影響 ※複数視点

「おい、あれ・・・身能じゃね!?雄英の!」

「本当だ!生で見るとマジでかわいいな・・・」


多古場会場に到着し、バスを降りてまず聞こえてきたのは、そんな浮ついた声だった。
他校生たちの熱い視線の先にいるのは、自慢の友――我らが身能 強子である。そのことに、八百万は誇らしげに笑みを浮かべた。
強子は、見た目はもちろん、その内面も とても愛らしい。けれど、一本芯の通った彼女の性格はむしろ、格好いいという表現が似つかわしいことも、八百万は知っている。
彼女は、とにかく素晴らしい人物なのだ。彼女と過ごす日々は常に刺激に満ちており、新たに気づかされることばかり。
そんな彼女と友人であることに、八百万は誇りすら抱いていた。


「お前、話しかけてみろよ」

「え!?いや・・・話しかけて、みたいけど・・・」


周りから ちらちらと強子に視線が向けられるが・・・当の本人は、そんな視線には気づかず、話し声も聞こえていないようだ。それだけ、“彼”との会話に集中しているのだろう。


「・・・こうして見ると やっぱり風格あるよなぁ、雄英生。俺ら一般人にはちょっと近寄りがたいっつーか・・・」

「だな・・・とくに 身能と爆豪。テレビで見てたせいか、あの二人は別格っていうか・・・二人並んでると圧倒されるよ」


他校生の話に耳をそばだてていた八百万は、途端に不満そうな顔を見せる。
今、強子の横に並んで歩いているのは、爆豪だ。何てことない世間話をして、強子から朗らかな笑みを向けられているのも、爆豪だ。八百万でも耳郎でもなく、爆豪。
それが、まあ、何というか・・・面白くない。
どうも最近、二人の距離が急激に縮まったらしい。喧嘩をするでもなく、二人が普通に接しているのをよく見るようになった。
それ自体はいいことだ。もともと、喧嘩は止めるよう彼女に言い含めていたのは八百万であるし、クラスメイトが仲良くなったのは好ましいこと・・・なのだが、


「(・・・寂しいですわ)」


強子が爆豪に構う時間が増える分、強子が八百万に構う時間は少なくなる。
会場までのバスだって、強子の隣の席を爆豪にとられた。彼女の隣に座りたかった八百万は、バスの車中ずっと、爆豪に恨みがましい視線を送っていたのである。
だって、爆豪ばかりずるいじゃないか。


「緊張してきたァ・・・」

「ちょっと耳郎ちゃん!暗い顔してネガティブなこと言わないの!」


耳郎の呟きに気づいて、強子の意識が爆豪から耳郎へと移ると・・・少しだけ、八百万の胸のつかえが下りた。
冷静になってみると、先ほど他校生の言ったことは確かだと納得する。
強子と爆豪の二人は、人目を引く。二人とも自信にあふれ、堂々と胸を張り かっ歩する様は、きらきらと眩しいものだ。
そんな二人を、不安そうな顔の何人かが「こいつらはいいよな」と羨んでいると、強子が溌剌とした笑顔で応えた。


「そりゃあ、当然でしょ?私たちは 最高峰―――雄英の生徒なんだから。それに、雄英の中でも、特に手厳しい相澤先生のもとで今日までの日々を耐え抜いてきたんだよ?私たち1−Aが 負けるわけないじゃん!」


ほぅ、と思わず感嘆のため息が漏れる。
なんて頼もしいクラスメイトなのだろうか。彼女の言葉には説得力があって、不思議と、彼女の言うことなら その通りだと思えてくる。
1−Aの誰もが、「私たち1−Aが負けるわけない」という言葉に勇気をもらい、自然と顔つきが明るくなった。


「あら、お噂で聞いていたとおり・・・ずいぶんと高慢な態度ですのね」


―――え?
驚いてそちらを見ると、話しかけてきたのは、印照 才子と名乗る 聖愛学院の生徒であった。強子の知り合いではないようだが、向こうは強子のことを知っているらしい。


「正直申し上げると、あなたの品行は とても“最高峰”の者とは思えません。同じ ヒーローを志す者として、恥ずかしくすら思いますわ」


口調は丁寧でありながら・・・なんとも失礼なことを言ってくれる。
八百万には彼女の態度が信じられないが、しかし、強子に反感を持つのは彼女だけではなかった。他校には聞こえよがしに嫌味を言ってくるような人もおり、同じ ヒーローを志す者として、それこそ遺憾である。


「(強子さんのことを、よく知りもせず・・・!)」


残念なことに、彼女は誤解されやすい人だ。かく言う八百万も、入学時は彼女の人となりを誤解していたし・・・A組には、同じように強子を誤解していたという者が多い。
でも、きっと、彼女のことを知れば、彼女のことを悪く言う人なんていないだろうに―――八百万がそんなことを思っていたときだった。


「いわゆる強子の“元カレ”ってやつです」


移道という 士傑の男子生徒が、爽やかな笑顔でさらりと告げた。
その言葉の意味を理解するのに、時間がかかったが、


「「「・・・はぁあ!?」」」


その場にいたA組全員が、叫んだ。
八百万たちがあっけにとられて固まっていると、強子はその頬を愛らしく染めて、彼と親密に話しはじめた。
その後ろ姿をじっと見つめながら、八百万は再び、ある種の寂しさのようなものを覚える。


