「ミカル様。お迎えに上がりました。」
数日後の天気が良い昼下がり。
鳴らされたインターホン越しには女性運転手の声が響き、ミカルは車へと乗りこんだ。
神羅カンパニー本社へと向かう車。
近づくたびに街の景色が変わって行き、洗練されたビルや、店が立ち並ぶこの区画。
ミッドガルは様々な顔を持つ都市だとミカルは感じた。
「お疲れ様でした。」
いつの間にか神羅の本社ビルへと車は到着していた。
さすがの一流企業、客人への配慮も一流といったところか車の運転も案内もスマートだ。
さながらモデルのように美しい女性運転手はその見た目に違わない美しい動作でドアを開け、ロビーのソファへと案内をした。
スーツを身にまとった人々が行きかう大きなビル、ミカルはぼんやりとその風景を眺めていた。
と、そのとき何とも独特なしゃべり方の男の声が受け付けに響く。
「ほひーほひー!お姉ちゃん、今夜一緒にどう?」
派手な柄シャツに、手には大きな指輪をはめている男。
明らかに困惑している受付嬢にしつこく誘いをかけている。
可愛そうに・・誰も助けないのだろうかと心配しながら見ていると、黒いスーツを着こなした長身の男が足早に近づいて行った。
「そのような行為は控えて頂きたい。」
漆黒の髪を俄に揺らし、端正な顔立ちの眉間に薄っすらと皺を寄せて冷たく言い放つ。
ぴしゃりと言われ、男は身を小さくして足早にその場から離れたが
去り際に目が合ってしまい、ミカルはすぐに視線を逸らした。
男が出ていくのを確認した後、長身のスーツの男はこちらに向かってきた。
髪と同じで瞳も漆黒だ。
真っ直ぐにミカルを見据えながら歩いてくる。
「ミカルさん、申し訳ございません。大変お待たせいたしました。」
先ほどとは打って変わって、男が柔らかな笑みを浮かべ名刺を渡してきた。
「神羅カンパニー総務部のツォンと申します。」
電話の時とは違う印象にミカルは少し戸惑った。
「貴重なお時間をありがとうございます。」
ツォンはミカルに会場へと案内する事を説明し、エレベーターへと向かう。
途中、同じく黒いスーツを着た坊主頭にサングラスをかけた男と赤髪の男とすれ違った。
赤髪の男はひゅ〜と口笛を吹き、興味深そうに自分を見ているように思った。
それもそのはず、このビルに似つかわしくない年齢の自分が出入りしているのが不思議なのだろう。
面白い、とでもいいたげな表情だったがミカルは見ないようにした。
「・・・後でキツく言っておきます」
それに気づいたツォンが苦笑いを零しながら謝る。
恐らく彼の部下なのだろう。
「いいえ、珍しいですよねきっと。私のような人間が出入りしてるのは。」
手のかかる部下だけれど可愛がっているんだろう、とミカルは思いながら笑顔を向けた。