蓮花様小説A | ナノ









オレと神崎が付き合って3ヶ月後。


進展があったかって?


これっぽっちも。


「ねえよ!!」

「え、なに;」

「いや…」


オレと神崎は学校帰りにファミレスに立ち寄っていた。

突然大声を上げたオレに神崎はハンバーグを口に含めたまま目を見開いて驚いている。


告白してからもう3ヶ月だぞ。

そこらへんのカップルだったらキスぐらいしてるだろ。

なのにオレ達はお手て繋ぐだけの関係。

小学生でも出来るわ。


あれから、ほぼ毎日、神崎と遊園地行ったり、ゲーセン行ったり、どこか食べに行ったり、オレの家でゲームしたりしたけど、それらしい雰囲気になったことは一度もない。


だからといってオレががっつけば神崎に嫌われてしまうかもしれない。

神崎だって付き合ったのはオレが初めてなんだ。

しかもその相手がオレ(男)だ。

ヘタなことはできないし、したくもない。


やきもきするオレとは反対に、神崎はメニューを見て「あ、新作のパフェ出てる…」と目を輝かせていた。

肩も落としたくなる。


「―――で、夏目がなんだって?;」


確か夏目の話をしていたはずだ。

愚痴だったか。

思い出したように神崎は「あー、そうそう」と言い出す。


「夏目がよぉ、またオレと城山に黙って彼女作ってたみたいで…」

「アレはイケメンの類に入るからな。カワイイ彼女のひとりやふたりいてもおかしくねーだろ」


そう言ってオレは食後のコーヒーに口をつける。


「いたことにも腹立つけど、振ってからオレ達に言うのも腹立つだろ。「彼女と別れてきたー」って。いたことも知らなかったっての」

あいつのことだ。

ヘラヘラ笑いながら言ったのだろう。


「余裕ぶりやがって。オレだって、彼女のひとりやふたりくらい欲しいっての」


……………ん?


「…神崎?」

「おまえは今はリーゼントだからそうだけどよ。下ろしたらスゲーイケメンじゃん? 金の力使わなくったって、てめーならエロい美人のひとりやふたり…」

「いや待て神崎」

「んだよ?」


今こいつ、とんでもない発言をサラッと言いやがった。


「おまえの恋人は…、オレだろ?」

「は? なんでそうなるんだ?」

「なんでそうなってないんだよっ!!?;」


客の視線なんて気にしてる場合じゃない。

オレは思わず立ち上がり、両手でテーブルを叩いた。


「オレらって付き合ってんだよな!?」

「??? ああ」


なに言ってんだこいつ、って目で見られた。


いや、絶対こいつ理解してないぞ。


「…付き合ってるって意味知ってるか?」

「だからこうしてメシ食いに…」


やっぱ理解してなかった!!!


一緒に行動する意味の「付き合う」じゃねえんだよ!!


「オレが「付き合え」っつったのは、「恋人になってくれ」って意味の「付き合え」だ!」

「――――んあ?」


ストローを咥えながら首を傾げる神崎。

ビキィッ、とオレのこめかみに青筋が立った。


「こ…の、鈍神崎ィ!!!」

「おいおいいきなり褒めんじゃねえよ;///」

「首領(ドン)の方じゃねえっ!!」


しまった。

こいつの頭の悪さっつうか、鈍さをわかってなかった。


脱力したオレは、ウエイターが注意に来る前に席につき、ため息とともに項垂れた。


「……告白の時、オレが抱きついたのはなんでだと思う?」

「一緒に付き合ってくれなかったダチがいなくて感動のあまり?」


そう考えたか。

基本ぼっちですけど。


「「好きだ」って言ったのは?」

「夏目もよく「神崎君大好きだよ〜」って来るからそんなノリかと」


夏目一生許さん。


「おまえがオレを好きなのは?」

「ヨーグルッチくれたから…」


その程度で簡単に「好き」っていうおまえって。


「手を繋いでも嫌がらなかったのは?」

「最近冷えてきたし、おまえの手あったかかったから…」


無防備だっつの!!


「じゃあ、結論として、おまえはこの3ヶ月間、オレと恋人として付き合ってた覚えはまったくない、と?」

「そう…なるな;」


「付き合って」の意味合いを間違えることは、もはやベタとして取り扱われてきたが、勘違いしたまま3ヶ月って…。

オレだけ浮かれて3ヶ月って。

ベタでも酷すぎる。

失笑もんだ。


自分の髪をグシャグシャにしたくなる。

リーゼントが崩れるからやらねえけど。


ぐぬぬ、と耐え震えるオレに、神崎は「まあ落ち着けよ」と言ってきた。


「姫川、オレは男だ」

「……知ってますが?」


オレが知る中で一番の男前だと思ってますが。


「そして、おまえも男だ」

「……承知してますが?」


自分が一番な。


神崎がなにも言わなくなったので、オレは少し身を乗り出して口を開く。


「どっちも男なのは知ってんだよ。出会ったその時から。…それでもいいから、オレと恋人として付き合え」


まさかの2度目の告白だ。

それでも、これで神崎が頷けば、さっきのアホな会話はなかったことになる。

進展もできる。


なのに、神崎は苦笑してこう答えた。


「なに言ってんだ。ムリに決まってんじゃねーか」


ビシ…ッ!!


オレは自身にヒビが入る音を聞いた気がした。

いっそボロボロに砕けられたらどんなに楽だったことだろう。


「……………」

「……おい、姫川…?;」


5分くらい石のように固まっていただろうか。


悲しいことに神崎に呼ばれたオレはようやく起動する。


「……オレ…、帰るわ…」


オレはふらりと席を立ち、丸めて筒の中に入れられていた伝票を手に取ってレジへと向かった。

聞き耳を立てていた周りの客と店員は、目も当てられないのかこっちを見ようとしない。

ああ見ないでくれ。


「姫川…っ」


神崎の声を背中で受け止めたが、立ち止まる気力も、振り返る余裕も残っていない。


「付き合わせて悪かったな…。この3ヶ月のことは…忘れてくれ…」


オレは神崎に聞こえるように声を出し、レジで神崎の分の会計も済ませて店を出た。











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