21


***


一体、どんな凄惨な目に遭わなくてはならないのか……。

アキに会った翌日は、怒篭魂の指定した忌々しい“三日目”だった。
きたる放課後を憂い、盛大なため息をついた昼放課。

美原先輩は何とかみんなを止めるから、と言ってくれたものの。
それも本当かどうか分からない。

たぶん、私には、初めから味方してくれる人なんていないのだ。
それこそ昨日の“性悪説”じゃないけどさ。
どうしても、穿った見方しかできない。

「……はあー」

机にうつ伏せて、何も考えないようにしていると、途端に鼓膜を突き破るほどの歓声が聞こえた。

廊下からだ。
この学校で、女の子たちがワーキャーと騒ぐのは、“彼ら”がやって来た合図。

―――ああ。
どうして私は、馬鹿な勘違いをしていたのだろう。

三日目の放課後に裁決が下されるとばかり思っていたけど、実際には誰も、「放課後に」なんて言っていない。
怒篭魂が口にしたのは「三日」とだけ。

だから昼放課である今に足並み揃えてやって来たって、何ら不思議ではないんだ。

「フン。僕たちの忠告は意に介さなかったようだな」

教室に入ってきた怒篭魂の幹部たちのうちの……メガネくんが見下した目でこちらを見てきた。
それだけで、まるで冷罵を浴びせられたかのような錯覚に陥る。

事実、彼らは私を蔑んでいた。
来栖嬢に危害を加えようとした“敵”として。

総長に、茶髪くんに、私を殴ったピアスの人、それから美原先輩に―――宇崎まで。

怒篭魂のメンバーが勢揃いだ。
来栖嬢はいないものの、全員が揃っているのは珍しいようだから、女の子たちがあそこまで騒ぐ理由が分かった。

ちらりと辺りを見回すと、教室にはすでに私と怒篭魂しかいなくて、廊下側の窓や扉のいたるところに野次馬と化した生徒たちが大勢いた。

そんな、楽しそうな目で見られても……。
見物したって、いいもんじゃないだろうに。

ため息をつきたくなる衝動を抑え、私は怒篭魂をまっすぐ見据えた。

「あの。話があるんです」

せめて、あの件について釈明したい。
私が来栖嬢に対して何もしなかったと、する気もなかったと、誤解をときたい。

そう思い口を開いたけど、しかし、怒篭魂の私を見る目は厳しかった。

「だから、言い訳はいらねーっつってるだろ!三日も時間を与えてやったのに、謝る気すらねぇのか!!」

ピアスの人が糾弾する。

……そうか。
三日間という期間は、私に反省を促す期間でもあったのか。

私は、冤罪なのに。

「だから、話を」

埒が明かない、と助けを求めて美原先輩に視線を移した。
先輩は私と数秒だけ見つめ合い、次ににっこりと笑みを深めた。

「空音ちゃん」

私の名前を呼ぶ先輩。

でも、やっぱり。
その後に続く言葉は、私が予測していた最悪のもので。

「俺のこと、信頼してくれてたの〜?まさか。馬鹿だよね!俺が絢ちゃん傷つけた人間を許すわけないじゃん。きみのこと、ずっとムカついてたんだよねぇ」

明らかな悪意がこもったセリフに、思わず瞠目してしまう。

分かっていた。
分かっていた、のに。

心の何処かで、もしかしたら……なんて期待していた馬鹿な自分がいたことに気づいた。

「ちょっと優しくしてあげただけで、簡単になびいちゃってさぁ。せめてもう少し、オトし甲斐があってほしかったんだけど?」
「……っ」

息が止まりそうになる。

覚悟はしていたけれど、現実に私を襲う胸の痛みは想像を遥かに越えて。

“裏切り”
その単語が頭を過ぎった。

「ハ。祥吾なんかに騙されるとか。祥吾が絢華にベタ惚れなの、知らねーの?」

ピアスの人があざ笑った。

……痛いほど、噂で耳にする言葉。
怒篭魂の幹部は全員、来栖嬢を溺愛している、と。

知らないわけじゃなかった。
それでも、あの件について公正に見てくれるんじゃないかと、惚れた晴れたとは別にしてくれるんじゃないかと、馬鹿みたいな期待があったんだ。

「……は?」

そんな中、低い唸り声のようなものが聞こえた。

今まで一言もしゃべらなかった宇崎が無表情を崩し、不快だとでも言うように、眉根を寄せていた。

果たして何を言われるのか……。
どんな痛烈な言葉を浴びせられたとしても耐えられるよう、ぎゅっと唇を噛み締めた。

「どういうことだよ、それ」


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