「(・・・お付き合いされてた方がいたなんて、初耳ですわ)」


“元カレ”――そんな存在がいたなんて、今まで一度も彼女は言ってくれなかった。
芦戸の提案で恋愛の話題になることは多々あったし、話す機会ならいくらでもあったはず。なのに、そうと匂わせるような発言一つなかった。
ゆえに、強子に交際経験があったなんて知らなかったし、夢にも思わなかった。
私は彼女のことをよく知っている などと、そう自負していた自分が愚かしい。

でも―――恋愛遍歴くらい、友だちに話してくれてもいいのでは!?
過去の交際経験なんて、女子高生にとっては、何にも勝る 重要なトピックじゃないの!?
・・・と、芦戸や葉隠をはじめ、A組女子は静かな怒りを滾らせていた。


「(・・・とはいえ、)」

「男と見りゃあ、ヘラヘラ笑って あちこちにシッポ振ってんじゃねえぞ!!こんの メス犬ッ・・・!」


・・・ここまで怒鳴り散らすのは、さすがにどうかと思う。
青筋を立て、耳が痛くなるほど がなり立てる爆豪に、八百万は軽蔑するような視線を送った。


「言っとくが、色ボケてるような奴は 試験受けてもどーせ落ちんだよ!ここにいても無駄だから とっとと去ねや!クソうぜえ!!」


周囲の他校生らは、爆豪のその言葉を聞くなり、ばつが悪そうにさっと顔を俯けた。その中には、先ほど強子に話しかけようとしていた者たちもいる。
なんとなく、爆豪の意図がわかったような気がしたが・・・それよりも、彼のせいでまた雄英の品位が疑われるのでは と、そちらのほうが気になった。







「しかし―――“21人”とはなァ・・・」


Ms.ジョークが感慨深そうに呟いた。
そして彼女は、観戦席からフィールドを見下ろしている相澤へと声をかける。


「おまえが除籍してないなんて珍しいじゃん・・・それどころか 逆に人数が増えてるって、一体なんの冗談かと思ったぜ!」

「・・・うちには 特例入学者がいるんでな」


雄英高校ヒーロー科は、一クラスを20人で編成される。その規定人数は、ずっと変わることがなかった―――今年、1年A組の21人という特例が現れるまで。
そして・・・体育祭の時期には、相澤の受け持つ生徒がすでに20人揃ってないのも慣例となっていたのに―――もう夏も終わるという今、まだ21人が揃っているなんて。


「気に入ってんだ?今回のクラス」

「別に」

「ブハッ 照れんなよダっセェなァ!付き合おう!!」

「黙れ」


豪快に笑っているジョークは、どうして雄英潰しのことを彼らに教えてあげないのかと 不思議そうにしているが・・・


「別に言わない理由もないが、結局やる事は変わらんからな・・・ただただ 乗り越えて行くだけさ」


―――相澤先生のもとで今日までの日々を耐え抜いてきたんだよ?私たち1−Aが 負けるわけないじゃん!


理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー・・・あいつらなら、それをよくわかっているはずだ。







「我々士傑生は活動時、制帽の着用を義務づけられている。何故か?それは 我々の一挙手一投足が士傑高校という伝統ある名を冠しているからだ」


細い目の士傑生を見据え、上鳴はごくりと唾をのむ。


「これは示威である―――就学時より責務と矜持を涵養する我々と、粗野で徒者のまま英雄を志す諸君との水準差」


ムダに難しい言葉を使うので、上鳴の頭には さっぱり内容が入ってこない。
それに、そいつの個性で切島の体が丸くこねられ 肉の塊になったのだ―――さっそくのピンチに、話どころじゃないっての!


「雄英高校・・・私は尊敬している。御校と伍する事に誇りすら感じ―――とりわけ 身能女史には一目を置いているのだ」

「「は?」」


急に出てきたその名前に、意表を突かれる。


「利発で篤厚、気骨稜稜でありながら・・・天から舞い降りたかのような 醇美な麗姿。彼女は、オールマイトの再来とも謳われる 稀代の英傑である」


要するに、こいつも身能のファンということか。
つーか、身能・・・方々の変な連中から ちょっと引くレベルで好かれてんな・・・。
しかしこうなると、牽制王の爆豪が黙ってないだろう。ついさっきも、「色ボケてるような奴は去ね!」なんて言って、身能を見てた他校生を牽制してたくらいだ。


