頂き物 | ナノ






蓮花様/相互記念小説


鈍さにかけては首領クラスです。







オレが今までこんなに苦労したことがあっただろうか。

このオレを夢中にさせた相手は、第一印象が最悪で、金に対して無関心な極道一家の次男坊だった。

オレと同じ東邦神姫の神崎一。


初めてこの気持ちに気付いたのは、男鹿にやられて入院した時か。


一緒に入院生活をして、互いの意外な一面を知ったりとか。


オレが一番意外に思ったのが、あいつの寝顔が可愛かったところだ。

たまにむにゅむにゅと口を動かしたりとか。

「オレのヨーグルッチがぁ…」と泣きながら寝言言ったりとか。


最初は寝息が静かでこっちも快適に眠れたが、そんな面白い寝言や寝癖が気になって朝方まで起きてたこともある。


なんだってあいつを、って思うたび、これは絶対「好き」とかじゃなくて、と自分に言い訳するたび、気持ちがだんだん坂道を転がるようにあいつに傾いていった。


いつしか目があいつを追いかけ、耳があいつの声を聞き取ろうとするようになって、ひとり悶々と悩んだ結果、あいつを手に入れることにした。


直接告白すれば、殴られて罵倒の嵐を受けるだけで終わるのは目に見えている。

相手が女の時もそうだが、最初は気を引き付けることが重要だ。


「神崎…、やるよ」


腰巾着2人がいない間、席に座っている神崎にヨーグルッチをやると、当然あいつはあからさまに怪訝な顔をした。

そりゃそうだ。

ずっと敵対してた仲に、いきなりそんなプレゼントされたら警戒するに決まってる。


「どういうつもりだよ。毒でも入ってんのか?」

「オレをなんだと思ってんだ」

「姫川だからな」


いや、確かに勝率の低い相手には下剤を盛ったりとか考えますけど。


「たまにはオレからヨーグルッチあげたっていいだろ…」


神崎はストローを刺してそこから匂いを嗅ぎ取ろうとするが、下剤などが入ってたとしてもわかるわけがない。

すると、神崎はオレを睨むように見上げ、そのヨーグルッチを差し出した。


「まずはてめーが飲んでみろ」

「…は?」

「いいから飲んでみろ。やましいことがなけりゃ、飲めるはずだろが」


下剤を入れたならば、張本人が飲めるはずがないと思っているようだ。

オレはべつになにも仕込んでないので、素直にそれを受け取って一口飲んでみる。

ちゃんと、ストローからヨーグルッチが伝うのと、オレが喉を鳴らしたのがわかるように。


うわ、甘っ。


オレが飲んだのを確認して反応を窺った神崎は、一度立ってオレの手からヨーグルッチのパックを奪い取り、一気に飲んだ。


いいのか。

それ、オレの飲みかけだぞ。

間接キスとか気にしねえのか。

「…いつものヨーグルッチだ…」

「だからなにも仕込んでねえって…」

「や…、疑って悪かったな」


そう言って肩を叩かれた。

ちょっと申し訳なさそうに微笑みながら。


「ぃ…」

「ん?」

「いや…」


危うく、「いくらでオレのものになる?」って言いかけた。

今神崎を手に入れられないなら、せめてそのヨーグルッチパックが欲しい。


それからオレは本人にはバレない程度に、好感度を上げるよう専念した。

迂闊に金は使えなかった。

その道のりは金でなんとかなるような楽なものでもなく。


気紛れに見せるためにヨーグルッチをたまにあげたり、雨が降ればオレの傘を貸したり、喧嘩に参戦したりなど。

偶然を装うのもこんなに大変だとは思わなかった。


それで成果はあったって?


あったよ。


「メアド交換しろ」

「? いいぜ」


神崎のケー番手に入れました。


「さんきゅ」

「チェンメとか送り付けんじゃねーぞ」

「しねーよバカ」


guruguru_yo-gurucchi@―――。


わかりやすくてカワイイな。


見なくても直筆できそうだ。


メールの内容は“今日はどうだった?”とか他愛のないもの。


最初はオレが一方的に送り続けると、たまに神崎からメールがくることが増えた。

ほとんど愚痴だったりするが、オレは嬉々として返信した。





*****


神崎とメールをして数日後の放課後、オレはついに言ってやった。


「付き合ってくれ。オレと」

「……姫川…」


ここまで頑張ったんだ。

オレ自身頑張ったつもりだ。


もうあとはコブシが飛んでこようが蹴り飛ばされようが罵倒されようが後悔はしない。


「……いいぜ。オレでよけりゃ」

「!!!」


思わずガッツポーズしそうになった。


神崎を見ると、今にも抱きしめてしまいたくなるような笑顔だ。


いや、抱きしめていいよな。

だってOKが出たんだし。


「神崎…!」


オレは両腕を広げ、神崎に抱き着いた。


「お、おお?」


意外と細い、神崎の腰。

いきなり抱き着くのはまずかったと気にしたが、神崎はオレの背中を優しく撫で、声を立てて笑う。


「おまえはホントに…、いちいち驚かせてくれるよな…」

「神崎…、好きだ」

「ああ。オレも」









- ナノ -