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さらに暴行を続けようとした片耳ピアスの人だったけれど、茶髪くんの「来栖さんを落ち着ける場所に連れて行くことを優先するべきじゃありませんか」の言葉に、来栖嬢を連れ、資料室を出て行った。
忌々しく私を睨むことを忘れずに。
後の人たちも、来栖嬢を追って廊下に向かった。

ただ一人残った黒髪の……怒篭魂の総長は、最後に一言、置土産を残して消えた。

「俺たちには二度と近づくな」と。

言われなくても、元からそのつもりだった。

唯一、宇崎と以前のようにまた軽口を言い合うことができなくなるのは残念に思ったけれど、きっと向こうも、来栖嬢に暴力を振ったとされる私なんかと仲良くしたくはないはずだ。

怒篭魂の幹部は来栖嬢を溺愛している。
噂で聞く言葉。
宇崎だって間違いなく、来栖嬢に恋心かそれに近しい感情を覚えている。

だから、私がどんなに否定したとしても、宇崎は私でなく来栖嬢の言葉を信じるだろう。

悲しいけれど仕方ない。
来栖嬢は人に愛される術を知っている。
反対に私は、空気の読めない女の代名詞。
どちらを選ぶかなんて、聞くまでもない。

たとえ来栖嬢の性根が酷いものだったとしても、人々の心を掌握しているのは紛れもない事実であり、友達すらいない私との差は歴然だった。



夕暮れに染まる帰り道。
未だ痛みの和らがないお腹を抑え、私は家の近くにある公園へ寄った。

昼放課に来栖嬢が落とした弁当のおかずを、ハトにあげるためだ。

面積の広い池を有した県営の大きな公園は、よくエサを与えるおじいさんがやって来るためか、ハトの恰好のたまり場となっている。

ハトがおかずを食べてくれるかは分からないけど、カラスは食品ならなんでもつついているイメージだし、おそらく問題ないだろう。

試しに池のほとりに細かく砕いたお弁当のおかずをばら撒くと、見事に食いついてくれた。

「……私、もしかしたら大変な目に遭ってるのかな」

エサをついばむハトの群れを眺めながら、ぼそりと独り言をつぶやく。

来栖嬢に騙されて、冤罪を被せられて。
学校を仕切る怒篭魂に敵認定された。

これってすごく、大変なことだ。

「宇崎となら、友達になれたかもしれないのになぁ」

手元にエサがなくなると、ハトは一羽、また一羽と飛び立ってゆく。

「明日からどうしよう……」

やがて、最後の一羽がいなくなり、そこにはうずくまった姿のままの私だけが、静かに取り残されていた。



翌日、学校に行くと、心なしか他の生徒たちがこちらに注目しているように思えた。

好奇と、敵意と、嫌忌と、下世話な視線。
決して、心地のいいものではない。

「ねえ、知ってる?白波さん、来栖さんを襲おうとしたんだって」
「何それ、怖ぁい」
「やっぱり、怒篭魂のお姫様の座を狙ってたんだよ。相手になんかされるわけないのに。図々しい」

教室に入れば、ヒソヒソと話す声がどこからか聞こえてくる。

「違うよ」

私は大きな声で否定した。
誰が言ったのか分からなかったから、みんなに聞こえるように。

「……私はやってない」

その瞬間、シン……と静まり返る教室。

しかしそれも一瞬のことで、次の刹那には、クラスメイトたちは再び陰口を叩き出した。
誰も私の言葉に耳を傾けてくれない。
予想はしていたけど、一人くらい、話を聞いてくれてもいいのになと、いじけたくなる。

「……」

針のように鋭い視線を浴びながら、隣の席を窺い見る。
宇崎の姿はなく、そのことにホッと安堵した。

……宇崎はもう、知っているのだろうか。
知ったら、どんな顔をするのだろう。

私を責め立てる宇崎の姿が、想像できない。
だからこそ余計に、宇崎に会うのが怖い。

結局、昼放課になっても、宇崎が教室にやって来ることはなかった。




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