「性懲りもなく あちこちに色目使って・・・どんだけタラシこみゃあ気が済むんだ?あんの、アバズレ!!」

「・・・いや、“男たらし”だとは思うけど、“アバズレ”は言い過ぎじゃね!?お前ホント、もうちょっと言葉づかいとか態度を改めないと、身能に愛想つかされんぞ?」


理不尽に怒りの矛先を向けられる身能に 思わず同情していると、


「その通りだ―――責務と矜持を具有する身能女史が活躍する傍ら、1年A組(しょくんら)は品位を貶めてばかり・・・特に爆豪、貴様の粗野な言動は 目にあまる」


爆豪よ・・・お前は、方々から同じような理由で嫌われてんな。
そして士傑生の言葉に、怒り心頭だった爆豪は、さらに怒りを滾らせる。


「さっきから ペラペラペラペラと・・・口じゃなくって、行動で示して下さいヨ、先パイ!」

「貴様の存在は彼女に害をなす!ここで手折り、戒めよう!!」


噛みつくような勢いで一喝したのを合図に、二人が激突する―――







「誰が落ちたか通ったか見れないのがもどかしいな・・・」

「ウチの真堂がバックリ割ったせいで余計見づらくなったな」


雄英生を分断するため、彼の揺らす個性で地面をバックリと割ったのだ。おかげで大小の岩塊ひしめくフィールドができあがり、戦況が見づらくなった。


「何?何!?心配してんの!?」

「・・・A組ってクラスをしばらく見ていて、わかったことがある―――連中は気付いてないが、A組はその実、“三人”の存在が大きく作用してる」


茶化すように聞いてきたジョークに、相澤は、いつもの無愛想な口調で語る。


「そのうち二人の仲は 最悪。ガキみてえに対抗心を爆発させてるが・・・いつのまにか 二人の熱は、クラスに伝播していく」


爆豪に緑谷・・・この二人はクラスをまとめるでもないし、中心にいるわけでもない。だがこの二人は、知らず知らずのうち、A組の誰もの心に影響を与えていく。


「そんな二人の小競り合いに、ひっきりなしに巻き込まれては 被爆してる奴がいる。二人からモロに熱をくらったそいつが、クラスに、さらに熱を拡散させていく」


彼女が、本気であいつらに挑むから・・・その本気は クラスに伝播していく。前向きな彼女の姿勢が・・・一歩を踏み出す勇気を、クラスメイトに与えていく。


「妙な事だが、大事の渦中には必ず、この三人の誰かがいるんだ。ジョーク・・・俺は心配じゃない、期待してるんだ―――たとえ傍にいなくても、あいつらの存在が クラスを底上げしてくれている」

「ベタ惚れかよ、キモチ悪ー!」


ジョークはフィールドに向き直ると、「おっ」と声をあげた。控室の前に身能がおり、こちらに向けて手を振っている。
そのドヤ顔から察するに、彼女はもう一次選考を通過したのだろう。まだ通過者はたった三人だというのに、実に優秀なことだ。
ドヤ顔でピースサインを向けてくる身能に、ジョークは笑いながら手を振って返した。


「身能 強子・・・いい子じゃないか。ああいう、居るだけでまわりを明るくする子ってのは いいヒーローになる!実力も申し分ないみたいだし!」


ジョークは笑いまじりにそう言って、控室に入っていく身能の背中を見送った。


「・・・神野のとき、雄英を擁護して マスコミに喧嘩ふっかけてたあの子には驚いたよ」


あのときの彼女の行動は、あらゆる人が、あらゆる意味で驚かされるものだった。
実際、雄英側もかなり驚かされて、その後の謝罪会見の段取りを変えたりとえらい騒ぎだったのだ。まったく、厄介なことをしてくれた。
だが―――


「私も含め・・・教育機関に属する人間は 雄英側の心境もわかるぶん、教師を庇う姿勢を見せた身能には好感を持ってる。全国のプロヒーローたちもまた然り・・・あの怖いもの知らずな性格、いいよなぁ!イレイザーも、あんなかわいい生徒を持って嬉しいだろ?」


ジョークが茶化すように相澤を見やる。どうせまた「別に」と返ってくると思いきや、


「まぁな」


予想だにしなかった、相澤からの素直な返答。ジョークはきょとんと呆けたあと、すっと目を細めて顔をしかめた。


「ベタ惚れかよ、キモチ悪っ!!」







一次選考が始まって早々、傑物学園の生徒の個性によってA組は分断されてしまった。
八百万は、耳郎、蛙吹、障子の三人とともに、クラスメイトたちを探そうと高層ビルの展望室へやってきたのだが・・・そこを他校のチームに狙われた。

耳郎が敵の様子を探っていると、スピーカーから大音量を流され、彼女の個性を封じられる。さらに、敵の狙撃により、展望室の窓にヒビを入れられ、外の様子も見えなくなる。
一番最初に、索敵能力の高い耳郎と障子の個性を封じられた。敵は、完全にこちらの個性を把握して狙ってきているのだと確信する。
その敵の人数も動きもわからない中、耳郎のアンプも敵に破壊されてしまう。


「ことごとく先手を打たれているな・・・」


焦燥したように障子が言う。
敵は確実にこちらの行動を予測してくる。その上で、この周到な作戦ときた。


「(相当に頭の切れる方が 相手の中にいるようですわね・・・)」


さらに、空調から冷気が出てきて、どんどん室温が低下する。
次いで 窓のシャッターを下ろされると同時、非常口の扉を溶接して塞がれた。
閉じ込められた。ただし、一つだけ出入り可能な扉が残されたが・・・扉の先には、間違いなく敵が待ち構えている。迂闊に扉を開けるなんて危険すぎる。


