愛しき暴君たちよ | ナノ


  おまけ サチの場合。





「彼らのグループ名の『dear』ってあるでしょう。由来はメンバー全員が大切にしているとある人物に捧げるから、ってことらしいんだけど、今にして思えばあなたのことね。でも、その由来話で、もしかしてあたしのことなんじゃないかしら?なんて頭の中で妄想の世界を作り出せるほどには、彼らのことを愛していたのよ」

後日、ようやくまともに話せることができた駒鳥さんと、二人でランチデートをした。

テーブルに頬杖をついて憂う姿は、まさしく絶世の美女だ。

「家の場所を特定して、彼らのスケジュールを把握して。いずれは彼らの部屋の隣に引っ越す予定でもあったのよ?まあ、その前に彼らの本当の姿が知れて良かったけれど」
「そ、そうなんだ」

本格的にストーカーっぽいね、駒鳥さん。

「あたしがどんなに誠意を込めて相手にしても、彼らは口を開けばあなたの名前ばかり……。まるで、餌を求めることしか知らない雛鳥だわ。泣きわめく姿なんて、流石に引いたわよ」
「うっ」

やっぱり、普通はそうだよね。

もしかしたら駒鳥さんなら、匙を投げずにいてくれるかもしれないと期待してたんだけど、残念。
無理だったかあ。
このままでは、彼らの婿の貰い手がなくなる……。

「うん、だけど、駒鳥さんに彼らは勿体ないもんね」
「え?」
「駒鳥さんみたいな一途で、愛情深くて、おまけに綺麗な人には、彼らなんかよりよっぽどかいい人がいると思うし」
「……!」

かああ、とそんな効果音が聞こえた気がした。
心なしか、駒鳥さんの頬が赤い。

「い、一途?あたしが?昔から、思い込みが激しくて執念深いところが敬遠されてきたのに……」
「まあ、行き過ぎはよくないと思うけどね」
「あなた……」

駒鳥さんにそっと手を握られる。

「あたしもあさひ、って呼んでいいかしら」
「うん?」

あれ。
なんだか駒鳥さんとの親密度が、急激にアップしたような。
気のせいかな……。


そして翌日、なんとお隣の部屋に駒鳥さんが引っ越してきた。

えっ、彼らのストーカーはやめたんじゃなかったの?



END



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