「ツォンさん・・趣味変えたのか、と。」
「・・・そういうのではないだろう。」
「わ〜かってるよ。冗談だぞ、と。演奏だろ?祝賀会の。ま、先方のリクエストとあらば叶えるわけにはいかないよな、と。」
「まぁ、な。」
レノとルードはエレベーターに乗り込んだ二人を見送り、任務へと向かった。
ツォンは幾分驚いた。
実際に見るとまだあどけなさが残るものの、受け答えがしっかりとしている。
自分を見つめる瞳が強い少女だと感じた。
その瞳がデータとして映っていた彼女の叔母を思い出させた。
「どうぞ、こちらに。」
案内された部屋は広かった。
「ここで来月、祝賀会がありましてね。ぜひあなたに演奏していただきたいというリクエストをしてきた女性がいるんですよ。」
「女性?」
ミカルは思い当たる節がなかった。
「えぇ。あなたの演奏を聴いてどうしても、と。」
ツォンはその女性の名前を言ったが、思い出せなかった。
神羅カンパニーの依頼ではあるけれど、実際はその女性が自分の演奏するピアノを聞きたいと言っている。
過去に演奏を聴いたことがあるとしたら、バーで出会っているのだろう。
頭の記憶を巡らせるが出てこない・・・そう思っているとツォンが再び口にした。
「よかったら、弾いて行ってください。好きなだけ。」
到底一般人には購入できない大きなグランドピアノが置いてあった。
「その、パーティーでは演奏するだけでいいんですか?」
「もちろんです。他は心配いりません。」
「報酬もお支払いしますし、あなたがお世話になっているマスターの金銭トラブルもすぐに解決できます。」
「どうしてそのこと・・・」
「一応私も調査課におりますのでね。不本意に巻き込まれてしまったこととお見受けします。神羅カンパニーで解決することが出来ますので心配いりませんよ」
柔らかく笑うツォンを見て、ミカルは少し安堵した。
断るつもりで来たが、案外悪い話ではなかったので引き受け、そしてそのまま少しピアノを弾かせてもらうことにした。
「お帰りの際はあちらの受話器を取っていただくと受付に直通となっておりますので、すぐに迎えに参ります。」
そういってツォンは去って行った。
「大きいピアノ・・。」
ミカルはスラスラと良い気分でピアノを弾き始めた。