「・・・ケロ」

「どうした 蛙吹!?」


急激に室温が冷えたことで、蛙吹の冬眠準備が始まり、彼女の意識が低迷していく。
彼女を温めてやりたいが、火気を使えばスプリンクラーが作動し、体が濡れて余計に体温を奪われる。電気ストーブの類いも、電源が切られていて使えない。
―――どうしたらいい?
耳郎の片耳が攻撃されて、満足な音響攻撃はできない。
壁を破壊して脱出、なんて容易な方法は、相手も対応済みのはず。


「(考えるのよ、百・・・この状況を打開する方法を!)」


まずは空調をどうにかしないと、寒さにやられてしまう。かなり個性を使うことになるが、粘土をつくって空調を塞ぐか?


「(・・・やはり、何度考えても 同じですわ)」


八百万は体内にある脂質を用いて『創造』するので、物をつくる能力には限界があるが・・・敵は、八百万の個性を使い切らせるつもりで、空調を操作したとしか思えない。
八百万の個性はここで使わず、いざというときのために取っておくべきだ。ならば・・・どうする?


「(こういう時―――轟さんなら、飯田さんなら、緑谷さんなら・・・)」


ふと頭に思い浮かんだのは、爆豪奪還に赴いたときの 緑谷の言葉だった。

―――いてもたってもいられなくなって・・・救けたいと、思っちゃうんだ!


「(!・・・そうよ、救けるのよ!障子さんを!耳郎さんを!蛙吹さんを!!)」


仮免試験うんぬんではなく、まずそれだけを・・・そのことだけを 考える!
すると不思議と、自分のなすべき事が見えてくる。
八百万は可能なかぎり大きく装置を創造すると、耳郎の片耳を繋いで、高周波攻撃を繰り出した。
その反撃で、敵を全員気絶させることに成功した。扉を出てそれを確認し、ほっと息をついて―――


「っ!?」


不意をつかれた。扉の裏に隠れていた人物に背後から引っ張られ、八百万は再び展望室へと引き戻される。


「個性を、防御ではなく攻撃に・・・エリートの雄英が、こんなリスクの高い選択をするなんてね」


八百万を展望室に引き戻したその人物は、扉を閉め、鍵をかけて施錠すると、くるりと八百万に振り返った。
その見覚えのある顔に、はっと目を見開く。
聖愛学院の、印照 才子――試験会場に着いた際、強子に突っかかってきた人物だった。


「・・・いえ、雄英が“エリート”だなんて、過去の話ね。あの身能とかいう 品位の欠片もない女を見れば、雄英生のレベルなんてたかが知れてるわ」


そう嘲笑ったかと思えば、その笑みを崩し、印照は苦々しく吐き出した。


「“最高峰”が聞いて呆れる!絶対に、私のほうが賢く、見目もいいし人望もあるのに・・・!」


印照 才子―――IQ150という優れた知性を持つ彼女の個性は、『IQ』。紅茶を飲むとIQはさらに上昇する。
そんな彼女は、雄英生という理由だけでエリート扱いされている者たちが気にくわなかった。
雄英生は、雄英こそが頂点なのだと自惚れている。雄英生より、自分のほうが頭脳明晰なのに!
なかでも、あらゆるメディアに取り上げられ、話題の中心となっている身能が腹立たしい。何が“期待の秘蔵っ子”か・・・あんな子より、自分のほうがずっと優れているのに!!


「できれば、この手で身能を負かしてやりたかったけど・・・こうなったら、あなただけでも脱落してもらうわ!」

「っ!」


先ほどの反撃で、八百万は個性を使いきっていた。
八百万の体は動かすのも辛いほど疲弊している。だけど、


「(負けてっ・・・たまるものですか!!)」


八百万は、伊達に強子の友だちをやっていない。
病的なまでに負けず嫌いな彼女と 四六時中をともに過ごしているのだ。おのずと、八百万の負けん気も強くなるというもの。
仮免試験うんぬんでもなく、ただ負けないことを・・・目の前の敵に 勝つことだけを考える!
手首から手錠を『創造』して、ボールを近づけてくる印照の手を、自身の手に固定する。


「悪あがきを・・・っ!?」


手の自由を奪うと間髪入れず、印照に足払いをかけて転ばせる。床に倒れた彼女に覆いかぶさり、もう一方の手と両足も押さえ込んだ。
同時に、八百万を助けようと 障子たちが扉をこじ開けて展望室に突入してきた。


「・・・さすがは、雄英―――完敗でしてよ」


状況を把握し、印照は脱力してボールを手放した。
あきらめたように笑みを浮かべている彼女に、八百万が口を開く。


「・・・ご存知ないのですね」

「?」

「あなたが、強子さんに“敵わない”理由ですわ」


強子という人には、品位よりも、見目や人望よりも・・・重んじているものがある。
他人の目にどう映るかなんて、二の次だ。どんなに不利であろうと、最後まであきらめない。限界なんてものは超えていく。そうやって彼女は―――


