鳴門 | ナノ
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38.


「な……何言ってんだよ、カカシ先生ってば!」
「俺だって嘘であれば良いと思う気持ちは同じだが、最後に話したのはあの子の兄貴だ。残念だが……」
「何で……どうしてなまえがッ……!」

痛みを堪えるように胸元をきつく握り締めるナルトやボタボタと大粒の涙を零すサクラに何と声をかけて良いものか。どれだけ遠回しの言葉を使ったところで大した気休めにもならないと分かりつつも自身の無力さを突きつけられているようで、カカシは眉を曇らすことしか出来なかった。

「なまえの部屋は出て行った夜のままにしてある。あの子の兄貴はまだしばらくは入院してるから、勝手に入ってくれて構わないそうだ」

そこに希望があるわけでもないが、現実を受け入れ前に進むために必要な場所になるかもしれない。家主の許可は取ってあるからと、これ以上の言葉を持たないカカシは静かにナルトの病室を後にしたのだった。





─────持ち主の人柄を投影するかのように柔らかな色合いで統一された部屋は、しかしどこか物悲しい。もしかすると持ち主がそこにいて初めて本来の暖かみを持つのかもしれない。

「……なまえの奴、本当に出て行っちまったんだな……」

信じられない、信じたくない現実を突きつけられているような気がした。

「……私、いつもなまえに助けられてばっかりで。一度でもなまえの力になれたことがあったのかなぁ?」
「サクラちゃん」

振り返ってみて初めて気づいた。
人の愚痴や悩みを嫌な顔一つせず聞いてくれたなまえが自身の悩みを打ち明けてくれたことがたったの一度でもあっただろうか。彼女について知っていることと言えば、上忍の兄がいることくらい。趣味や好きなもの、嫌いなもの。何も知らないのだ。

「それなのに仲間とか友達とか思って安心していたなんて。都合が良すぎるわよね」
「そんなの……俺だって。なまえは俺達が馬鹿やってるところを見ていつも嬉しそうに笑ってた。いくら思い返してみてもそんな顔しか浮かばねーんだ」

自分達と比べていくらか大人びた子どもだったことは確かだが、同い年であることに変わりないのだからなまえにだってもっとたくさんの表情があったはずなのだ。怒ったり、悲しんだり、それでも周りの人達を見て嬉しそうにも幸せそうにも微笑む顔しか思い出せないのだ。

「私達、なまえに甘えてばっかりだったね」
「うん。ちくしょう……何で出て行っちまったんだよ!」
「───……! ナルト、これ見て!」

肩を震わせ、悲痛な面持ちのナルトに何と声をかけて良いのか。本音を言えば自分だって声を上げて泣き喚きたい気分だが、サスケのこともあったばかりで彼の方が辛いに決まっている。掛ける言葉も見つからないまま自然と落ちていく目線がそれを見つけたのは偶然だった。そしてそれが何なのか分かった途端、サクラはナルトの袖を引っ張った。

「! これってば」
「間違いない。なまえがいつも挿してたかんざしだわ!」

手に取っただけではっきりと分かる。ずいぶんと使い込まれているはずなのに、傷みをほとんど感じさせないのは持ち主がそれほどまでに大切に扱っていたからだ。よくよく見てみれば、事あるごとに自分達を助けるために使っていた千本までかんざしの近くに置かれていた。

「あんなに大切にしていたのに……」
「何だか、俺達との繋がりとか全部置いて行っちまったみたいだな」
「そこまでして里を抜けないといけない理由があったのかな?」
「分かんねえ……」

いつも側にいてくれることに甘えて碌に知ろうとしなかったのだから、分からなくて当たり前だ。でも、だからこそ───。

「やっぱり聞かないと何も分からないわよね」

ふと、サクラの声色が変わった。まるで曇り空に僅かな晴れ間が差したかのように。

「私は今までなまえに頼ってばかりで、助けられてばかりだった。だから、今度こそなまえと対等になりたい! 強くなって、自分の力のなまえに会いに行く。なまえは私が絶対に連れ戻す!」
「サクラちゃん……」
「ごめん、ナルト。少し待たせることになっちゃうけど、今度は私も一緒に! サスケくんのことも、なまえのことも!」
「おう!」





─────……額当ての真一文字は生まれ育った里を捨てた罪人の証。それぞれが一様に刻まれているものだ。しかし、なまえの額にはそれがない。今までの思い出と共に置いて来てしまったからだ。代わりになまえが組織の一員であることを証明するのは暗闇に深紅の雲が描かれた外套。

「フフ……全員がこうして揃うのは七年前、大蛇丸が組織を抜けた時以来だな……」
「ソノ大蛇丸が写輪眼ヲ手ニシタ」
「イタチ、お前の弟か?」

イタチは何も答えない。

「焦んな、うん。いずれ大蛇丸はぶっ殺す。うん。それより、あと三年しかねーぞ。全員ノルマ達成出来んのかい……うん?」
「そのために新たなメンバーを迎えたんだ。不知火なまえ───いや、もう不知火ではないのだったか?」
「はい。私はただ紡ぎ、繋いでいく存在に過ぎませんから」
「なまえ、お前を暁に歓迎しよう。我々の目的は例の九尾を含め、全てを手にすることだ!」

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