが目に入る。白を基調とした内装にずらりと並んだ長椅子。真ん中の通路には赤い絨毯が敷かれており、その先には重厚な祭壇がある。いつから使われていないのかは分からないが、教会内は全く埃っぽくない。もしかしたら手入れをしている人がいるのかもしれない。
「中も綺麗だね。あ、ローちょっとそこで待ってて。」
そう言って男性はローを入口に待たせると、祭壇の元へと進んでいく。
「いいよ、ゆっくり歩いてきて。」
許可が出たので男性の元へと歩いていく。ローはまるでヴァージンロードを歩く花嫁みたいだ、となんだか照れくさくなった。男性の元へ着くとその顔はにやにやしていて少し腹立たしい。
「ふふっ、ロー花嫁さんみたいだった。」
「うるせぇ、にやにやしてんじゃねぇよ。」
赤くなった顔を隠しつつ、笑う男性の横腹を小突く。不意に男性は真剣な顔をしてローの左手を取り、ローの前に跪いた。
「ねぇ、ロー。俺たちは男同士だから結婚出来ないし、子供も産めない……。」
ゆっくりとローの目を見て男性が声を発する。
「でもさ、俺はローが好きだよ。愛してる。……ローさえ良ければこれからもずっと俺と一緒に居てくれない?」
何処からか取り出した指輪をローの左手の薬指に嵌めてふんわりと男性が笑う。
「っ、……断る訳ねぇだろ、馬鹿か……。」
溢れ出そうになる涙に喉が締め付けられる。ローはこんな時でも素直になれない自分が嫌になる。それでも男性はゆっくりと立ち上がると、そっとローの顎に手を添え口付ける。触れるだけの、優しいキス。唇が離れると、男性我慢出来ずに零れたローの涙を優しく拭う。こつんと額同士をくっ付けて安堵したように男性は笑う。
「良かった。断られなくて。」
断る訳がないのにこの男は何を言っているんだ。ローは愛してると呟くともう一度目の前の唇に噛み付いた。




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