「強子さんなら、どのような状況だろうと・・・あなたのように、簡単にあきらめたりはしませんわ」


勝利への執念が違う。印照が強子と対決したって、彼女には敵わない。
そう確信しながら、八百万は、印照のターゲットにボールを押し当てた。

―――その後、通過者の控室にて再会した強子に、印照に勝ったことを伝えると、


「何それ 最高ッ!」


くしゃりと それはもう楽しげな笑顔を見せた強子。
一次選考での苦労なんて、一瞬で吹き飛んだ。「さすが 百ちゃん!」と手放しに褒められて、胸が痛いほどに嬉しくなる。
やはり八百万は―――彼女のことが、大好きだ。
彼女に隠しごとがあろうと、知らない面がまだあろうとも。たとえこの先、彼女に好きな人や恋人ができようとも・・・八百万にとって、身能 強子が最高の友だちであることは、揺るぎないのだ。
試験を通して、その事実を再確認した八百万であった。







「ウッソぉ・・・」


細目の士傑生――肉倉 精児の個性で、あの爆豪までもが肉の塊となってしまった。
切島も爆豪もやられ、戦場に一人きりとなった上鳴。めちゃくちゃ心細い。
だけど・・・手元には、爆豪から受け取った 簡易的な手榴弾。
手榴弾をぶん投げ、爆風で肉倉がよろけた位置は、上鳴の狙いどおり―――その勝機を逃さず、上鳴の新たなサポートアイテム、ポインターとシューターを使い・・・肉倉を 狙い撃つ。


「ぐあ!!?」


上鳴の放った電撃が、肉倉に命中した。


「(俺はわかるぜ、爆豪・・・)」


爆豪が肉倉からの攻撃を防ぐ際、でかい爆破じゃなく、わざわざ範囲の狭い新技を連打したのは・・・上鳴や、動けずに転がっている切島を 巻き込まないためなんだろう。
肉倉にやられる直前に 手榴弾を上鳴に託したのも、打開のための冷静な判断。


「ソヤで下水道みてーな奴だけど、割とマジメにヒーローやろうとしてますよ」


粗野だの品位に欠けるだの、さんざんな言われようだけど・・・爆豪は、すげェ奴だよ。
誤解されやすいタチなのも・・・必死に、なりふり構わず、ストイックなまでに“トップヒーロー”を目指してるからこそ、なんだよな。


「それに切島だって・・・友だちのために敵地乗り込むような、バカがつくくらい良い奴なんスよ」


こいつらのイイところも知らないで。一方的に誤解して、上から目線で中傷してきて・・・腹が立つ。

―――人間ってのは・・・誤解と理解をくり返すことで、互いにわかり合える生き物だと思うんだよね

断片的な情報だけ見て、大事なことを見落としたまま 偏った見方をしていると・・・結局は、自分が損をする。誰かを傷つけることだってある。
もし上鳴が、視野広く、相手の気持ちや事情を理解できる奴だったなら・・・上鳴は、身能と仲良くなるのに ここまで苦労しなかったろうさ。


「断片的な情報だけで、知った気になって・・・こいつらをディスってんじゃねえよ!!」


俺は親切だからな。そこの わからず屋なお肉センパイにも教えてやる!


「そんなんじゃ、身能に嫌われんぞ!!」

「っ!」


肉倉のお気に入りらしい “身能”の名を出せば、彼はその糸目をぐっと吊り上げ、怒りをあらわにした。


「立場を自覚しろという話だ、馬鹿者が!!」


肉倉は上鳴に仕掛ける動きを見せた・・・が、肉塊状態から復活した切島と爆豪から一発お見舞いされて、肉倉は敗れた。


「ありがとな、上鳴!!」

「遅ぇんだよ、アホ面!!」


爆豪・・・一応、助けられた立場のはずだよね?それなのに、この言いぐさ!?


「ひでえな!!やっぱディスられても仕方ねぇわ お前!ついでに 身能にフられても仕方ねぇよ!!」







一次選考が始まってしばらく経ち、轟も そろそろ動こうかと考えていたところ、何者かからの奇襲を受け、轟はとっさに氷壁を出して防御する。


「さすがは雄英体育祭 準優勝者の・・・轟くんだっけ?しっかし、一人で行動するなんて凄いねぇ!余裕ありまくり」

「でもさぁ、いくら雄英だからって・・・一人はまずいっしょ!」


あっという間に、他校生の集団に囲まれた。
多対一、それも向こうはこちらの個性を把握し、熱に強い金属を武器に使用したりと イヤな対策を練ってくる。
ヒヤリと肝が冷えた場面もあったが、轟はフィールドをうまく利用することで、敵を一斉制圧した。


「(ああ、こいつら・・・)」


敵のターゲットにボールを当てながら、どうにも見覚えある奴らだと思えば・・・試験会場に着いてすぐ、身能に突っかかっていた奴らだ。
身能はどこにいても よく目立つ。だから余計に、彼女は他者と衝突することが多いのかもしれない。
はたして彼女は、この一次試験を無事に通過できるんだろうか・・・

