鳴門 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
29.


大蛇丸が火種となって瞬く間に燃え広がった戦火は砂と音、そして木ノ葉から多くの犠牲者を出しての幕引きとなった。

「ハヤテへか? 三代目の葬儀が始まっている。急げよ」

元の静けさを取り戻してから早二日、癇癪を起こしたみたいに泣き続ける空はまだしばらくは止みそうにない。それほどまでに木ノ葉は果てしなく大きなものを失ったのだ。

「カカシ先輩こそ、オビトさん達へですか? 遅刻の理由を考えるくらいならもっと早く来てあげれば良いのに」
「来てるさ、朝早く。ただ───」

大切なものは、いつも失ってからようやく気づく。それが大切であればあるほど。
オビトもリンも結局助けられず、終いには師までも失った。だからこそ彼女だけは何があっても守りきってみせると三人にも誓ったはずだったのに。蓋を開けてみれば、守られたのは俺の方だった。

「ただ?」
「ただ、ここに来ると昔の馬鹿だった自分をいつまでも戒めたくなる」

俺はあの時、また同じ失敗を繰り返したのだ。





「─────……なまえ、そろそろ行くぞ?」
「うん……」

雨の中、火影邸の屋上にはゲンマや私と同じように黒一色を着込んだ人達がたくさん集まっていた。列の前には火影様の遺影と花束。それから───ああ、頬や首が、とにかく体中が痛い。夢じゃないんだ。

「……イルカ先生、何で人は人のために命を懸けたりするのかな?」
「死ぬ時には驚くほど簡単にたくさんの人が任務や戦争で死んでいく。夢や目指すものがあったろうに……だが、誰にもそれと同じくらい大切なものがあるんだ。この世に生まれ落ちた時から大切に思い続けてきた人達との繋がり、そしてその繋がった糸は時を経るに従い太く力強くなっていく。理屈じゃないのさ、その糸を持ってしまった奴はそうしてしまうんだ。大切だから」

もしも火影様がいなかったら、私はここで大切な繋がりを得ることは出来なかったような気がするのだ。火影様がゲンマとの縁を繋いでくれた。ゲンマと一緒に居られた。カカシ先生の生徒にだってなれた。第七班の一員にも、仲間も友達も。もしあの時、あの暖かさと出会っていなければ私はずっと独りぼっちだったに違いない。ズキズキとガーゼや包帯に覆われた火傷は夜も満足に眠れないくらい痛いのに、それ以上に痛いのは───。

「火の影は里を照らし、また木ノ葉は芽吹く」
「?」
「三代目が遺した句だ。なまえ、火の意志の話を覚えているか?」
「うん」
「三代目は多くのものを守って死んでいった。だが、その意志はお前や俺達の中でずっと生き続ける。火の意志は絶対に途絶えない」

いつもと違って額当てを巻いていない分、ポフンと乗せられた兄の手から伝わる体温が一際近く感じる。ああ、温かい。

「ねえ、ゲンマ……胸の奥がすっごく痛いのに、少しだけ温かいの。何でだろうね?」
「ああ。それが火の意志ってもんだ」
「……そっか」

火影様を、たくさんの人を失った傷はすぐには癒えない。それは私に言えることだけじゃなくて、この里の人達に言えること。それでも、未来はきっと暗くない。

(火影様、ありがとう)

prevnovel topnext