「本日の予定ですが・・」
助手席に座る秘書の話を聞きながらルーファウスは外を眺めていた。
普段ならさして気にも留めない外の景色。
八番街に向かうこの道にはずらりといろんな店が立ち並ぶ。
改めてみると不思議なものだと感じた。
スラムと上層部が混ざり合ったようなこの場所。
行きかう人々も様々だ。
高級住宅地の区画に入るため、他に比べると治安は良い方だが、新任ソルジャーと神羅兵の初めの仕事はたいてい八番街劇場付近の警備だ。
「このあたりの最近の治安はどうなんだ?」
「え・・・あ、特に悪いという話は聞きませんが」
「そうか。」
賑やかな通りを車が抜けたとき、ルーファウスは車を止めさせた。
「車を止めろ、」
運転手は驚いたものの、細心の注意を払いすぐに車を停車させた。
「副社長、いかがされましたか?」
「いや、ちょっとな。すぐ戻る」
秘書の問いかけに応えながらドアを開け、外へ出た。
「ミカル」
店の前の花に水やりをしているミカルの姿があった。
「あ、こんにちは・・・副社長・・さん。あ!ドレス!ありがとうございました」
何て呼べばいいのか困りつつも、副社長と呼んだミカルにルーファウスは笑った。
「名前で呼べばいい、ルーファウスと。」
「でも・・・」
「社員でもない、客人でもない。だから私を副社長と呼ぶ必要もないし、敬語を使う必要もない。私を友人として見てくれたら嬉しいんだがな。」
そう言うとミカルは柔らかい笑顔を見せた。
この笑顔が見れるなら、他にどんなことをしてあげられるだろうか。
「ドレスは気に入ってもらえたかな?ミカルによく似合う色だと思ってな。」
「ありがとう、すごく・・すごく素敵なドレスだった。」
本社であった時とは違い、幾分ラフな格好をしているミカル。
ショートパンツから覗かせる足はすらりと真っ直ぐで、色が白い。
「肌が白いから、色が良く映えるだろうな。当日見るのが楽しみだ」
自分の中に渦巻く感情。
久しぶりに感じた温かな優しい感情と、力ずくで自分のものにしてやりたいという感情。
ミカルを見ているとその二つが同時にくる。
ふと気になり、店を見た。
「働いているのか?」
「叔母の店だったの。今はたまに手伝いをしてるくらいだけど」
「そうか、困ってることがあるならいつでも言うといい。力になる。」
そういって、ルーファウスは再び車へと乗り込んだ。
走り出す車に揺られ、ルーファウスは自分の中の感情を整理した。
自分に寄って来る女は数えきれない程だと思う。
恵まれたこの容姿と地位に惹かれてくる女が。
自然体で接してくるミカルに惹かれているのだろうか。
小さく苦笑いをしてルーファウスは書類へと目をうつした。