彼女のことを心配しつつも控室に到着してみると―――彼女はすでに控室にいて、他校の生徒らと談笑していた。そのくつろいだ様子を見るに、彼女の通過は 轟よりも相当早かったんだろう。
身能を見つけた轟の足は、半ば当然のように彼女のもとに向かっていたのだが・・・ふいに、その足が止まる。
轟の視線の先には、士傑の―――移道 瞬とかいう奴。
そいつは、身能にとって・・・“彼氏”という、特別な存在であったと聞く。
身能と移道が、楽しそうに話しているのを見て、轟の表情がわずかに曇る。


「(・・・・・・なんか、いやだな・・・)」


漠然と覚えた、“いや”という感覚。
何がどう“いや”なのかは、自分でもよくわからない。ただ・・・あの二人を見ていると、どうにも、もやもやと 胸がざわついて仕方ない。みぞおちのあたりが 気持ち悪い。ムカムカする―――


「(もしかして、俺の体 どこか悪いのか・・・?)」

「あっ、轟くん」


轟に気づいた身能が声をあげた。
その声に呼応するよう、轟は止まっていた足を再び動かして 身能との距離を縮めていく。
すると、彼女の隣に立っていた移道がちらりと轟のほうに視線を向け・・・かと思えば、すぐに視線を身能へと戻した。轟には一切の興味を示さず、ずいぶんと邪険な態度である。


「(つーか、コイツ・・・いつまでここにいんだ?)」


轟が来たというのに、いっこうに身能の隣から動く気配のない移道に、ムッとする。
普段、身能の隣にいる機会が多く、そこが定位置のようにさえ感じていた轟にとって・・・移道の態度は、なんとも不愉快なものであった。
なぜだろう―――身能の隣にいるのが 八百万や耳郎だったなら、こんなにも気が立ったりはしないのに。
そういえば 会場までのバスで、身能の隣の席をとられ、爆豪に恨みがましい視線を送ったりもしたが・・・その時だって 今ほどの不快感はなかったと思う。


「一次選考通過 おめでとう、轟くん」

「・・・ああ。身能もな」


身能のねぎらいの言葉に、少しだけ気持ちが楽になる。
けれど・・・あいかわらず、移道はニヤけた顔で身能を見たまま、そこを退かない。その横顔からは、「お前は邪魔だからどっか行け」とでも言いたげなオーラが出ている気がする。


「(・・・ムカつく)」


身能の一番の友だちは、俺なのに。
まぁ、八百万たち 女子には敵わない部分もあるだろうが・・・少なくとも、男の中では、身能と一番近しいのは自分だと自負していた。
けれど―――彼女にとって特別な存在であった移道は、轟なんかより、もっとずっと近い存在なのかもしれない。
きっと身能には、移道にしか見せない姿があって・・・移道は、轟の知らない身能を知っている。
そう考えて、ただただ“いや”な感情ばかりが轟の中で燻ぶっていく。


「“元カレ”とか、過去の話じゃん!」

「!」


爆豪から「色ボケ女」と揶揄されて、憤慨した彼女が一蹴した。
彼女の言葉に、はたと ひらめいた。
そうか、“過去”なんだ・・・身能にとって移道が“特別”な存在であったのは、“過去”の話なのだ。“今”ではない。それなら、“今”、身能にとっての一番は、轟のはずだ―――そんな 安い優越感に浸っていたときだった。


「っ、に、してんだゴラぁ!」


なんの前触れもなく 唐突に、士傑の女子生徒から口づけされた身能。
瞬間、頭がまっしろになる。いったい何が起きているのかと戸惑い、動揺した。でもそれ以上に、轟が衝撃を受けたのは、


「あなたっ!何をなさっているのですか!!」

「何してるんですか ケミィさん・・・ちょっと、こっちに来てください」


身能の前に立ちふさがり、目をつり上げてを士傑生を睨む八百万と・・・士傑生の前に立ち、低い声で相手を諌める移道だった。
二人が身能のため、間髪入れずに行動を起こす中、自分はただ見ていただけ。
出遅れたのだ・・・“負けた”と、思わずにはいられない。何が、“一番の友だち”だよ。
俺が身能にとっての一番などと、そう自負していた自分が愚かしい。

それでも―――


「身能、俺も行く」


最終選考の最中、A組の集団から離れようとする身能に、無意識のうち そう声をかけていた。
身能は轟に視線を向けると、表情をくずし、安心したような、信頼しきったような・・・そんな いつもと変わらない笑顔を轟に見せた。
胸が、きゅうと切なく締め付けられる。
ああ・・・彼女が自分に向ける、その表情が好きだ。彼女と過ごしている時間が、好きだ。
やはり轟は、身能 強子という友人が、好きなんだ。
たとえ、八百万や移道に敵わないとしても・・・彼女から離れたくない、そう思った。

―――身能とのチームアップは、なかなかに順調であった。
採点基準は明かされていないが、この調子でいけば、おそらく二人は合格圏内に入るだろう。
そんな折、怪我人を救護所まで連れていく必要性が出てきた。
いったん身能と離れることになるが、自分が怪我人を運び、索敵能力のある彼女は捜索を続けるのが効率的だろう。


