01
雨の中のきみ

菜嶋洸一



付けられたあだ名は「コウ」。

大して気に入ってるわけでもないけど、他人に名前を呼ばれるよりかはマシだろうという理由で、仲良くなった人たちにはもれなくそう呼んでもらうようにしている。


ゆーりちゃんのことは、二年に進級して少し経ってから知った。
とは言え、僕が一方的に知っているだけで友達になったとかそういうんじゃないんだけど。

気づけば、目が離せない存在になっていた。

知っての通り、ゆーりちゃんは少し危うい。
いつも眠たそうにまぶたを擦り、ぼーっとしていて……一言で言えば、無防備そのもの。
危機感というものをまるで持ち合わせていないのだ。

ゆーりちゃんを初めてきちんと認識したのは、ある雨の日のことだった。
降水率50%のその日、僕は降るかどうかも分からないのにわざわざ持っていくのが面倒だという理由で、傘を用意していなかった。
まあ、どうせ雨が降っても“オトモダチ”の誰かが貸してくれるだろうという軽い気持ちもあった。

そして、見計らったように生徒たちが下校しようとするタイミングで降り始めた雨。

「なぁに?コウ、傘持ってきてないの?」
「うん。忘れちゃった!雨、降らないように祈ってたのになぁ」
「ふふ。じゃあ、私のに入れてあげる」
「ずるーい!あたしもコウと一緒に相合い傘したい」

予想通り“オトモダチ”は、誰が僕と傘を差すかで揉め、結局平等に最近“お渡り”がなかったと言う女の子になった。
そんなこんなで、十分は時間を費やしたと思う。
雨に濡れて帰らなくて済むことはありがたいけど、たったそれだけのことでと、なんだか無駄な時間に感じてしまった。

「行こう?コウ」

“オトモダチ”が傘を差し、僕を導いてくれる。

「えへ、ありがとう」

そして一歩踏み出そうとした時――

「ちょっと!ゆーり!!」

彼女は現れた。

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