星降る峡谷ー
そう呼ばれる場所があった。
多くの人たちがその星空を見て、涙を流す。
なぜ、涙が流れるかは本人にはわからないが
心の中の自分は知っている。
『やっと、ここに来れた。』
人の心の痛みや哀しみ…怒りなどすべての感情を浄化してくれるような場所だ。
ミカルはこの場所で生まれた。
ーーーーーーー
「ただいま。」
照れ臭そうに、ユアンは見張り台にいた少年に声をかけた。
少年は、すぐに笑顔になり歓喜の声をあげた。
「ユアンじゃないか、なんでここに!?みんな、ユアンが帰ってきた!帰ってきたぞ〜〜〜!」
大きな声を上げながら、村中を走り回りまわっていった。
長老の元へ訪れると、次々と村の人々がユアンの話を聞こうとやってきた。
「ユアン」
そんな中、ふんわりとした栗色の髪をなびかせた小柄な女性がユアンの名前を呼んだ。
「おかえり」
柔らかな声に、懐かしい香り。
美しいガラス玉のような瞳。
ユアンは名前を呼ばれると、子供の頃に戻ったような感覚になった。
「ただいま、姉さん」
ミカルの母もまた、このコスモキャニオンで生まれ育った。
「なにも、特殊部隊に入らなくても…」
「でも、この地域も任務で回れるようになるだろうし…守りたいから」
テーブルには食べきれんばかりの料理が並び、ユリアがさらに大皿を持ってきていた。
「でもユアン。あなた女の子なのよ?いつかお嫁に行って…子どもだって産むでしょう?体が心配よ」
コロコロと色を変えて輝くガラス玉のような、不思議な瞳の色をしたユリアの瞳は少し不安げに思えた。
なんだか、子供のような姉を見てユアンは笑った。
「大丈夫だって、姉さんは相変わらず心配性だね。そして…この料理の量も相変わらず。お腹すいてはいるけどさすがにこんなには食べれないよ…」
「みんながきっと、食べに来るわ。まぁ、ユアンが決めたなら…大丈夫ね。」
そう言ってニッコリと笑うと、ユアンの髪を撫でた。
いくつになっても自分を子どものように扱う姉にはかなわない。
「姉さんこそ大丈夫?あまり無理しないでよ」
ユリアはお腹を愛しそうに撫でて、ふんわりと笑った。
「順調に元気に育ってるの、5ヶ月よ。ねぇ、ユアン。この子が生まれたらあなたの旅の話をたくさん聞かせてあげねて。きっとこの子も旅をしたがると思うわ。おてんばな女の子になるかもしれないわね」
まだ、性別の判断をしていないにもかかわらずユリアは女の子が生まれるといっていた。
生まれ持ったユリアの勘は鋭いものがあった。
「うん…それより、あの人は?こんな大事な時期にいないなんて。調べて連絡するよ、部隊がわかればすぐだから」
ユリアのお腹の子の父親もまたユアンと同じ軍人で、ある部隊にいる人間だった。
たまたま任務でこのコスモキャニオンを訪れた時、ユリアと恋に落ちた。
ユアンは写真でしか見たことがなかったが、黄金に輝く長い髪が神話に出てくる美しい神を思わせるような見た目だと思った。
「いいの。彼もいま、大変だろうし…」