「やあ、お困りの様子だね」


呼んでもいないのに、突如として現れた移道。まるでヒーローのごとく 身能に手を差し伸べるそいつを見て、轟は眉を寄せた。
そして、身能が移道に躊躇いなくに頼ったのも、どうにも面白くない。
その不満が尾を引いたまま・・・その後も、要救助者の搬送を彼に任せながら、“三人”で救助活動を続行していた。


『ヴィランが姿を現し、追撃を開始!現場のヒーロー候補生は、ヴィランを制圧しつつ、救助を続行してください!』


爆発音と、そのアナウンスがフィールドに響く。
轟と身能は、瞬時に顔を見合わせ、


「轟くんは先に行ってて!私は この区画の捜索を終えてから向かう!」

「・・・一人で平気か?」


身能の案が正しいと思うが・・・身能を一人にするのが不安でもあった。先ほどの、士傑の女生徒との一件もある・・・。
けれど彼女は胸を張り、轟に笑顔を向ける。


「うん、大丈「俺もいるから、大丈夫!」


唐突に、轟と身能の間に 移道が『瞬間移動』で割り込んできたもので、轟はくしゃりと顔をしかめた。
移動してきた位置、タイミング・・・身能との会話を邪魔しようと、わざとやっているとしか思えない。
移道の姿が被って、身能の笑顔も見えなくなったぞ。


「俺たちは救助を続行して、範囲制圧に長けた轟は ヴィラン制圧に向かう、ってのが効率いい筋書きだと思うんだけど」


そんなこと、言われなくとも理解している。
移道の言葉は、いちいち癪にさわる。轟を追いやろうとするような申し出にも、“俺たち”と 移道と身能をセットにしたような言い方にも、イライラさせられる。







「ヴィラン乱入とか!なかなか熱い展開にしてくれるっスね!」


ギャングオルカと対峙していると、凄まじい烈風とともに、坊主頭の士傑生――夜嵐が現れた。
彼は轟に気づいて、ムッと顔を険しくさせた。その失礼な態度に、轟のほうも思わずムッとする。


「あんたと同着とはな・・・エンデヴァーの息子さん」


夜嵐はやけに轟に突っかかり、あれこれと勝手なことを言ってくれる。
轟の目が、父親の目と“同じ”だ?エンデヴァーの息子だから、他人の手柄を邪魔している?
どうにも士傑生ってのは、轟のカンにさわる奴ばかりだ。
そのうえ個性まで、轟の炎と夜嵐の風が邪魔しあって、相性最悪。
もういい、付き合うな・・・

―――あの人、轟くんにイヤな態度をとるかもしれないけど、気にしないほうがいいよ

身能の言う通りだ。こいつはよくいる エンデヴァーのアンチにすぎない。試験に集中しろ。


「俺は あんたら親子のヒーローだけは、どーにも認められないんス!」


気を荒立てるな・・・親父のことは、もう乗り越えた―――

―――エンデヴァー絡みで何か言われても、相手にしたらダメだよ!

そうだ。相手にするだけ無駄だ。
冷静になって、ヴィランが撃ってくるセメントガンを避けながら、どうすればギャングオルカに勝てるかを考えていると、


「―――あんたはっ・・・身能さんの隣にいるべきじゃない!瞬のほうがずっと、身能さんとお似合いだ!」


それを聞いた瞬間・・・移道と身能の二人が 仲睦まじく話している姿が脳裏をかすめる。


「―――さっき・・・から・・・何なんだよ」


ダメだ・・・試験に集中しろ。
余裕なく、自分の感情を消し去るように・・・ギャングオルカに向けて炎を放った轟は、夜嵐が同時に風を放っていたことに気づかなかった。
そうなると、風のせいで巻き上げられた炎はコントロールを失い・・・他校の生徒がいる方へと向かっていく。


「何を してんだよ!!」


あわやというところで彼を救けた緑谷に叱咤され、ようやく熱が引き、轟の頭は冷静さを取り戻す。
そして思い出した――入試時に、夜嵐に会っていたことを。夜嵐を“邪魔だ”とあしらい、彼を見ようともしなかった 過去の自分を。


「(・・・見てなかったんだな、本当に)」


ずっと、“エンデヴァーを否定するために”・・・ただ それだけだったから。
体育祭以降、ウヤムヤにしたまま過ごしてきた・・・それが、ここで来るのかよ。
過去も、血も。忘れたままじゃいられない。背負った過去は、忘れていたって、切り離せやしないのだ。


「自業自得だ」


ギャングオルカの超音波攻撃を受け、地面に倒れこむ。夜嵐も攻撃を受け、地面に転がっている。
するとヴィランたちは、これ幸いと救護所の方に向かっていく。
―――本当に、何をやっているんだか。自分のしてきたことが招いた事態だ。自分が、取り返さないと・・・!
轟と同じように、失敗を挽回しようとする夜嵐と組んで、ギャングオルカを炎と風で囲み、熱風牢獄をつくりあげる。
麻痺して体が動かない状態で、最大限を尽くした。しかし、


