愛しの船長 


「なあなあ、せんちょ!船長ってば!」

我が愛しの恋人そしてこの船の船長である、トラファルガー・ローは先程から声を掛けているにもかかわらず、眉間にある皺を深め、不機嫌な顔を戻そうとしない。
「どうしたんですかー?なんか嫌なことでもあったんですか?」
「……別に。」
なにか好ましくないとこがあったのかと問いを投げ掛けてみても、返ってくるのは取り付く島もないぶっきらぼうな反応。下手に構って余計に相手の機嫌を損ねバラされるのは避けたい。どうしたものかと周りを見渡すも、自分に火の粉が飛んでくるのを避けたい他のクルーたちは男性と目を合わせようともしない。
「キャプテーン!……あれ?キャプテンどうしたの?お腹いたいの?」
そこへ、どすどすという足音を響かせながら現れた救世主のベポはローの顔を覗きこんだ。
「ンなわけねぇだろ。……どうした。」
「あ!あのね!もうすぐ島に着くよ!少し大きい街があるみたいなんだ。」
なにか美味しいものあるかな?と船のマスコット兼戦闘員のベポは目をきらきらさせている。そんなベポを見つめ可愛いなあ、もふもふしたいなあと考えているとふいにベポに話しかけられた。
「ねえねえ、男性は次の島に着いたときは船番?そうじゃないなら、一緒に街を回ろうよ!」
「いい「次こいつは船番だ。シャチと交代しろ。」ええ……。」
次の船番はシャチだったはず、と思い返事をしようとしたら、目の前の不機嫌な人に言葉を遮られ挙げ句の果てに船番を交代しろとまで言われた。
当の船番だったシャチはまじっすか!ラッキーよろしくな男性!ともう街に繰り出す気でいる。
「そっかあ、残念だね、男性。次は一緒にでかけようね!」
「うん、ごめんな。ベポ。」
「全然いいよ!船番頑張ってね!」


島に着き、食糧を調達する者や街を散策する者など、ほとんどのクルーが島へと降りていった。ローはクルーに指示を出すと、自室へと戻っていった。治安の良い島だと聞いていたので、男性は甲板で釣りに勤しむことにした。すると、船内への扉が開き誰かが出てくる気配がした。その人物は男性の背後までくると、首に腕を回し背中にくっついてきた。
「どうしたの、ロー。誰か戻って来たら見られちゃうよ?」
「……。」
「最近忙しくて二人っきりになれなかったもんなー。寂しかったの?」
「……別に。」
「俺は寂しかったな〜。ローと二人になりたくて仕方がなかった。」
そう言うと首に回っていた腕が少しキツくなる。
確かに、ローの懸賞金が億を越えたあたりから、少しでも名を挙げようとする海賊たちの襲撃が一段と増えた。ここ数日は連日連戦でなかなかゆっくりする時間が取れなかったのである。それに伴ってローの眉間の皺は深くなっていった気がする。
はあと溜め息を漏らすと背中にある身体が僅かにびくつく。釣竿を持っている手を一つ離すとそれをモコモコとした頭へと持っていき、軽くぽんぽんと叩く。すると、もっととでも言うように頭を首筋へと擦り付けてくる。
「可愛いなあ、ローは。男性困っちゃう。」
おどけたようにそう言うと、うるせぇと首に噛みつかれた。
「そんなこと言うのはお前だけだ……。」
僅かに赤くなっている耳に気付き、釣竿を置いて向きを変え、正面から軽く抱きしめる。
「他の人がロー可愛さに気付くのは嫌だなあ。こんな可愛いローを知ってるのは俺だけで充分だよ。」
クスリと笑い、少しかさついた唇へ自分のそれを持っていく。しばらくして唇を離すと、満足そうな恋人の顔が目に入った。ああ可愛い。


「島にいる間は、俺と一緒に居ろ。」
「アイアイ、船長。島にいる間だけでいいの?」
「……ずっとだ。」
顔を赤くして目線を逸らす彼を俺は強く抱き締めた。


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