鳴門 | ナノ
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72.


「本当の平和などありはしないのだ! 俺達が呪われた世界に生きている限りそんなものありはしない!」
「なら、俺がその呪いを解いてやる。平和ってのがあるなら俺がそれを掴み取ってやる。俺は諦めねえ!」
「! お前それは、そのセリフは……」
「"ド根性忍伝"───今のは全部この本の中のセリフだ。本の最後にこれを書くヒントをくれた弟子のことが書いてあった……あんたの名前だ。長門」

自来也先生はその本で本気で世界を変えようとしていたとか。ナルトの手に渡ったことも含め、これは本当に偶然で片づけて良いことなのか。

「そして、この本の主人公はナルトだ!」
「!」
「俺の名前はエロ仙人からもらった大切な形見だ! 俺が諦めて師匠の形見に傷をつけるわけにはいかねえ! 俺は火影になる! そんでもって雨隠れも平和にしてみせる!」

俺を信じてくれ! とまっすぐに見つめてくるナルトに迷いはない。でも、だからこそ不思議で堪らないのだ。

「なぜだ。お前はどうして自分が変わらないと言い切れる? これからどれほどの痛みがお前を襲うことになっても変わらないと、自分を信じたままでいられるか? そう言い切れるのか? 自分自身を信じられるのか?」
「主人公が変わっちまったら別の物語になっちまう。師匠の残したもんとは別の本になっちまう。それじゃナルトじゃねえ! 俺は師匠みたいに本は書けねーから、だから続編は俺自身の歩く生き様だ。どんなに痛てーことがあっても歩いていく。それがナルトだ!」

どうやら俺は一つ思い違いをしていたらしい。こいつは信じてようとしているのだ。今まで両手では利かないほどの出会いを経て託された意志に胸を張れるような生き方を貫こうと、例え迷いが生じたとしても自分なりにまっすぐに生きようと。それ等はいつの間にか忘れていた当たり前の───。

「俺は兄弟子。同じ師を仰いだ者同士理解し合えるはずだと前に言ったな。あれは冗談のつもりだったんだがな……」

裕福な暮らしじゃなくても、大切な人達と笑い合えるのならそれだけで。

「お前は不思議な奴だ。昔の俺を思い出させる」
「……長門」
「俺は自来也を信じることが出来なかった。いや、自分自身をも……だがお前は俺と違った道を歩く未来を予感させてくれる」
「!」
「お前を信じてみよう。うずまきナルト」

外道・輪廻天生の術、と唱えるや否や小南の焦る声が聞こえてきたが引き抜いた両手を戻す気はもうない。だって俺には新たな選択肢が生まれたのだから。今まであり得ないと最初から切り捨てていた選択が。

「何だ、何の術だってばよ?」
「輪廻眼を持つ者はペイン6人全ての術を扱え、生と死の存在する世界の外にいると言われている。長門の瞳力は生死を司る術、7人目のペイン」

ありったけのチャクラを込めれば醜く肥えた外道から散々吸い取った魂が元の場所へ還っていくのを感じた。

「何だってばよ? 何が起こったんだってばよ!」
「里の人達がどんどん生き返っています」
「! それって……」
「木ノ葉へ来て俺が殺めた者達ならまだ間に合う。これがせめてもの償いだ」
「お前……」
「戦いとは双方に死と傷と痛みを伴わせるものだ。大切な人の死ほど受け入れられず、死ぬはずがないと都合良く思い込む。死に意味を見出そうとするが、あるのは痛みとどこにぶつけて良いか分からない憎しみだけ。ゴミのような死と永久に続く憎しみと癒えない痛み……それが戦争だ。お前がこれから立ち向かわなければならないものだ」

自来也が遺した本と言い、ナルトと言い、まるで全てが仕組まれたことのように思える。もしかしたらそれこそが本物の神の仕業なのかもしれない。

(……どうやらお別れのようだな)

だんだんと薄れていく意識の中、唯一の気がかりはなまえのこと。ペイン天道───もとい弥彦を通しての言葉は本心だった。マダラとどんなやり取りを経て何の目的のためにその手を取ったのかは分からないがやはりなまえは暁に似合わない。俺がしてやれることはもう何もないが、最後に一つだけ。

「あいつにも事情があることは俺なりに理解しているつもりだ。それを邪魔する権利も俺にはない」
「あいつ?」
「ナルト、なまえを頼む。お前にならあいつも……」
「! ああ。なまえは必ず連れ戻す!」

世界を変えることもなまえのことも、ナルトだったら本当に。役目の確かな終わりを悟り静かに目を閉じた。

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