「並のヴィランであれば、諦め・・・泣いて許しを乞うだろう。ただ、そうでなかった場合は?撃った時には既に、次の手を講じておくべきだ」


炎の中から、ギャングオルカの声が聞こえた。
次の瞬間、キンッと衝撃が走り、炎の渦が一瞬のうちに消された。


「―――で? 次は?」


ねェよ。
為すすべのない轟の視界に・・・高く飛び上がる身能の姿が映った。


「二人からっ、離れろっ!!」


イキイキとした表情を携えた身能が、ギャングオルカに向け、凄まじいパワーでパンチを放つ―――彼女の放つ気迫は、どこか、緑谷が超パワーを発揮するときのそれを彷彿とさせた。
身能のパンチはギャングオルカに防がれたが、そこへ畳みかけるように緑谷が蹴りを入れる。


「(おまえらは・・・どこまでも・・・!!)」


この二人には いつだって、救けられてばかりだ。
過去にとらわれ、視界が狭まっている轟の視野を広げてくれる。
過去を引きずり、前へ進めずにいる轟の背を支え・・・足を踏み出す勇気をくれる。


「身能さん、大丈夫っ!?怪我はない?」


試験が終了すると 真っ先に身能のもとへ駆け寄る緑谷を、目で追った。
轟は、身能を救けるどころか、身動き一つとれず・・・むしろ救けてもらう立場であった。そんな自分には、緑谷のように 彼女の隣に立つ権利はないのかもしれない。
それに、せっかく彼女が忠告してくれたのに、結局は夜嵐と衝突してしまった手前、彼女に合わせる顔もない。

仮免試験の結果は―――不合格。当然の結果だった。
だが、ありがたいことに、不合格者にもまだチャンスが残っていると聞き、目の前に一筋の光が差したような気がした。
そんな轟の肩に、ぽんと優しく手を乗せられる。


「やったね轟くん!!」


ほっとしたような笑顔で、身能が轟を見つめる。
不思議だよな・・・彼女の笑顔を見るだけで、こんなにも心が軽くなるなんて。彼女が一言くれるだけで、前向きな気持ちになれるなんて。
ああ・・・やっぱり、俺は―――


「すぐ・・・追いつく・・・」


自信をもって、身能の隣に立てるように。
身能の隣にいても、誰にも文句を言われることのないように。
まずは 出遅れた分を早急に取り戻さねばと、轟は固く決意した。







「いやぁー!雄英・・・皆、熱い人たちだったな!!」


試験会場からの帰り道。
夜嵐の感心したような声を聞くなり、移道は、不味いものでも食ったかのような顔になって・・・ガバッとその場にしゃがみこんで頭を抱えた。


「あぁーっ!もうッ・・・クッソー!!なんなんだよ、手強いんだよ!雄英生ぇ!!」

「うおっ、瞬!!?」


強子がモテるのは知ってた。
彼女はそのカリスマ性で、人々の心を惹き付けて放さない。
実際、職場体験で目覚ましい活躍を見せた彼女は、多くの者の関心を引き、関西圏の彼女のフォロワーはかなりの数だ。
影響を受けやすい肉倉も、見事に強子沼にハマっている。
・・・現見の件は、想定外。だけど、確かに強子は同性からもよくモテる。
そう・・・ライバルが多いことは、わかっていた。

でも―――雄英体育祭の優勝者とか、現No. 1ヒーローの息子とか・・・ライバルが 手強すぎるんだよ!自分のような凡人じゃ 太刀打ちできる気がしない。


「だいたい、強子も 強子だっ!」


再会したら、見違えるような成長を彼女に見せつけてやろうと、血ヘドを吐くほど努力を重ねてきた。
なのに、彼女自身の成長ぶりが凄すぎて、移道の成長ぶりが霞んでるじゃないか!
それに移道は、強子より“先に”仮免をとりたかったのだ。だから、通常二年生が受ける仮免試験を嘆願したというのに・・・まさか、雄英一年も同時に試験を受けるとは。


「雄英生・・・やっかいな奴らだよ、まったく!」


苦々しく顔をしかめ、やっかいなライバルたちにどうすれば勝てるか、計略をめぐらす。次こそは、あいつら全員、あっと言わせてやるぞ!
そんな移道を見やり、夜嵐は屈託なく笑った。


「瞬のそーいう熱いトコ、俺は好きだぞ!いつか身能さんもわかってくれるといいな!!」










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仮免試験編、他者視点のお話でした。
どの視点でも、夢主の存在がどう影響してるのか、ってのを意識して書いてます。

まず確実に、うちの百ちゃんは原作よりアグレッシブになってますね。精神的にも、戦い方でも。
印照才子ちゃんとの話ですが、楽しくて書きすぎちゃいました。
他校生の中には、雄英を受験して落ちた人がたくさんいそうですよね。そういう人は、仮免試験の会場で雄英生を見たら、やっぱり嫉妬しちゃうんじゃないかと思うんです。
慣習となってる“雄英潰し”って、きっとそういう感情も絡んでるんでしょう。

そして轟くんは・・・あと少しで何かに気づきそうなんですが、今は仮免試験落ちたことのほうがインパクトが大きく、今回は気づかないまま現状維持となったようです。


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