03



窓際で暖を取る私の耳に聞こえてきた、彼の声。
なんでここに?
いや、そもそも、あれ以来私と二人では話そうとしなかった彼が、どうして今になって声をかけてくるのか。

私の頭は疑問でいっぱいになった。

「美原、先輩……」

振り返ると、思っていたよりも近くにいた先輩。

「寒そうだねぇ」
「……」

いつの間に保健室に来ていたのだろう。
気づかない私も私だけど、やっぱり保健室はきちんと施錠しておいた方がいいのかもしれない。

「先輩は、どこか怪我でもしたの?」

保健室にやって来るくらいなのだから、まあそうなのだろう。
養護教諭は留守中であることを伝えようとして、でも、できなかった。

先輩が妖艶な手つきで、私の頬に触れてきたからだ。

何?

膝を折って、椅子に座る私を見上げる彼。

「俺の心配してくれるんだ?」
「え?」
「空音ちゃん、やっぱり、俺に気があるよねぇ?」

前髪から滴る雫が美原先輩の手の甲を濡らすが、先輩は特に気に留めていないようだ。

それより、やっぱり気があるって、どういうこと。

「ホントは期待してるんでしょ?」

何の、と呟いた私を覗き込む先輩は、いつになく色気じみていて、ゾゾゾ……と総毛立った。

「美原先輩、近い」
「口ではそうやって拒絶していても、ホントは違うんだよねぇ?俺に構ってほしいんでしょ?優しくしてほしい。さっきだってほら、わざと全身濡れた姿で千歳と一緒に俺の前を横切ってさぁ……計算高すぎじゃないの」
「いや、本当、あの。何言ってるか分かんないけど……」

わざと横切った?
私は、先輩に見られていたことすら知らないのに?

言いがかりも大概にしてほしい。
私は先輩のことをどうとも思ってなければ、気がある素振りも見せた覚えはない。

なのに、どうしてそんなことを言われなければならないのか。

「ねぇ空音ちゃん。この間はあんなことしてごめんね。ああでもしないと他のやつらがうるさいかな〜って。本当はあの後すぐに、きみを助ける予定だったんだ」
「……え」
「嘘じゃないよ?」

かち合う目と目。
私は以前、この目に騙された。

いや……騙されているのには薄々気づいていたけど、信じたくなくて、一縷の望みに縋っていた、の方が正しいのかもしれない。

「千歳に酷いことをされてない?他のやつらはどう?俺、空音ちゃんのためなら何でもするよ。だから頼ってほしい。話だって聞くし。前みたいにね」
「……」
「だって、俺は、空音ちゃんのたった一人の味方なんだから」

艶美な微笑みで、随分と甘い言葉を囁く美原先輩。

「……みかた」

私はそれを反芻し、他に何も答えられなかった。

先輩が言ってることが、嘘か本当か。
測りかねている自分に気づいたからだ。




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