鳴門 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
39.凍りついてゆく肺の鼓動


「─────しかし、オイラがよく分かったな。うん」
「この砂漠にそんな鳥はいない」
「隠密行動は失敗だな。だが、お陰でテメーを探す手間が省けたぜ。うん」

我愛羅の顔を見るのも凡そ二年振り。二年前だって一言、二言、言葉を交わしたくらいなのにやけに懐かしく感じるのはやっぱり故意じゃないとは言え彼の記憶の欠片に触れてしまったからだろうか。



「夜叉丸さんがあなたに向けた感情は、きっと憎しみだけじゃなかったよ」
「! なぜ、夜叉丸のことを……?」
「もし本当に恨んでいたり、憎んでいるだけだったらあなたと一緒にいた時の彼があんな顔を出来るはずがないよ」

服が肌に擦れるだけで全身に走る激痛を無視してでも伝えたかったのは、その言葉に嘘がなかったから。その程度で彼を変えられるなんて思っていないけれど、思い入れと言うか、多少なりとも気になるのはその所為だと思う。



「お前には聞きたいことがある」

我愛羅の手によって呼び寄せられた砂はまるで噴火のごとく地面から空へと向かっていく。

「さすがに地の利があるか。厄介だな、うん」

いつでも援護出来るようにとデイダラさんの奇襲によって見張りがいなくなった建物から上空を見上げた。彼は要らないと言っていたけれど、相手は風影であり、一尾の人柱力なのだ。用心に越したことはない。

「まるで中身を守る卵の殻だな」
「!」
「砂縛牢!」

攻撃を防いだ一方で巨大な手を模った砂がデイダラさんを取り囲んだ。良くない展開だと内心で舌を打ちながら素早くチャクラを練り上げる。

「砂縛柩!」
「解!」

我愛羅が自身の拳を握り込んだのと私が印を組み終えたのはほぼ同時で、そして圧し勝ったのはこちらだった。

「! お前は……」
「はっ! 余計な真似と言いたいところだが、ナイスだ。喝!」





─────宙に浮かんでいた砂の卵がボコボコと不自然に歪み、中から落ちて来た我愛羅を鳥の尾で捕まえたデイダラさんがそのまま旋回しながらゆっくりとこちらへ向かってくる姿が見えた。ヒヤリとする場面もあったけれど、ひとまずこれで任務完了だ。

「遅せーぞ。待たせんなっつったろ」
「結構強かったんだ。こいつが、うん」
「だからもっとちゃんと準備しとけって言ったんだ」
「まあまあ。任務は無事に終わったわけですし、何よりデイダラさんが無事で良かったですよ。ね?」
「……フン。さっさと行くぞ」

待たされることを嫌うサソリさんは案の定カリカリしていたものの、どうやら雷は落とされずに済んだらしい。彼は鼻を鳴らすとズズズと体、もとい傀儡を引きずって歩き出した。

「助かったぜ、なまえ。サソリの旦那を怒らせると後が面倒だからな。うん」
「いえ。それより、これが終わったら我愛羅に潰された左手の治療させてくださいね?」
「ああ、悪いな。頼むぜ、うん」
「フフッ。はい」

徐々に小さくなっていくサソリさんの後ろ姿を心なしか早足で追いかけ、ようやく隣に並んだと思いきや───。

「待て! 我愛羅は返してもらうぜ!」

カンクロウさん───私と同じように二人の戦いを見守っていて、慌てて追いかけてきたのだろう。でも。

「デイダラ、なまえ。お前達は先に行け」
「! なまえって……まさかお前、不知火なまえか?」
「……お久しぶりですね。中忍試験の時以来ですか?」

笠で顔が見えないからか、サソリさんの口から私のことを聞いたカンクロウさんはひどく驚いた様子だった。別に隠していたわけじゃない。この二年間、自来也様が暁について調べていたことは知っているし、木ノ葉と同盟を結んでいる砂に何も伝わっていないなんてあり得ない。笠を脱いで外套の釦を首の下まで外せば、カンクロウさんの表情は驚きから動揺へと変わった。

「何でお前が我愛羅を!」
「何だ、なまえ。知り合いか、うん?」
「ただの顔見知りですよ」
「ふざけんなァ!」

そう言えば、カンクロウさんはサソリさんと同じく傀儡師だったんだっけ。背中の巻物から口寄せされた三体の人形を見つめながら、つい的外れなことを思い出した。

「じゃあ、オイラ達は先行くぜ。なまえ、お前も乗れ」
「行かせるか!」

デイダラさんの鳥に飛び乗った瞬間、勢いよく向かってきた人形の一体(カラスとか言ったっけ)をサソリさんの尾が捕まえる。

「俺は人を待つのも待たすのも好きじゃねーからな。すぐに終わらせる」

カンクロウさん、死んじゃうのかな。死ななかったとしても、恐らく───。

「なまえ?」

彼が怒ると分かっていてわざと白を切った。だって、私はもう彼等の隣にいて良いような人間ではないのだから。

prevnovel topnext